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トーム攻略編
第65話 僅かな光明
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「はぁはぁ」
ケンプフはタイダルウェーブを唱えた直後にそのまま地面へと倒れ、浅い呼吸を繰り返していた。
ラネッサの悲鳴が耳に入ったことで、辛うじてラネッサを退けたことを知ったケンプフは満身創痍の身体にありながら小さい笑みを浮かべる。
しかしラネッサが津波に飲み込まれているのを見ていたラネッサの部下達が、目の前で力なく倒れているラネッサの仇を放っておくわけがなかった。
「ラネッサ様の仇だ!」
「あの倒れている男を殺せ!」
津波が治まったのを確認した帝国兵達は雄叫びを挙げながらケンプフへと迫っていく。
「ケンプフさんを守れ!」
「お前ら行くぞ!」
それを見たケンプフの部隊がケンプフを守ろうと帝国兵に立ち塞がる。
城壁前で激突する両軍。
顔を上げることが出来ず、何が起きているのか理解出来ていないケンプフの元に部下である兵士が肩を貸しにくる。
「ケンプフさん。兵士達が時間を稼いでいる間に後方へ下がりましょう。」
兵士に肩を貸されて初めて目の前で両軍入り乱れる戦いが繰り広げられていることに気付くケンプフ。
ケンプフの部隊は主に人間の兵士により構成されている部隊である。
実は獣人の傘下に入ることを酷く嫌っていた一部の兵士達はケンプフの部隊に入ることを大地に希望していた。
それによりケンプフの部隊は人間で構成された新兵ばかりの部隊になってしまっていた。
もちろんフィアや戦闘経験のある獣士団の一部もケンプフの部隊に入ってはいるのだが、獣人を毛嫌いしている新兵達と上手く連携をとることが出来ず、現在獣士団員はフィアに付いていってしまっていた。
戦闘経験豊富な帝国兵の部隊と今回の戦争がデビュー戦となる新兵では、実力の違いは一目瞭然であり、瞬く間に帝国兵に切られていく新兵達。
その様子を見ていたケンプフは自分を置いて、フィアの部隊と合流するように指示を出す。
「このままでは全滅する。私のことはいいからお前達はフィアの部隊と合流しろ!」
「そんなことは出来ません。ケンプフさんは人間の兵士である我らの希望なのです。」
「希望?」
「そうです。今回人間の中で部隊の隊長、副長に任命されたのは犬斗さんとケンプフさんの二人しかいません。ケンプフさんがいなくなると更に獣人達が幅を利かせることになってしまいます!」
ケンプフは人間との戦時中にあるにも関わらず、部下の兵士が味方である獣人を差別する発言をしていることに大きく顔を歪ませていた。
ケンプフは自分が人間の兵士達から慕われているのは知っていた。
しかし自分を慕ってくれている理由がまさか獣人への差別から来ているとは思いもしなかった。
そんなことにも気付けない程平和ボケしていたのかと自分を責めながら意識を失っていくケンプフ。
「ケンプフさん! しっかりして下さい!」
兵士は何度もケンプフの身体をゆすりながら声をかけるが、ケンプフは顔面蒼白のまま動かない。
兵士が諦め、ケンプフに声をかけるのをやめようとした時、頭上から青緑色の液体がケンプフに降りかかりケンプフを包んだ。
兵士はケンプフが敵の攻撃を喰らったのだと思い、急いで青緑色の液体からケンプフの身体を引きずり出そうとする。
その時、兵士の行動を制止する言葉が上空より響いた。
「何をしておる! ケンプフを死なせたいのか!」
その声に驚き上空を見上げる兵士。
そこには黒い翼を広げながら上空より降りてきているリリスの姿があった。
急に降りて来た獣人に怪訝そうな顔を見せる兵士。
リリスはそんな兵士には目も暮れずケンプフの容態の確認を行う。
「この馬鹿が。足りない魔力を生命力で補うなど・・・」
衰弱が進んでいるケンプフを見て眉をしかめるリリス。
「だがまだこの状態であれば私のポーションを全身に巡らせればなんとかなるはず。」
リリスは八咫烏を使ってケンプフの全身にポーションを行き渡らせていく。
リリスがケンプフの治療を進めていると後ろから焦った様子で走ってくるドグマの姿が見えた。
