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トーム攻略編
第24話 鍛冶、研究
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大地はゴーレムと訓練行うルル達の様子を見ながら、模擬戦場に多数のコピーを出現させ、そのコピー同士での戦闘を開始させた。
コピー達には大地が様々な戦闘プログラムを入れており、それに沿った形で戦うコピー達。
戦闘を開始してしばらく経った頃、コピー同士の戦闘も次々と決着が着き始めた。
大地は決着が着いた事を確認するとそのコピー達を自分にペーストし始めた。
その後も大地は決着のついたコピー達を次々と自身にペーストしていく。
全てのペーストを終えた頃、一足先にゴーレムを倒していたルルが大地の所に来た。
「いつも見てて気になってたんですが。何をしてるんですか?」
「あぁっこれか。これは俺のスキルの一つのコピペの新しい使い方だよ。
元々はコピペ用の戦闘AIを作る為に模擬戦で戦わしてたんだが。
あるとき自分に戦闘後のコピーをオリジナルである自分にペーストしたらコピーが得た経験値的なものが俺に入るのかなって思い付いてな。
試しにやってみたら、戦闘の記憶だったり経験ってのが身体に定着していくのがわかって、今ではコピー達で訓練することで俺の訓練としているんだ。」
「じゃあ大地さんはさっきの多数の大地さんの戦闘分の経験値を一人で得たって事ですか!?」
「まぁそうなるな。」
「そんなの卑怯じゃないですか!
私達が一生懸命に戦っている間、大地さんは座ってるだけなのに私達の何倍もの経験を得ているんですよね?
これ以上強くなってどうするんですか !
そんな事するなら私達の訓練をちゃんと見て、もっと強くしてくださいよ! 」
「いやちゃんと見てるし、十分強くなってるだろ!」
大地に突っ掛かるルルを訓練を終えたゼーレが微笑ましそうに眺める。
同じく訓練を終えていたフィアに至っては、ルルのすぐ後ろでルルを煽っていた。
すると二人の掛け合いを途中まで楽しそうに煽っていたフィアがおもむろにステータスプレートを見ながら二人に話しかける。
「そういえば今まで見たことなかったけど大地君のステータスってどうなってるの?」
「えっ・・・」
ステータスプレートとは、犬斗が冒険者として冒険者ギルドからもらっているギルド証を元に作成したものだ。
ギルド証には持ち主の能力値とスキルが載っており、便利だと思った大地が欲しい者に作って渡していた。
ステータスの更新は観晶石にかざすことで行う事が出来るらしく、いつでもステータスの更新が出来る様に、各主要クーポラに観晶析を配置させている。
ルル達も訓練後に更新を行い、よく楽しそうに互いに見せ合っていた。
しかし大地は自身のステータスプレートの種族の部分が人間ではなく、何故かモザイクがかかったような状態になっている事から、これまで自分のステータスプレートを他の者に見せた事はなかった。
こんな物を見せてしまえば最近やっとおとなしくなってきた創造神呼ばわりがまた再発してしまう。
ただでさえクーポラを作った段階で密林メンバーの布教活動が始まってしまい、今ではかなりの人数が裏で自分を創造神と呼んでいるのを大地は知っていた。
そんな状況を知っている大地はこれ以上の拡大を防ぐためにもステータスプレートを見せる訳にはいかなかった。
「あっ! そういえば鍛冶用クーポラに顔出さねえといけねえわ!」
「大地君が逃げた!」
「話は終わってないですよ!」
「こら! フィアは仕事があるでしょ! もうそろそろ戻らないといけません!」
フィアはルルと一緒に逃げた大地を追いかけようとするが、ゼーレに首根っこを掴まれてしまう。
ルルが全力疾走しながら大地の後を追っていく姿をフィアは羨ましそうに眺めていた。
ルル達から逃げるように鍛冶用クーポラに辿りついた大地は鍛冶長の部屋を訪れていた。
「おお! 大地の旦那じゃねえか!」
「ドグマ。とりあえず何も言わず匿ってほしい。今からルルがここに来るが俺はまだ来てないと伝えてくれ。」
「おう。またなんかあったのか?とりあえずデスクの裏に隠れときな。」
「すまないな。」
大地がデスクの裏に隠れると、少ししてからルルが鬼の形相で鍛冶長の部屋に入ってくる。
「ドグマさん! 大地さん来てますよね!」
「ルルの嬢ちゃん。また大地の旦那と何かあったのか?
