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甘美な夢
しおりを挟む悠兄ちゃんの両手が私の頬を優しく包み込む。暖かい指先が耳や首筋を、戸惑いながら、時には強く撫でた。
その指が私の頬を捉え、唇に吐息が落ちる。
「怖い?」
「ううん。……でも、どうしていいか、わからない」
正直、怖くないわけではなかった。
私の知っているセックスは、いつも一方的に与えられるだけのものだったから。
悠兄ちゃんは、くすっと笑った。
「いいよ。俺だけ、見てて」
「ん――」
言葉を返す前に、口を塞がれた。私の唇が、悠兄ちゃんの唇の動きに応える。最初はそっと様子を窺うように、乾いた唇の上で動いていただけだったのが、時折ちろりと舌で舐められ潤みを帯びていく。
わずかに開いた唇の隙間から少しだけ進入してきた舌に、舌先が触れて体がピクリと動いた。
「脱がせても、いい?」
「なんか、恥ずかしい――」
「ベッドに、行こうか」
悠兄ちゃんは私の手を引き、ベッドに行く途中で照明を落とした。
プールの水面に反射したガーデンライトの光が、天井に不規則な模様を描き出す。
捲られた上掛けより舞い落ちた花から再び香りが立ち上った。
「怖かったら、言って?」
ベッドサイドで悠兄ちゃんは、私を抱きしめながら耳元で囁いた。
私が小さく頷くと、悠兄ちゃんの指が私の水着をゆっくりと剥ぎ取り始める。
怖くない。
怖くない。
そう自分に言い聞かせている間にも悠兄ちゃんは私を裸にし、ひざの後ろの腕を入れて私を抱き上げた。
「大丈夫?」
瞳の奥を見つめながら、悠兄ちゃんが心配そうに聞く。
大事にされているのだなと、少し嬉しくなった。
私が小さく頷くと、悠兄ちゃんは安心したように笑った。
ゆっくりと私をベッドの中へ下ろし、全部を脱ぎ去った悠兄ちゃんも隣に入る。それから、片肘をついて私の髪をなで始めた。
「悠兄ちゃん、頭をなでるのが、好きね」
すると、悠兄ちゃんがばつ悪そうにはにかむ。
「俺だって、怖い。……お前を、傷つけてしまうんじゃないかって」
だから、壊れ物みたいに、扱ってくれているのか。
私は、悠兄ちゃんのそんな気遣いが嬉しくて、首の後ろに腕を回した。
「大丈夫。……だめだったら、ちゃんと、言う。だから――」
今だけでもいいから、悠兄ちゃんとの素敵な思い出をください。
耳に小さく囁いた声は、きちんと届いただろうか。
「そんなかわいいこと言われたら、制御できなくなるだろ」
「ん……悠兄ちゃんになら、何されても、いい」
そうして、あの男との悪夢を、甘い夢で塗り替えて。
言葉にする代わりに、私は、自分から悠兄ちゃんの唇に唇を重ねた。
「綾――」
返されたキスは、激しいものだった。
舌が絡まり、口腔のいたるところを吸い上げ、唾液が口の端から零れてもなお、悠兄ちゃんは唇を離さなかった。
二人の唇が重なったところから生まれる音が大きくなっていく。
もう、どちらのものか分からなくなった唾液が喉の奥にたまり、たまらなくなって、それを嚥下した。うまく飲み込めなかった分が零れて首を伝って落ちると、それを追うように悠兄ちゃんの舌が、私の首筋を舐める。
ただ、それだけのことなのに、声が漏れた。
指を髪の中に埋め、撫でるというには強めに頭を揉みしだかれる。
もう一方の手が、ゆっくりと肩のラインを確かめるように下りてきて、脇腹をくすぐると、お腹の辺りから上へ折り返した。
くすぐったさに似た小さな快感が私の意識を少しずつ侵していく。
指先が、盛り上がった部分の裾野を確かめるように往復し、首筋をたどっていた唇が耳朶を軽く食んだ。
「んっ」
その甘い刺激に、声が漏れた。
思わずいつもの癖で私が指をかむと、悠兄ちゃんが優しくその指にキスをくれた。
「我慢、しなくていい。――もっと、聞かせて」
手首を押さえたまま、悠兄ちゃんの唇が胸元へ降りていく。
もう片方の手は、相変わらず、胸のラインを円を描くように微妙なタッチで触れたままだ。
なでているのとは反対の胸の膨らみに、悠兄ちゃんは優しく口付けた。
先端が硬くなっていっているのが自分でも分かる。
そこを、悠兄ちゃんの舌先が軽く弾くと、私の腰が小さく跳ねた。
髪、耳、唇、首筋、肩、鎖骨、脇、胸、お腹――
場所を移動するときでも、必ずどこかには触れていて、目を閉じても悠兄ちゃんを感じていられた。
悠兄ちゃんは手と唇で、優しく撫で、軽い音を立てて吸い、ねっとりと舐め――
だんだんと時間の感覚が薄れてくる。
どれくらいの時間そうされていたのか分からない。
しばらく前から、腰の辺りに硬いものが触れるのに、気づいていた。
それでも、悠兄ちゃんは焦る様子などまったく見せず、私の準備ができるのを待ってくれている。
プールの水面で反射して天井に揺らめく青い光と、わずかに香る甘い香り、悠兄ちゃんの優しい愛撫に、意識がゆっくりと別次元へと導かれる。
私は、そっと手を動かし、悠兄ちゃんの硬く張り詰めたそこに手を触れた。
「――!?」
悠兄ちゃんが驚いた表情で私を窺う。
私は小さく頷き、慣れない手つきでそれを撫でた。
ふっと表情を柔らかくした悠兄ちゃんは髪をなでながら、ゆっくりと腰の横から腿まで円を描くように移動した。
ひざの後ろを撫でられ、わずかに持ち上げられる。両脚の隙間に割り入った手が、そのまますいっと上へ向かった。
「ぁ――」
親指の根元が、割れ目に触れた瞬間、私は声を漏らしていた。
悠兄ちゃんは、そのまま別の指が溢れ出ている蜜を掬い取るように擦り上げる。
「や……」
そうされただけなのに、奥からさらにとろりと溢れ出る感覚に恥ずかしさを覚えた私は、手で顔を隠した。
向こう側で悠兄ちゃんがふっと微笑む気配がして、それからゆっくりとその手が取り払われる。
数十センチ離れて、見つめていた悠兄ちゃんとの距離が詰まって、唇が温かくなった。
「かわいいよ、綾――」
優しく見つめられて、キスされて、大事に触れられて――、それだけのことで胸の奥が熱くなる。
悠兄ちゃんの指が、茂みの中の小さな蕾を探り当て、そっと揺さぶった。
触られているのはほんの一部分なのに、そこから水紋の様に体中へ痺れるような感覚が伝わっていく。
悠兄ちゃんの指が、閉じてた花びらを優しく押し開き、入り口あたりを弄ると、さらに溢れ出た蜜と絡まってくちゅくちゅと淫らな水音を立てた。
「ああっ、……なん、か――」
指の動きが早くなるにつれて、私の鼓動は激しくなり、意識がここから切り離されそうになる。
「ん……あ、やあぁ――んっ!!」
陰核を強く擦られ、いつのまにか滑るように入っていた指で膣壁を内側からくっと押されると、体の先端までを強烈な痺れが一瞬にして走り、何も考えられなくなった。
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