人魚と水宝玉 【石物語 3月号】 (R-18)（悠哉×綾菜1）

インターミッションーー人魚の見た夢

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　王子は、人魚姫のことを妹のように可愛がった。
　でも、自分を助けたのが隣国の姫だと信じ、彼女との婚姻を選ぶ。

　それは、本当のことを知らない王子にとってみれば運命の恋。
　それを手に入れた王子は、幸せだっただろう。


　王子を殺して三百年生き永らえるか、
　それとも、海の泡となるか――


　人魚姫は、王子の結婚の当日、彼の幸せを望んで泡になった。


　――気持ちを伝えることなく。



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　泡になるのを選んだその気持ちは、私にはよく分かる。


　好きな人の命を絶っておいて、自分だけ三百年も――しかも一人で生きるなんて、辛すぎる。
　それなら、彼の隣にいるのが自分でなくとも王子が寿命をまっとうするまで幸せに暮らしてくれるのを願う。


　それでも。


　それでも、人魚姫が泡になる結末でも良かったから、王子には本当のことを知ってほしかった。
　王子を愛していた者が、王子のそばにいたのだと、彼には気づいて欲しかった。

　そう願う私は、残酷だろうか。

　多分、自分のことではないから言えること。

　だけど、本当のことを知るのと、知らないのでは、どちらが幸せだろう。


　悠兄ちゃんもいつかは、私でない誰かと結婚するだろう。

　そしたら、私は――？

　私は、何も言わずに、悠兄ちゃんをあきらめられるだろうか。
　悠兄ちゃんを諦めて、暗い籠の中でずっとあの悪夢の続きを見るのだろうか。


　つっと、涙が頬を伝い落ちたような気がした。

　水の中で、そんなの感じるはずはないと分かっているのに。


　続いて
　頬と――唇が暖かくなる感触。

　そこだけが妙に現実みを帯びていて――



　そして、私は再び暗い淵へと落ちていった。


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