「おいリリス! 急に飛び立つとか勘弁してくれ。 お前の護衛として副長を命じられた俺の身にもなってくれよ!」
リリスの元まで辿りついたドグマは怒った様子でリリスに文句を投げかけようと詰め寄るが、ケンプフの姿を見た瞬間神妙な顔つきに変わる。
「治療にどれくらいかかりそうだ?」
「十分程度は欲しいところだな。」
「わかった。ならその時間稼ぎは俺がしてやるから。お前は治療に専念してくれ。」
「別にお前の力を借りずとも私一人でどうにか出来るがな。」
「ったく。お前はいつも一言多いんだよ!」
ドグマはリリスに日頃の文句を一言告げると、背中に背負った熊樫を前方に構え、新兵と戦う帝国兵に向かって突撃していく。
「新兵ども! 巻き込まれたくなかったら、さっさと後方に下がれ!」
帝国兵を蹴散らしながら新兵達に指示を飛ばすドグマ。
自分達が苦戦していた帝国兵がいとも簡単に宙へと舞っている姿を見た新兵達はドグマの指示通り後方に下がって待機を始める。
ドグマは新兵達が下がったのを確認すると、帝国兵を蹴散らしながら帝国兵に切られた負傷兵を鷲掴みにした。
「おいお前ら! しっかり受け止めろよぉ!」
ドグマは後方に待機している新兵に負傷して動けない味方を次々と投げていく。
綺麗な放物線を描きながら宙を舞う負傷兵。
新兵達は慌てながらも負傷兵を受け止めるが、その負傷兵をどうしたら良いのかわからず、困惑した様子を見せる。
「味方が死んでもいいのかお前達は! 負傷した味方は城壁に沿って並ばせ、このポーションを飲める奴には飲ませ、飲めない奴は傷口にかけろ!」
リリスから怒号のような指示が飛ぶと、困惑していた新兵達もリリスの言う通りに行動を始める。
新兵達が負傷兵の治療にあたりだした頃、リリスの治療のかいもあり、ケンプフが目を覚ます。
「あれ・・・俺は死んだはすじゃ。」
「死んだ方が良かったのか? ならこのポーションをかけれ―――――」
「そんな訳ないだろ! ってリリス? 君が助けてくれたのか。」
「礼を言うならば大地にしろ。私は大地からの指示に従ったに過ぎない。」
「大地が・・・そうか。それでもリリスのおかげで助かったことに変わりはない。ありがとうリリス。」
「もう動けるのか?」
「あぁおかげで直ぐにでも戦える程度にまでは回復している。」
「そうか。ではあそこで慌てふためいている奴らの指揮を任していいか?」
リリスは負傷兵の治療も満足に行えていない新兵達をケンプフに任せると、負傷兵の治療を始めた。
ケンプフが戦場に目を移すとドグマが一人で多数の帝国兵を相手にしている姿が見えた。
負傷兵の治療を進めるリリスと一人で帝国兵と戦っているドグマ。
二人の姿を見たケンプフは後方で待機するしか能のない新兵達に声をかける。
「お前達はお前達が獣人と蔑んでいた者達のおかげで今生きている。この状況でもまだ獣人と共闘は出来ないと言えるのか?」
ケンプフの問いに顔をうつむかせる新兵達。
「獣人達はお前達が獣人を蔑んでいるからといって見捨てたりするどころか、こうして俺達の窮地を救ってくれている。もしこの現状を見て何も感じないのであれば、その者は今すぐペンタゴンから出ていけ。」
急に雰囲気の変わったケンプフからの言葉に驚きを隠せない新兵達。
ケンプフの言葉を聞いた新兵達は再度リリスとドグマに目を向けた。
「そうだ。熊のおっさんがいなければ俺達は死んでいたかもしれない。」
「あの黒鳥の女がいなければ、あいつらも死んでた。」
ケンプフの呼び掛けにより、新兵達の獣人に対しての認識に少しずつ変化が現れる。
その様子を感じ取ったケンプフは新兵達を鼓舞するように声を張り上げる。
「お前達の中で少しでも獣人を認める気持ちがある者は俺に続け!」
ケンプフは声を張り上げるとドグマと戦う帝国兵目掛けて走り出した。
その様子を見ていた新兵達もケンプフに感化されるように声を張り上げる。
「熊のおっさんを援護しろ!」
「黒鳥の女の治療を邪魔させるな!」
新兵達全員が付いて来ているのを見たケンプフはふと教会で大地の言っていた言葉を思い出した。
『人間も獣人も他の種族もお互いに尊重し合える国を作るのもありだな。』
大地の発言を最初は冗談として受け取っていたケンプフ。
