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情事 2

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 気分を損ねたのだろうか。
 それはそれで、彼女を不安にさせる。
「エリック――?」
「気が乗らないカペラ様を好きにさせていただくのも、悪くはありませんが――」
 いったんカペラから離れたエリックは、サイドテーブルの上のデカンタを手にとった。
 グラスに褐色の液体を注ぎ入れ、彼にしては珍しく乱暴にそれを一気に煽ると、再び彼女の横に膝をつく。
 間近に迫った彼の真剣な顔に、カペラの鼓動が早くなる。
 彼女は一瞬身を引きそうになったが、すでに背中は重ねられた背あてに押し当てられていて、あっと思ったときには、薄い唇が彼女の柔らかい唇に触れ、僅かに開いた隙間から芳醇な香りのする液体が流れ込んできた。
 少しずつ流し込まれる液体は、彼の体温を帯び、ほんのり温かい。そのせいで吸収も早いのか、カペラの体が内側から火照り始める。
「ん……」
 アルコールが染み込んでいくにつれ、耳の奥で脈打つ心臓の音が早く、強くなる。
 口に含んでいた酒を全部カペラの中に流し込み終わっても、エリックの唇は離れることはなく、それどころか、隙間を割って舌が入ってきた。
 注ぎ込んだ液体をなじませるかのように、カペラの舌を絡めとり、吸い上げる。
 息を継ぐタイミングが計れない。
 唇が離れた時には、カペラの息はすでに乱れていた。
「エリック、……なんだか、激し――」
「侯爵様が、見ていらっしゃるから、でしょうか。私も少々興奮しております」
 彼の頬がわずかに上気しているのは、先ほど口にした酒のせいではなく、グレン侯爵のせいだろうか。
 侯爵が、望むから。
 侯爵、侯爵、侯爵、侯爵――
 エリックはそんなにグレン侯爵がいいのだろうか。
 身体とともに、心も開かれてしまったのだろうか。
 確かに、年も近いし話も合うのかもしれないけれど、それにしても――
「もう少し、飲まれますか?」
 気の進まない様子のカペラを気遣った彼はこう提案した。
 でもこれは、あくまでも侯爵の指示があるからだ。
 考えたら、カペラの中に侯爵に対しての怒りが再び湧き上がってきた。
 自分は、侯爵にとっていったい何なのか。
 チャップマン男爵との結婚をぶち壊し、奪うように自分を娶った割には、体のいいおもちゃにされているとしか考えられない。
 侯爵もそういう加虐的、あるいは嗜虐的傾向があるのかもしれない。
 だとすれば――エリックにこのような指示を出すほどに自分を愚弄したいのであれば、カペラがこの状況を存分に楽しむことで、彼を落胆させることができるのではないか――ふと、そんな思いが頭を過った。
 それは、自分に許した大義名分だったのかもしれない。
 それでもいいと、理性の制御を失い始めた感情が後押しする。
 エリックにとってはこれも仕事の内だと分かっている。彼の心が自分に向いていないことも、わかっている。
 けれど――
 カペラの心は大きく震えた。
 これ以上好きになると、自分が辛くなるのは分かっているはずなのに。