旦那ならまだここには来てないぜ。ルルの嬢ちゃんから今も逃げてるんじゃないか?」
「往生際が悪いですね・・・・もし大地さんが来たらすぐに教えてくださいね!」
ルルはドグマにそう伝えると風のような速さで去っていった。
ドグマはルルが去ったのを確認すると大地に声をかける。
「旦那。鬼はもう去っていったぞ。」
「そうか。ドグマにはいつも助けてもらってばかりだな。」
「いいって事よ! 俺達こそ旦那にはいつも世話になってるからな。」
「まぁお互いさまって奴だな。」
ドグマは年齢四十ぐらいの熊の獣人で豪快奔放を地で行く性格だ。
ガランよりも隆起した肉体をもっており、鍛冶師より獣士団に入ったほうが良いのではと大地は密かに思っている。
ドグマは若い時からミッテにいた鍛冶師の奴隷として鍛冶について色々教えてもらっていたらしい。
主人である鍛冶師はトームでも有名な方だったらしく、珍しく奴隷のドグマにも丁寧に技術を教えてくれていた。
しかし帝国を迎え入れようという動きを見せていたミッテ領主は、帝国の掲げる人間至上主義の考え事に自分達を寄せていく為に、まずは獣人の仕事を制約する命令を出した。
これにより鍛冶の仕事が出来なくなったドグマは、主人の鍛冶師から西の領地に逃げるように言われ、西側の領地に移動している時に犬斗と出会いボレアスに来ていた。
その話を聞いた時、この世界の人間にも獣人を差別していない人が意外といるのかもしれないと希望を持った事を今でも覚えている。
ドグマは大地の言葉に嬉しそうに返事をすると、大地を呼び出した理由を話し始める。
「実はよ。ディシント鋼の加工が成功しそうなんだよ!」
「本当か! さすがドグマだ! 人間や小人族どころか誰も成功したことないんだぞ! 偉業じゃねえか!」
「おいおい。褒めすぎだ! あくまでも出来そうってだけの話だ。まだ確実じゃねえよ。」
ドグマの話では、ディシント鋼の加工はその火耐性の高さから今まで実現が不可能な状態であったが、大地が作成した火晶石に熱晶石を埋めこむことで火晶石から出る火の温度を高める事に成功した炎熱晶石を使う事でディシント鋼を加工できるまでに熱を加える事に成功したらしい。
今はまだ実験段階だが近いうちにディシント鋼の加工を行えるであろうとドグマは嬉しそうに語っていた。
もしディシント鋼の加工が実現すれば、大地のアウトプットに頼らず、武器や防具の生産が可能になる。
それだけではなくディシント鋼の加工により得た技術を用いれば、獣人が生活を送る上で必要な生活用品の作成もスムーズに出来るようになるだろう。
今後も増えていくであろう獣人の為にもぜひドグマには頑張ってもらいたい。
その後ドグマと今後の方向性を話し合った後、匿ってもらったお礼にドグマの大好物のスモークサーモンとバーボンを再現して渡し、鍛冶長の部屋を後にする。
今夜あたり一人で一杯やる事だろう。
鍛冶長室を出た大地は、鍛冶用クーポラまで来たついでに隣の研究用クーポラに顔を出す事にした。
研究長の部屋を訪れると、研究長のリリスが目の下にクマを作り、気難しそうな顔をしながら、薬品を眺めていた。
「リリス。調子はどうだ?」
「大地か。調子が良さそうに見えるなら目の病気だ。良い薬があるのだが使ってみるか?」
「・・・いや遠慮しておく。」
研究長であるリリスは鳥の獣人だ。漆黒の翼を持っており、日本でいうカラスの獣人といった感じだ。
長身でモデルのようにスラっとした体格の彼女は黙っていればすごい美人なのだが、気性が少々荒く、研究が上手くいってないとすぐに毒を吐いてくる。
そんな彼女は現在大地の依頼で最高品質のポーションの研究、製造をしている。
この世界では薬草一つから様々なポーションを作ることが可能だ。
