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籠の中

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 お義父さんに連れられて退院したその日に、私は携帯電話を没収され、休養を理由に一週間自宅謹慎を言いつけられた。
 その上、お母さんの出張中に、こんな不祥事が起こってしまって申し訳が立たないからと、悠兄ちゃんに会うことを禁止される。

「……なんだ、その目は――?」

 お義父さんは、冷たい笑みを浮かべて私を睨みつけた。
 そんな筋の通らない話に納得できるわけがない。
 けれど、そんなこと言おうものなら、お義父さんの怒りを買うのは分かっている。
 そして、彼は、私がそう言うのを待っているようにも見えた。
 ここで私がどんな反応を返しても、お義父さんは悦ぶのだ。
 それならば、と、私は穏便にすむ方法を選んだ。

「なんでも……ありません」

 ほんの少しでも、夢を見たいと思った私が甘かったのだ。
 私には、甘い夢など、似合わないというのに。
 でも。
 一度甘い夢の味を覚えてしまった以上は、もう、それを知らなかった頃には戻れなくて――この家に囚われ、お義父さんに怒りをぶつけられることよりも、悠兄ちゃんと連絡が取れないという事実が私を苦しめる。
 頭に浮かぶのは、読者に向けた爽やかなユウヤの笑顔ではなく、中学生の男子のようなはにかみ顔や、色っぽさの混じった揶揄うような笑みといった、雑誌には載っていない悠兄ちゃんの表情ばかり。

 ――もう、あの笑顔を生で見ることはできないのだろうか。

 悠兄ちゃん……

 心の中で名前を呼ぶだけで、胸の奥がぎゅっと握られたように苦しくなる。
 握られた拍子に、胸の下の方から上に向かって何かがこみ上げてきて、それを喉のところで押しとどめると、今度は視界が滲んできた。

 ……悠兄ちゃん……

 どこか痛いわけでもない。
 いつものように嫌なことをされているわけでもない。
 それでも、胸の奥から湧き上がる想いに、鼻の奥がつんと痛くなって、目頭が熱くなる。

 やだ。

 私は頬を伝った涙を手の甲で拭った。

 いつの間に、こんなに好きになっていたのだろう。
 ……いつの間に、私はこんなに、脆くなっていたんだろう。

 認めても、報われることなどないのに。
 行き場がないのは分かっているのに。
 私は、どこにも、行けないのに。

「私といるのが、そんなに嫌か」

 謹慎を言い渡されたことで、目の前が真っ暗になり、お義父さんが一緒にいたのを忘れていた。そして、迂闊にも、この人の前で涙を見せてしまったことを後悔する。
 お義父さんの目の奥に嗜虐的な色が宿っていた。

「そう、じゃ――」

 こうなったら、もう、何をどう言おうと止まらない。
 お義父さんは、怒りを露わにして私をソファに押し倒した。

「お前も、実江子や悠哉と同じように、こんなところから出て行きたいと思っているのだろう!?」
「ちが――」

 口元は笑っているけれど、その笑みは自虐的にさえ見える。
 男の手が、セーターとその下の薄いシャツをまくりあげ、ブラを一気にずりあげて、形が変わるほど胸を掴んだ。
 脂肪とはいえ、予期していなかったところに、絞る様に力を込められると、さすがに痛い。
 いつもこんなことをされるのは夜ばかりで、今は昼間だからと、油断していたけれど、よく考えたら、お義父さんは昼間は仕事でいないだけだったことに気がついた。

「だが、そうはさせん」

 握った先の、小さく尖った突起を男が口に含む。

「――っ!」

 瞬間、鋭い痛みが走り、背中が弓なりに反った。
 浮いた腰に片腕が滑り込み、抱き寄せる格好になると、もう一方の手がスカートの中に滑り込んで、タイツと下着が剥ぎ取られる。
 露わになった肌を冷気が撫で、鳥肌が立った。

「おと、うさん、……まだ、外、明るい」
「構うもんか」

 まるで証を刻むように、お義父さんは私の胸元に赤い印をつけ始める。
 上と下の突起を弄りながら、そこら中に赤い花を咲かせて満足した彼は、ベルトを緩め、猛ったソレを取り出した。

「お前は、私のものだ」

 まだ十分濡れてもいない固く閉じた部分にあてると、強引にそれを私の中に突きたてる。

「く……」

 男の怒りで滾った太い杭が、肉を押しのけて奥へと入ってくるにつれて、引き連れた痛みが私を襲った。

「お前は、――お前だけは、どこにも――誰にも渡さん」

 奥まで達したところで、男は私の腰を抱いていた腕に力を込めた。
 私の膣内なかになじませるように、ゆっくりと掻き回されているうちに、接合部分の動きが滑らかになってくる。
 にやり、と男が私に嫌な嗤いを投げつけた

「お前は、本当に、淫乱だな」

 私は睨みつけるように視線を投げ返した。
 怒りのせいか、興奮に赤く染まったその口元には、冷たく薄い嗤いが張り付いている。
 明るいところで初めて見たが、こんな顔でこの男はいつも蔑むように私を抱いていたのだろう。
 それを見せつけられて、心の奥に悔しさがこみ上げてきた。
 
「いい表情かおだ。――もっと、怒るがいい」

 男は口の端を少し上げてみせたが、男の瞳には切なさと遣る瀬無さが僅かに宿る。それに、私が気をとられたその直後、それまでのゆったりとした動きとは一転して、抽挿が激しくなった。

「んっ!」

 何度も狂ったように強く腰を叩きつけられながら、私はあの瞳の意味を考える。
 この人は、たぶん、寂しいのだ。

 私の上で、男の綺麗に整った髪が乱れていく。
 ギュッと固く口を結んで、ひたすら、腰を動かしている男。

「お前は、私の、ものだ」

 置いていかれる寂しさを、直視したくなくて――だから、私をこんな風に、私の気持ちなど無視して一心不乱に抱くのかもしれない。
 そこに芽生えるのが、愛情ではなく敵意だとしても、そうすることで自分に意識を向けてもらえるから。
 そうして、私に敵意をもたれることで、この人は、寂しさを紛らわせているのかもしれない。

「お前は……どこにも、行かせ……ないっ」

 男の額に落ちた髪の束が、一瞬大きく跳ねた。
 私の中で男の怒りの具現が白く弾け、息を弾ませた彼が私に体重を預ける。
 私は、息を整えようとしているお義父さんの髪を、初めてそっと撫でた。



 そうだとしたら、――どこにも、行けない。

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