 初めてくらい、好きな人としたっていいじゃない。

 いつかの言葉が甘い響きを伴ってカペラの頭の中でリフレインした。
 状況は違えど、カペラの気持ちはあの時と変わってはいない。
 だとすれば――見物人がいるとはいえ――こんなチャンス、もう二度と来ないかもしれない。
 それ以上を考える代わりにカペラは、エリックにもう一杯くれるよう頼んだ。
 褐色の液体で満たされたグラスを勢いに任せて一気に飲み干すと、胸の奥につかえていた消化できない塊をアルコールの熱が溶かしてくれるような気がした。
 カペラは金色に揺れる彼の髪にそっと手を伸ばす。
 応えるように、エリックの指が愛おしげに彼女の頬を撫でた。ただ、それだけで、熱く沸き立った心の奥が震える。
 こんなにも、好きなのだ、と改めて実感した。
「エリック――」
 ふっと、彼の雰囲気が和らいだような気がしたかと思うと次の瞬間、エリックの鼻が耳の後ろをくすぐった。
 首筋に熱い吐息がかかり、胃のあたりで生まれた熱を帯びたふわふわとしたさざめきが胸を、体を一杯に満たしていく。
「エリック」
 もう一度、彼女は彼の名を口にした。
 微笑み返したエリックに上掛けをゆっくりと剥ぎ取られ、火照った体にひんやりとした空気が降りる。
 その冷気を跳ね除けるように彼の手のひらが夜着の上を滑り降り、侯爵のとは違った、繊細な指先がカペラの体を這い始めた。
 肩、腕、腰――、背中に回された手は温かく、脇腹を擽る指は、銀食器を扱うかのように慎重だ。
 彼女の体のラインを確かめるように腰や背中をひとしきり撫でた彼の温かい手のひらが、柔らかい膨らみをそっと押し上げた。
 敏感になっている肌に、容赦なくエリックが甘やかな愛撫を与える。
 大切な銀器の輝きを確かめるかのようにしなやかに動くエリックの手に、心と身体の温度がさらに上昇し、双丘の上の小さな蕾は、今や夜着の上からでもわかるほどに尖っていた。
 首筋にあたるエリックの髪さえも、彼女の気持ちを煽り立てる材料にしかならなくて、駄目だとは思いつつ、カペラの心は侯爵の存在を忘れて熱く沸き立っていく。
 その手の動きに身を任せているうちに、いつの間にか夜着ははぎ取られ、白い裸体をエリックにさらしていた。
「や、……あんまり、見ないで」
「残念ですが、カペラ様がそうおっしゃるなら――」
 素直にそう言うとエリックはカペラの後ろに回り込んだ。後ろから抱き寄せ、自分の胸で彼女の華奢な背中を受け止める。
 背中全体に彼のしっとりとした肌のぬくもりが伝わり、カペラに守られているという安心感を与えた。
 後ろから回された手が脇腹をかすめ、お世辞にも大きいとはいえない乳房を持ち上げる。
 身体の奥に染み入るような心地よさに彼女が目を閉じると、持ち上げられていた双丘の上で小さくとがった先端を彼の指が捏ね始めた。
 しなやかな指先の動きから生まれる痺れは、彼女の身も心も熱くし、その熱で侯爵のことも、サーシスも、恋情も――全てが形を失い溶けていく。
 息とともに、小さいが甘い呻きを漏らした彼女のすぐ後ろで、エリックがくすっと鼻で嗤った。
 彼の唇が耳たぶを食み、首筋を吸う――そのたびに、カペラの体が小さく震える。
「カペラ様は、ここをこうされると大層お感じになられるのですね」
 エリックが彼女の両脚をゆっくりと開き、その付け根に手を伸ばした。
 割れ目の上をそっと撫でただけなのに、彼の指がしっとりとした液体を救い上げる。同時に、カペラの背筋を快感が這いあがった。
 侯爵の時よりも、強い恍惚が頭を、体を支配していく。
 彼の指が秘裂を割り入り、待ちわびるように充血した茂みの奥の蕾に触れた。
 背が弓なりになり、声が、我慢できない。
 同じことをされているのに、気持ちの違いだろうか、それとも、罪悪感、羞恥心――?
 ほんのそれだけのことで、こんなにも感じ方が違うのかと彼女は、波に翻弄される合間に考える。
「まだ、ほかのことを考える余裕があるようですね」
「え……あ……」
 カペラが言葉を返す前に、エリックは茂みの奥を撫でたままの状態でするりと体勢を入れ替え、彼女の胸に舌を這わせた。
 彼の右手はさらに奥へと滑り込み、中指が蜜を滴らせている入口を思わせぶりに擦り、人差し指と親指が陰核を弄ぶ。
 指先と舌の動きが激しさを増し、何度も続く絶頂感に呼吸が追い付かなくなってきて――
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