薬草から抽出した成分により、解毒ポーション等の状態異常を回復するポーション、体力や魔力を回復するポーション、傷口にかけることで傷を治すポーション等、用途に合わせたポーションを作れるのだが、抽出する成分によって、それぞれ作成の難易度が変わってくる。
帝国やトーム等で一般的に売られているポーションは体力を大体二割回復する程度だが、これが半分程度回復するハーフポーションとなれば一気に最高級品となり、貴族や国の重鎮ぐらいしか買えない金額になってくる。
これが魔力回復ポーションや全回復するフルポーションとなると国宝級の代物扱いだ。
現在リリスにはそのフルポーションを含めた様々なポーションの製造を依頼していた。
もちろんアウトプットでもポーションの再現は可能だが、何万人分のポーションを作ろうと思ったらどうしても無理があるし、大地もそこまで暇ではない。
獣人達の技術向上の目的の事も考え、現在はリリスを中心とした研究員達に薬品の製造を任せている。
研究用クーポラを作る時、犬斗に依頼しポーション作りに欠かせない成分抽出器と薬草の苗を中央領地ミッテから取り寄せてもらい、その成分抽出器と薬草の苗にプログラミングを行ってリリスに渡していた。
研究用クーポラの一画には、大きな薬草畑を作っておりプログラミングを行ったことで、品質は全て特上の物だ。
成分抽出器も魔力消費を十分の一に抑え、魔力コントロールのしやすい仕様に作り変えてはいるのだが、なかなか上手くいってないようだ。
しかし決してリリスの腕が悪いというわけでは断じてないことだけは言っておこう。
事実リリスは天才の中の天才だ。
小さい頃からその才覚に気付いていた貴族に奴隷として飼われていたリリスは物心ついた時から狭い部屋で無理やり研究を強いられていた。
その研究の結果出来たのがハーフポーションであり、その貴族はハーフポーションを他の貴族に売りさばく事で莫大なお金を稼いでいた。
しかしハーフポーションを高値で売りさばき、利権を独り占めしていたその貴族は、反感を買った他の貴族により殺されてしまう。
その後その貴族の館に来た他の貴族達はまさか獣人の小さな子供がハーフポーションを製造していたと思っておらず、そのまま奴隷商にリリスを売ってしまう。
その後奴隷商に連れていかれていたリリスは、獣人の奴隷解放を行っていた犬斗に助けられてこのボレアスに来ていた。
天才のリリスは既にハーフポーションだけでなく、魔力回復ポーションも製造に成功させていた。
まだ二割程度の回復しか出来ないそうだが、他の国にはない事を考えるとボレアスの一つの強みになる。
リリスはいまだにフルポーションが製造出来ていない事に対して苛立っているが、魔力回復ポーションを製造出来ているだけで十分凄い事なのだ。
大地はリリスの機嫌をなだめるように、リリスの好物であるナッツの詰め合わせとワインをそっとデスクの上に置いて研究長の部屋を出た。
これで少しでも気分良く睡眠をとってくれたら良いのだが。
鍛冶部門も研究部門も二人のおかげで十分すぎる成果をあげていることに満足しながら東側のクーポラを後にしようとした時、背後から鬼の形相のルルが姿を現した。
「だ・い・ち・さ・ん?」
「あっ・・ルル! どっどこに居たんだ!?」
「大地さん。ドグマさんのとこで隠れてましたね?」
「そんなことはないが・・・」
「ふーん。本当に?」
「ほっ本当だ。」
「ドグマさんが嬉しそうに酒場でスモークサーモンつまみながらバーボンで一杯やってましたが。」
「あのバカ・・・・」
その後酒盛り中だったドグマも巻き込んで、ルルから気が遠くなる程の長い説教にそれを眺める獣人達の生暖かい視線に晒される大地であった。
コピー達には大地が様々な戦闘プログラムを入れており、それに沿った形で戦うコピー達。
戦闘を開始してしばらく経った頃、コピー同士の戦闘も次々と決着が着き始めた。