しかしドグマを援護しようと全力で帝国兵に切りかかっている新兵達の姿を見たケンプフは、そんな夢物語のような国もそう遠くない未来に出来るのかもしれないと感じるのであった。
ケンプフはタイダルウェーブを唱えた直後にそのまま地面へと倒れ、浅い呼吸を繰り返していた。
ラネッサの悲鳴が耳に入ったことで、辛うじてラネッサを退けたことを知ったケンプフは満身創痍の身体にありながら小さい笑みを浮かべる。
しかしラネッサが津波に飲み込まれているのを見ていたラネッサの部下達が、目の前で力なく倒れているラネッサの仇を放っておくわけがなかった。
「ラネッサ様の仇だ!」
「あの倒れている男を殺せ!」
津波が治まったのを確認した帝国兵達は雄叫びを挙げながらケンプフへと迫っていく。
「ケンプフさんを守れ!」
「お前ら行くぞ!」
それを見たケンプフの部隊がケンプフを守ろうと帝国兵に立ち塞がる。
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「ケンプフさん。兵士達が時間を稼いでいる間に後方へ下がりましょう。」
兵士に肩を貸されて初めて目の前で両軍入り乱れる戦いが繰り広げられていることに気付くケンプフ。
ケンプフの部隊は主に人間の兵士により構成されている部隊である。
実は獣人の傘下に入ることを酷く嫌っていた一部の兵士達はケンプフの部隊に入ることを大地に希望していた。
それによりケンプフの部隊は人間で構成された新兵ばかりの部隊になってしまっていた。
もちろんフィアや戦闘経験のある獣士団の一部もケンプフの部隊に入ってはいるのだが、獣人を毛嫌いしている新兵達と上手く連携をとることが出来ず、現在獣士団員はフィアに付いていってしまっていた。
戦闘経験豊富な帝国兵の部隊と今回の戦争がデビュー戦となる新兵では、実力の違いは一目瞭然であり、瞬く間に帝国兵に切られていく新兵達。
その様子を見ていたケンプフは自分を置いて、フィアの部隊と合流するように指示を出す。
「このままでは全滅する。私のことはいいからお前達はフィアの部隊と合流しろ!」
「そんなことは出来ません。ケンプフさんは人間の兵士である我らの希望なのです。」
「希望?」
「そうです。今回人間の中で部隊の隊長、副長に任命されたのは犬斗さんとケンプフさんの二人しかいません。ケンプフさんがいなくなると更に獣人達が幅を利かせることになってしまいます!」
ケンプフは人間との戦時中にあるにも関わらず、部下の兵士が味方である獣人を差別する発言をしていることに大きく顔を歪ませていた。
ケンプフは自分が人間の兵士達から慕われているのは知っていた。
しかし自分を慕ってくれている理由がまさか獣人への差別から来ているとは思いもしなかった。
そんなことにも気付けない程平和ボケしていたのかと自分を責めながら意識を失っていくケンプフ。
「ケンプフさん! しっかりして下さい!」
兵士は何度もケンプフの身体をゆすりながら声をかけるが、ケンプフは顔面蒼白のまま動かない。
兵士が諦め、ケンプフに声をかけるのをやめようとした時、頭上から青緑色の液体がケンプフに降りかかりケンプフを包んだ。
兵士はケンプフが敵の攻撃を喰らったのだと思い、急いで青緑色の液体からケンプフの身体を引きずり出そうとする。
その時、兵士の行動を制止する言葉が上空より響いた。
「何をしておる! ケンプフを死なせたいのか!」
その声に驚き上空を見上げる兵士。
そこには黒い翼を広げながら上空より降りてきているリリスの姿があった。
急に降りて来た獣人に怪訝そうな顔を見せる兵士。
リリスはそんな兵士には目も暮れずケンプフの容態の確認を行う。
「この馬鹿が。足りない魔力を生命力で補うなど・・・」
衰弱が進んでいるケンプフを見て眉をしかめるリリス。
「だがまだこの状態であれば私のポーションを全身に巡らせればなんとかなるはず。」
リリスは八咫烏を使ってケンプフの全身にポーションを行き渡らせていく。
リリスがケンプフの治療を進めていると後ろから焦った様子で走ってくるドグマの姿が見えた。
「おいリリス! 急に飛び立つとか勘弁してくれ。 お前の護衛として副長を命じられた俺の身にもなってくれよ!」
リリスの元まで辿りついたドグマは怒った様子でリリスに文句を投げかけようと詰め寄るが、ケンプフの姿を見た瞬間神妙な顔つきに変わる。
