上 下
53 / 131
トーム攻略編

第53話 きたる戦争に向けて

しおりを挟む
聞き慣れない単語を聞いて、思わず呆けた声を漏らしたヘイデン。

大地はノルヴェス領地の住人の人数についてヘイデンから聞き出す。

ヘイデンは兵士を含めて約十五万人程だと大地に告げると、大地はヘイデンを車に乗りこませてペンタゴンの出入り口に向かった。

「大地殿?」

「戦争がもうそろそろ始まるなら出来るだけ早くこちら側に連れてきた方が良いだろ?」

大地はヘイデンにニヒルな笑みを向けると、ペンタゴン出入り口に建てられた大型の車庫のような所に連れていく。

何もわからないヘイデンは困惑しながら大地の後をついていくと、車庫に並べられた大型バスの姿が目に入った。

「これは・・・・?」

「これがバスだ。これは大人数を運ぶ為に作った乗り物で、運搬速度は馬車の比にならない。これなら何回か往復するだけで全員の運搬も可能だろう。」

ヘイデンは見た事もない大きな金属の塊を目にして、思わず大きく口を開ける。

いつもそうだが、この世界の人間は何故毎回こんなに飽きもせずに驚けるのだろうか・・・。

大地は驚いた表情を浮かべるヘイデンを見ながら、そんな事を考えていると、大地が前もってガランを通じて指示を出していた獣士団員が車庫へと来ていた。

大地は獣士団員にノルヴェス領地の住民の護送を手伝うように指示を出し、ヘイデンに護送の指揮を任せる。

「ノルヴェスの住民が来る前に住居環境は整えておく。運転は獣士団員がするからヘイデン達には案内を頼む。」

「あぁ・・・わかった。何から何まで感謝する。」

ヘイデンは大地に深いお辞儀をするとその後大型バスに乗り込み、ノルヴェス領地へと向かった。

大地はノルヴェス領地へと向かうヘイデンを見送った後、ペンタゴンの空いた土地にノルヴェス住民が住めるだけのマンションを建てると、王宮にある会議室へと向かった。

大地が会議室に入ると、大地からの念話で呼ばれていた主要メンバーが既に全員会議室に集まっていた。

「悪い少し待たせたな。」

大地は会議室に集まったメンバーに声をかけると、早速今回の戦争の作戦会議を始める。

会議室には犬斗、メリア、レイ、ガラン、マヒア、フィア、ゼーレ、ドグマ、リリスにルルが集まっている。

大地はまず作戦を立てる前にガランに現在ペンタゴンで運用可能な戦力について聞く。

ガランは現在兵として運用できる人数は五万程度でその内獣士団が一万五千程度、人間によって構成されているのが三万五千程度だということを大地に伝える。

「思ったより多いな・・・さすがガランだ。」

「いや・・まぁな・・・」

なんだか歯切れの悪いガランの様子に大地は怪訝そうな顔をしながらガランを見つめる。

「どうした何か問題があるのか?」

「それがな・・・人間で構成されたやつらなんだが。俺の知らないところで創造神の剣って自分達で名乗っててな・・・」

ガランは大地に問われると申し訳なさそうに大地にこれまでの経緯を説明し始めた。

一週間前、大地に住民からも兵を募るように指示をもらったガランは住民に呼びかけたり、掲示物を使って兵士として戦う者を募ったのだが、やはり獣人と人間の間には深い溝があるらしく、思う様に兵が集まらなかった。

しかし近い内に起きるであろう戦争に向け、少しでも戦力を増強させたかったガランは、その時ふと大地が指示した時に言っていた「俺の名前を使え」という言葉を思い出した。

その後ガランは試しに大地の名前を使って兵士を募ったところ、これまでの反応が嘘だったかのように多数の希望者が獣士団の詰所に現れた。

当時は兵が集まった事を素直に喜んだガランだったが、人間達の訓練を続けるうちに志願してきた兵士達の間に変な噂が立つようになる。

それは今回の東側や帝国との戦争で成果を上げた者は大地付きの近衛兵になれるという噂だった。

その噂は瞬く間に兵士の間に広まり、獣士団員ですらそれを信じてしまい、これまで以上に鍛錬を積みだす者まで現れる始末であった。

ガランにより獣士団員の誤解は解くことは出来たが、いまだ獣人に対して溝のある人間達はガランの言葉に耳を傾けることはなく、現在でも人間の兵士達は近衛兵になるべく獣士団以上に精力的に取り組んでいるらしい。

「あははははは! もうあんた創造神を堂々と名乗っちゃいなさいよ!」

ガランの話を聞いてメリアが涙をこぼしながら大笑いしている。

「まぁ精力的に鍛錬を積んでいるのなら良いが・・・」

大地は自分を創造神とすることでペンタゴンの住民が一致団結するならばと今回の事に目を瞑ることにした。

気を取り直した大地は大笑いするメリアを無視して戦争時の自分達の動きについて話し合いを再開する。

「さてとりあえずだが、今回の戦争に俺達はあまり深く関わらないようにしようと思っている。」

「ほう。傍観者に徹するという訳ですかな?」

「もちろん降りかかる火の粉は防ぐがな。帝国がいつ介入してくるかわからない以上、一歩引いて戦況を俯瞰的に見た方がすぐに対応できる。それに今回の争いに関して俺達は正直関係ないからな。潰し合うなら勝手にやってくれって話だ。」

大地はその後も帝国や東側の軍が介入してきた場合についての軍の分け方や配置、布陣について自身の考えをみんなに伝える。

現在大地達の戦力は五万。西側や東側、それに帝国の戦力と比べて兵の数は少ない。それにその内七割はつい最近訓練を始めたばかりの者だ。

大地はもし帝国もしくは東側の軍が侵攻してきた場合、ディシント鋼で作られた強固な城壁を誇るペンタゴンに籠城しながら城壁からの攻撃により、敵の数を減らしていく作戦をみんなに話していく。

レイやガランも同じ考えだったようで大地の考えに賛同を示す。

しかし本当にそれだけで大丈夫なのかという声が挙がってきた。

「城壁からの攻撃だけで敵を撃退することは可能なんですか?」

犬斗が不安そうな顔を浮かべながら大地に質問をする。

「もちろん相手が帝国の場合、敵将を討つのは難しいだろうな。その場合は敵兵の数を減らした段階で城門から打って出る。まぁ心配するな。このペンタゴンの城壁には防衛用の機能もしっかり備わっている。十万や二十万の兵が来ても大丈夫な自信はある。」

自信満々な大地の様子を見て犬斗や犬斗と同様の不安を抱えていたゼーレやフィアの顔が安堵の表情へと変わる。

「雑魚兵はペンタゴンに備えた防衛機能で何とかするとして、問題は帝国の幹部クラスがどれだけ来るかってところだな。一人二人なら俺一人で何とか出来るが、それ以上となるとお前達に任せる事になりそうだ。ガランや犬斗の話からそれなりの使い手だと予想できる。くれぐれも注意してくれ。」

その後大地は宮廷魔法師クラスの相手は自分、犬斗、メリア、ガランの四人で対応することや、城壁に備えられた防衛機能はレイの指示のもと運用していく事等を話し合った。

その後西側と東側の戦争が始まるまでの間、ペンタゴンではそれぞれが出来る準備をしながらその時を待っていた。

そして一週間後ついに帝国の思惑の入り混じった西側と東側の戦争が始まった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...