大地は決着が着いた事を確認するとそのコピー達を自分にペーストし始めた。
その後も大地は決着のついたコピー達を次々と自身にペーストしていく。
全てのペーストを終えた頃、一足先にゴーレムを倒していたルルが大地の所に来た。
「いつも見てて気になってたんですが。何をしてるんですか?」
「あぁっこれか。これは俺のスキルの一つのコピペの新しい使い方だよ。
元々はコピペ用の戦闘AIを作る為に模擬戦で戦わしてたんだが。
あるとき自分に戦闘後のコピーをオリジナルである自分にペーストしたらコピーが得た経験値的なものが俺に入るのかなって思い付いてな。
試しにやってみたら、戦闘の記憶だったり経験ってのが身体に定着していくのがわかって、今ではコピー達で訓練することで俺の訓練としているんだ。」
「じゃあ大地さんはさっきの多数の大地さんの戦闘分の経験値を一人で得たって事ですか!?」
「まぁそうなるな。」
「そんなの卑怯じゃないですか!
私達が一生懸命に戦っている間、大地さんは座ってるだけなのに私達の何倍もの経験を得ているんですよね?
これ以上強くなってどうするんですか !
そんな事するなら私達の訓練をちゃんと見て、もっと強くしてくださいよ! 」
「いやちゃんと見てるし、十分強くなってるだろ!」
大地に突っ掛かるルルを訓練を終えたゼーレが微笑ましそうに眺める。
同じく訓練を終えていたフィアに至っては、ルルのすぐ後ろでルルを煽っていた。
すると二人の掛け合いを途中まで楽しそうに煽っていたフィアがおもむろにステータスプレートを見ながら二人に話しかける。
「そういえば今まで見たことなかったけど大地君のステータスってどうなってるの?」
「えっ・・・」
ステータスプレートとは、犬斗が冒険者として冒険者ギルドからもらっているギルド証を元に作成したものだ。
ギルド証には持ち主の能力値とスキルが載っており、便利だと思った大地が欲しい者に作って渡していた。
ステータスの更新は観晶石にかざすことで行う事が出来るらしく、いつでもステータスの更新が出来る様に、各主要クーポラに観晶析を配置させている。
ルル達も訓練後に更新を行い、よく楽しそうに互いに見せ合っていた。
しかし大地は自身のステータスプレートの種族の部分が人間ではなく、何故かモザイクがかかったような状態になっている事から、これまで自分のステータスプレートを他の者に見せた事はなかった。
こんな物を見せてしまえば最近やっとおとなしくなってきた創造神呼ばわりがまた再発してしまう。
ただでさえクーポラを作った段階で密林メンバーの布教活動が始まってしまい、今ではかなりの人数が裏で自分を創造神と呼んでいるのを大地は知っていた。
そんな状況を知っている大地はこれ以上の拡大を防ぐためにもステータスプレートを見せる訳にはいかなかった。
「あっ! そういえば鍛冶用クーポラに顔出さねえといけねえわ!」
「大地君が逃げた!」
「話は終わってないですよ!」
「こら! フィアは仕事があるでしょ! もうそろそろ戻らないといけません!」
フィアはルルと一緒に逃げた大地を追いかけようとするが、ゼーレに首根っこを掴まれてしまう。
ルルが全力疾走しながら大地の後を追っていく姿をフィアは羨ましそうに眺めていた。
ルル達から逃げるように鍛冶用クーポラに辿りついた大地は鍛冶長の部屋を訪れていた。
「おお! 大地の旦那じゃねえか!」
「ドグマ。とりあえず何も言わず匿ってほしい。今からルルがここに来るが俺はまだ来てないと伝えてくれ。」
「おう。またなんかあったのか?とりあえずデスクの裏に隠れときな。」
「すまないな。」
大地がデスクの裏に隠れると、少ししてからルルが鬼の形相で鍛冶長の部屋に入ってくる。
「ドグマさん! 大地さん来てますよね!」
「ルルの嬢ちゃん。また大地の旦那と何かあったのか?