「治療にどれくらいかかりそうだ?」
「十分程度は欲しいところだな。」
「わかった。ならその時間稼ぎは俺がしてやるから。お前は治療に専念してくれ。」
「別にお前の力を借りずとも私一人でどうにか出来るがな。」
「ったく。お前はいつも一言多いんだよ!」
ドグマはリリスに日頃の文句を一言告げると、背中に背負った熊樫を前方に構え、新兵と戦う帝国兵に向かって突撃していく。
「新兵ども! 巻き込まれたくなかったら、さっさと後方に下がれ!」
帝国兵を蹴散らしながら新兵達に指示を飛ばすドグマ。
自分達が苦戦していた帝国兵がいとも簡単に宙へと舞っている姿を見た新兵達はドグマの指示通り後方に下がって待機を始める。
ドグマは新兵達が下がったのを確認すると、帝国兵を蹴散らしながら帝国兵に切られた負傷兵を鷲掴みにした。
「おいお前ら! しっかり受け止めろよぉ!」
ドグマは後方に待機している新兵に負傷して動けない味方を次々と投げていく。
綺麗な放物線を描きながら宙を舞う負傷兵。
新兵達は慌てながらも負傷兵を受け止めるが、その負傷兵をどうしたら良いのかわからず、困惑した様子を見せる。
「味方が死んでもいいのかお前達は! 負傷した味方は城壁に沿って並ばせ、このポーションを飲める奴には飲ませ、飲めない奴は傷口にかけろ!」
リリスから怒号のような指示が飛ぶと、困惑していた新兵達もリリスの言う通りに行動を始める。
新兵達が負傷兵の治療にあたりだした頃、リリスの治療のかいもあり、ケンプフが目を覚ます。
「あれ・・・俺は死んだはすじゃ。」
「死んだ方が良かったのか? ならこのポーションをかけれ―――――」
「そんな訳ないだろ! ってリリス? 君が助けてくれたのか。」
「礼を言うならば大地にしろ。私は大地からの指示に従ったに過ぎない。」
「大地が・・・そうか。それでもリリスのおかげで助かったことに変わりはない。ありがとうリリス。」
「もう動けるのか?」
「あぁおかげで直ぐにでも戦える程度にまでは回復している。」
「そうか。ではあそこで慌てふためいている奴らの指揮を任していいか?」
リリスは負傷兵の治療も満足に行えていない新兵達をケンプフに任せると、負傷兵の治療を始めた。
ケンプフが戦場に目を移すとドグマが一人で多数の帝国兵を相手にしている姿が見えた。
負傷兵の治療を進めるリリスと一人で帝国兵と戦っているドグマ。
二人の姿を見たケンプフは後方で待機するしか能のない新兵達に声をかける。
「お前達はお前達が獣人と蔑んでいた者達のおかげで今生きている。この状況でもまだ獣人と共闘は出来ないと言えるのか?」
ケンプフの問いに顔をうつむかせる新兵達。
「獣人達はお前達が獣人を蔑んでいるからといって見捨てたりするどころか、こうして俺達の窮地を救ってくれている。もしこの現状を見て何も感じないのであれば、その者は今すぐペンタゴンから出ていけ。」
急に雰囲気の変わったケンプフからの言葉に驚きを隠せない新兵達。
ケンプフの言葉を聞いた新兵達は再度リリスとドグマに目を向けた。
「そうだ。熊のおっさんがいなければ俺達は死んでいたかもしれない。」
「あの黒鳥の女がいなければ、あいつらも死んでた。」
ケンプフの呼び掛けにより、新兵達の獣人に対しての認識に少しずつ変化が現れる。
その様子を感じ取ったケンプフは新兵達を鼓舞するように声を張り上げる。
「お前達の中で少しでも獣人を認める気持ちがある者は俺に続け!」
ケンプフは声を張り上げるとドグマと戦う帝国兵目掛けて走り出した。
その様子を見ていた新兵達もケンプフに感化されるように声を張り上げる。
「熊のおっさんを援護しろ!」
「黒鳥の女の治療を邪魔させるな!」
新兵達全員が付いて来ているのを見たケンプフはふと教会で大地の言っていた言葉を思い出した。
『人間も獣人も他の種族もお互いに尊重し合える国を作るのもありだな。』
大地の発言を最初は冗談として受け取っていたケンプフ。
しかしドグマを援護しようと全力で帝国兵に切りかかっている新兵達の姿を見たケンプフは、そんな夢物語のような国もそう遠くない未来に出来るのかもしれないと感じるのであった。
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