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娼館 2

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 これだけ舐められ、吸われれば多少は先端が上向き始めるはずであるのに、大きな乳を露わにされた娼婦に握られた男根の先は、未だくったりと項垂れたままだ。
「いくら刺激を受けようとも、使い物にならんのだ」
 エリックの視線を捕らえた侯爵は、下半身を口に含まれ、激しく攻められているというのに、何でもない表情のまま嗤う。
「使い物に、とは――」
 エリックがその意味を考えている間に侯爵は、女の口からずるりとそれを引き出した。
「もういい。次はあいつの相手だ」
 不思議そうな表情をする娼婦に侯爵は、視線でエリックを指し示す。
 その指示通り、彼女は露出した白い肌を隠そうとすることもせず、エリックの面前へ歩いて来ると、しなやかな指先で上着のボタンを外し、するりとそれを脱がせた。
 腕を首に巻きつけられ、耳朶を唇で軽く食まれると、廊下で嗅いだ麝香を含んだ妖艶な花を思わせる香りがふわっとエリックの鼻腔をつき、くらりとした感覚が彼を襲った。
 媚薬成分が含まれていると言われても疑いはしない。
「ちょっ――、離れてください」
 理性を総動員させ、娼婦を優しく押し戻す。彼女は素直に一歩退いたが、そのほんの僅かな間に、クラバットは解かれ、そればかりか、ウエストコートのボタンまで外されていた。
 まるで、この世のものではない、魔法のようだと、先ほどまで異国に思いを馳せていたエリックは思う。
 俗世や日常を離れて楽しむためにこの館は存在するのだから、ある意味それは間違いではない。そして彼女たちは、娼館という一見秩序とは無関係なところに属しながらも、戒律を守り、日々男を悦ばせる技術を磨いている――それが、高級といわれる所以なのだろう。
 そんなことを考えて気持ちを逸らしているところへ、今度は、背後から脇の下に腕を入れられ羽交い絞めにされた。
 侯爵の前に跪いていた男娼だ。
 娼館の中には、男性同性愛者のために男娼を置いていることがある。
 自分の身の危険を感じて、エリックは「な、なにを――?」と背後に声をかけた。
「グレン侯爵様の命でございますので」
「悪いが、私は、そっちの趣味は――」
「――なら、エリザ、お前の出番だ」
 丁寧に断りかけたエリックの言葉を侯爵が奪うと、エリザと呼ばれた娼婦が、彼の前に膝をついて彼の下半身を剥き出しにした。
「――っ!」
「なんだ、すました顔をしていながら、すでに半勃ちじゃないか」
 侯爵の笑みが大きくなって、エリックは顔を背ける。
 後ろから羽交い絞めにされたまま、赤い唇が彼の肉棒を銜え、頭が上下に運動を繰り返し始めた。
 根元を優しく締め付けられ、扱かれて、先端には舌が絡みつく。
「っ」
 眉間に皺を寄せ苦悶の表情を浮かべるエリックの口から小さく呻き声が漏れた。
 彼のそこはゆっくりと女の口の中で精力を滾らせ、硬く反り返っている。
 そんな状況の中で、エリックはしきりに意識を別のところへ逃そうと努めていた。
 彼の体の反応を窺いながら、女の手と舌の動きが緩急の変化をつけてくる。
「んっ――」
 さすがに、商売だけあって、上手い。
 エリックは意識的に息をゆっくりと吐いてリラックスを試みる。
 力なく彷徨わせた彼の目に侯爵の力が漲っている男根が飛び込んできた。
「単なる物理的刺激だけでは、だめなんだ」
 エリックの視線に気がついた侯爵は、いつも以上に不敵に嗤うが、その台詞には似合わない。
 明らかに、この状況を愉しんでいる様子だ。
「ひょっとして、男色、ですか?」
 男娼がこの部屋にいるということはそういうことではないのか。
 身の危険を感じつつ、恐る恐る問いかけたエリックに、侯爵は思わず噴き出した。
「いや。女のほうがいいが――どちらかといえば、他人の性的交渉における快感を見ることに興奮する」
 だからここではいつも娼婦と男娼を一人ずつ呼ぶのだと、やけに冷静に彼は言った。
 そういえば、若いころの侯爵は乱交を好むと噂で、それが現在の女好きの風評につながっているのを思い出す。
 そうこうしているうちに、エリックに苦悶の表情が大きくなり始めた。
 娼婦が咥えているそこは、もうそれ以上大きくならないほど張り詰めている。
 あと少し――激しく吸われたら達してしまいそうだ。
「サーシスではじじくさい趣味で手一杯だったようだし、ここで抜いていくといい」
 耐えるエリックの苦しげに悶える表情を楽しみながら、手でゆっくりと慰めている侯爵のそこは、先ほど娼婦が舐めていたときとは打って変わって硬直し、まっすぐ上を向いている。
「いえ、……まだ、仕事がありますので」
「主人の精を抜くのを手伝うのも、お前の仕事のうちだろう」
 なるほど、毎夜自分にカペラの体を弄ばせていたのは、そういうことだったのかと、彼は納得した。
 だが――
 たとえ相手が娼婦であろうとも、その口腔を白濁液で汚すのは気が引けた。
 意地でも我慢してみせようと、エリックは目に留まった調度品の品定めを始める。
(あの壺には、南の国特有の色が見られる。モザイクの様式から判断するに――)
 あと少しのところまで上り詰めながら、なかなか達しないエリックに侯爵は「強情だな」とあきれたように声をかけた。
「いくらグレン侯爵のご命令でも、こればかりは譲れません」
「真面目過ぎる。――が、主人の命に従わないとは、お前らしくない」
 この根競べを愉しむように侯爵は挑発する。
「まことに申し訳ございませんが、これを反抗とお取りになるなら、……解雇も覚悟の上でございます」
 侯爵にまっすぐ瞳の中を覗かれたエリックは視線を外さず、彼を見つめ返した。
 そこは――そこだけは、譲れない、との想いをこめて。
 その間にも女の責めは休むことなく続き、眉間にしわを寄せながらもエリックは侯爵から視線を外さない。
 しばらく見つめあった後、ふっと、侯爵から力が抜けた。
「そうか。なら、好きにするがいい。――離してやれ」
 その一言で娼婦が、口の中からエリックの、今にもはち切れそうに膨張した陰茎を抜き、男娼が彼を解放した。
 手早く身なりを整えたエリックは戸口へ向かうと、丁寧に頭を下げる。
「短い間でしたが、お世話になりました――」
「はやとちりするな」
 侯爵はエリックに視線を向けることなく、手の空いた娼婦と男娼を手招きしながら、素っ気無くそう口にした。
「グレン侯爵――?」
「先に戻って、書斎で待っていろ。――仕事の話をしよう」
 恭しく頭を下げ、身を翻したエリックの背中に、侯爵は「ああ、それから」と座ったまま言葉を投げる。

「――解雇も覚悟の程なら、俺に遠慮などするな」

***
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