旦那ならまだここには来てないぜ。ルルの嬢ちゃんから今も逃げてるんじゃないか?」
「往生際が悪いですね・・・・もし大地さんが来たらすぐに教えてくださいね!」
ルルはドグマにそう伝えると風のような速さで去っていった。
ドグマはルルが去ったのを確認すると大地に声をかける。
「旦那。鬼はもう去っていったぞ。」
「そうか。ドグマにはいつも助けてもらってばかりだな。」
「いいって事よ! 俺達こそ旦那にはいつも世話になってるからな。」
「まぁお互いさまって奴だな。」
ドグマは年齢四十ぐらいの熊の獣人で豪快奔放を地で行く性格だ。
ガランよりも隆起した肉体をもっており、鍛冶師より獣士団に入ったほうが良いのではと大地は密かに思っている。
ドグマは若い時からミッテにいた鍛冶師の奴隷として鍛冶について色々教えてもらっていたらしい。
主人である鍛冶師はトームでも有名な方だったらしく、珍しく奴隷のドグマにも丁寧に技術を教えてくれていた。
しかし帝国を迎え入れようという動きを見せていたミッテ領主は、帝国の掲げる人間至上主義の考え事に自分達を寄せていく為に、まずは獣人の仕事を制約する命令を出した。
これにより鍛冶の仕事が出来なくなったドグマは、主人の鍛冶師から西の領地に逃げるように言われ、西側の領地に移動している時に犬斗と出会いボレアスに来ていた。
その話を聞いた時、この世界の人間にも獣人を差別していない人が意外といるのかもしれないと希望を持った事を今でも覚えている。
ドグマは大地の言葉に嬉しそうに返事をすると、大地を呼び出した理由を話し始める。
「実はよ。ディシント鋼の加工が成功しそうなんだよ!」
「本当か! さすがドグマだ! 人間や小人族どころか誰も成功したことないんだぞ! 偉業じゃねえか!」
「おいおい。褒めすぎだ! あくまでも出来そうってだけの話だ。まだ確実じゃねえよ。」
ドグマの話では、ディシント鋼の加工はその火耐性の高さから今まで実現が不可能な状態であったが、大地が作成した火晶石に熱晶石を埋めこむことで火晶石から出る火の温度を高める事に成功した炎熱晶石を使う事でディシント鋼を加工できるまでに熱を加える事に成功したらしい。
今はまだ実験段階だが近いうちにディシント鋼の加工を行えるであろうとドグマは嬉しそうに語っていた。
もしディシント鋼の加工が実現すれば、大地のアウトプットに頼らず、武器や防具の生産が可能になる。
それだけではなくディシント鋼の加工により得た技術を用いれば、獣人が生活を送る上で必要な生活用品の作成もスムーズに出来るようになるだろう。
今後も増えていくであろう獣人の為にもぜひドグマには頑張ってもらいたい。
その後ドグマと今後の方向性を話し合った後、匿ってもらったお礼にドグマの大好物のスモークサーモンとバーボンを再現して渡し、鍛冶長の部屋を後にする。
今夜あたり一人で一杯やる事だろう。
鍛冶長室を出た大地は、鍛冶用クーポラまで来たついでに隣の研究用クーポラに顔を出す事にした。
研究長の部屋を訪れると、研究長のリリスが目の下にクマを作り、気難しそうな顔をしながら、薬品を眺めていた。
「リリス。調子はどうだ?」
「大地か。調子が良さそうに見えるなら目の病気だ。良い薬があるのだが使ってみるか?」
「・・・いや遠慮しておく。」
研究長であるリリスは鳥の獣人だ。漆黒の翼を持っており、日本でいうカラスの獣人といった感じだ。
長身でモデルのようにスラっとした体格の彼女は黙っていればすごい美人なのだが、気性が少々荒く、研究が上手くいってないとすぐに毒を吐いてくる。
そんな彼女は現在大地の依頼で最高品質のポーションの研究、製造をしている。
この世界では薬草一つから様々なポーションを作ることが可能だ。
薬草から抽出した成分により、解毒ポーション等の状態異常を回復するポーション、体力や魔力を回復するポーション、傷口にかけることで傷を治すポーション等、用途に合わせたポーションを作れるのだが、抽出する成分によって、それぞれ作成の難易度が変わってくる。
帝国やトーム等で一般的に売られているポーションは体力を大体二割回復する程度だが、これが半分程度回復するハーフポーションとなれば一気に最高級品となり、貴族や国の重鎮ぐらいしか買えない金額になってくる。
これが魔力回復ポーションや全回復するフルポーションとなると国宝級の代物扱いだ。
現在リリスにはそのフルポーションを含めた様々なポーションの製造を依頼していた。
もちろんアウトプットでもポーションの再現は可能だが、何万人分のポーションを作ろうと思ったらどうしても無理があるし、大地もそこまで暇ではない。
獣人達の技術向上の目的の事も考え、現在はリリスを中心とした研究員達に薬品の製造を任せている。
研究用クーポラを作る時、犬斗に依頼しポーション作りに欠かせない成分抽出器と薬草の苗を中央領地ミッテから取り寄せてもらい、その成分抽出器と薬草の苗にプログラミングを行ってリリスに渡していた。
研究用クーポラの一画には、大きな薬草畑を作っておりプログラミングを行ったことで、品質は全て特上の物だ。
成分抽出器も魔力消費を十分の一に抑え、魔力コントロールのしやすい仕様に作り変えてはいるのだが、なかなか上手くいってないようだ。
しかし決してリリスの腕が悪いというわけでは断じてないことだけは言っておこう。
事実リリスは天才の中の天才だ。
小さい頃からその才覚に気付いていた貴族に奴隷として飼われていたリリスは物心ついた時から狭い部屋で無理やり研究を強いられていた。
その研究の結果出来たのがハーフポーションであり、その貴族はハーフポーションを他の貴族に売りさばく事で莫大なお金を稼いでいた。
しかしハーフポーションを高値で売りさばき、利権を独り占めしていたその貴族は、反感を買った他の貴族により殺されてしまう。
その後その貴族の館に来た他の貴族達はまさか獣人の小さな子供がハーフポーションを製造していたと思っておらず、そのまま奴隷商にリリスを売ってしまう。
その後奴隷商に連れていかれていたリリスは、獣人の奴隷解放を行っていた犬斗に助けられてこのボレアスに来ていた。
天才のリリスは既にハーフポーションだけでなく、魔力回復ポーションも製造に成功させていた。
まだ二割程度の回復しか出来ないそうだが、他の国にはない事を考えるとボレアスの一つの強みになる。
リリスはいまだにフルポーションが製造出来ていない事に対して苛立っているが、魔力回復ポーションを製造出来ているだけで十分凄い事なのだ。
大地はリリスの機嫌をなだめるように、リリスの好物であるナッツの詰め合わせとワインをそっとデスクの上に置いて研究長の部屋を出た。
これで少しでも気分良く睡眠をとってくれたら良いのだが。
鍛冶部門も研究部門も二人のおかげで十分すぎる成果をあげていることに満足しながら東側のクーポラを後にしようとした時、背後から鬼の形相のルルが姿を現した。
「だ・い・ち・さ・ん?」
「あっ・・ルル! どっどこに居たんだ!?」
「大地さん。ドグマさんのとこで隠れてましたね?」
「そんなことはないが・・・」
「ふーん。本当に?」
「ほっ本当だ。」
「ドグマさんが嬉しそうに酒場でスモークサーモンつまみながらバーボンで一杯やってましたが。」
「あのバカ・・・・」
その後酒盛り中だったドグマも巻き込んで、ルルから気が遠くなる程の長い説教にそれを眺める獣人達の生暖かい視線に晒される大地であった。
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