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プロローグーー悪夢
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今でも夢にうなされることがある。
あの出来事も、夢であってくれたらよかったのに――
***
五年前――
暗闇の中、突如、部屋に現れたがっしりした体躯と、お酒のにおい。
いつもは優しい言葉を紡ぎだしていたその口が、苛立たしげに罵声を発したかと思うと、夢の中から強引に引きずり出された私の掛け布団は、荒々しく剥ぎ取られた。
何が起こったのか理解しようとしているうちに、パジャマの前を引き開けられて、ボタンが飛ぶ
カーテンから差し込む月明かりが私の肌に青白く反射した。
「やっ!」
私は、反射的に腕を胸の前に組んであらわになった肌を隠す。
男は、覚醒した私を見てたじろぐ様子もなく、反対にアルコールを含んだ息を吐きながら顔を近づけると、私が顔を背けるその反応を楽しむように、笑い声を上げた。
「思ったよりも、いい身体だな」
月光の中で身体を縮こめている私を見下ろし、男が言った。
この人は、普段こんな風に下品に物を言う人ではないはずなのに――
――ひょっとしたら、まだ私は夢から覚めていないのかもしれない。
いつもとの態度の違いとに、どう反応していいのか私の頭は混乱している。
「いやなら、泣き叫べ」
その言葉と同時に、男の両手がお尻のほうからパジャマのズボンとショーツを一緒にずりおろした。何をされたのか、私が理解できないうちに、男は私の両脚の間にするりと身体を滑り込ませる。
むき出しにされた下半身をひんやりとした空気が嘗め、男の両手が胸を隠していた私の手首を取ってベッドに押さえつけた。そうされて初めて、私はこれが夢ではないことを確信する。
――怖い。
私の背中を、恐怖がつっと走った。闇の中に蒼白く浮かび上がる、狂気に縁取られた異様な笑みが、私の心だけでなく体も震え上がらせる。
こういう場合は、大声を上げるものなのかもしれない。
けれど、喉の奥から空気は抜けるのに、声にならない。いや、もし声を出せたとしても、今夜この家には、私とこの男以外、誰もいない。
(助けて、悠兄ちゃん)
心の中で先日家を出たばかりの兄の名を呼ぶ。
優しくて、いつも私を守ってくれていた悠兄ちゃん。もし、悠兄ちゃんがここにいてくれたら、きっと助けてくれるはずなのに――
悠兄ちゃんは、もういない。頼れる人は、この家には、誰もいない。
それでも、私は、ここで暮らしていかなければならないのだ。
運よく何事もなく終わったとしても、この家の主人の機嫌を損ねるべきではない。それに、抵抗したら、余計にひどいことをされそうな気がした。
(たすけて、ゆうにいちゃん)
それが勇気を奮い起す呪文であるかのようにそうもう一度心の中で唱えると、私は、胃の辺りに力を入れ、目に力を入れて男を下からまっすぐ見上げる。
私を見下ろすその瞳に怒りの色が濃くなった。
「なんだ、その目は。……お前も、実江子と同じで、ふてぶてしいな」
左の頬に、熱い痛みが走る。男の顔は笑っていた。
「恨むなら、お前の母親を恨むんだな。籍を入れた途端、私の金で好き放題――挙句の果てに、男と旅行――」
怖くない。
怖がってはいけない。
この男は、私が怖がって、泣き叫ぶところを見たいのだ。
だとしたら、絶対に、怖がってはいけない。
私は、もう一度心の中で悠兄ちゃんの名前を念じると、男を睨んだまま。お腹に力を入れて声を出した。
「出張って言ってたわ」
「ああ、そうやって私は八年間も騙され続けてきた」
「嘘よっ」
「本当のことなど、話せるものか。だが、やっと証拠を手に入れた」
男がニタリと笑う。
「……私たちを追い出すつもり?」
「安心しろ、追い出しなどするもんか。浮気された上に離婚なんてすれば、私の名に瑕がつくからな。――ただ、この家に残されたお前と私で、存分に楽しもうというだけの話だ」
再び男が私の両手を押さえつけ、その口が、私の胸の頂に吸い付いた。ちくりとした痛みが走る。
「――痛っ!! やめて、お義父さんっ!」
「そうだ、泣き喚け。それが実江子への仕返しだ」
首筋に、男が食いついた。噛み付かれたのではないかとさえ思うほど、痛い。
やだっ。
けれど、私は、それを口にするのを我慢した。
恐怖や痛みに声を上げれば、男を喜ばせることになる。
それが、私にできるささやかな抵抗で――その時の私には、それしかできなかった。
私が唇を噛んで痛みを堪えているのをいいことに、男は、私を押さえつけたまま上半身のそこら中に、チリッと走る痛みを与え続ける。
そして、私がその痛みになれた頃、見計らっていたかのように今度は舌を使って嘗め回し始めた。鎖骨から首筋、肩、上腕、脇の下、脇腹と唾液でべたべたにしたその下が、胸のふくらみを円を描くように動き始める。
滑った感触の合間に、時折先ほどの痛みが走り、その動きに、私の息は荒くなってきた。
ぞわぞわとした感覚が、背筋の下――腰のあたりでじわじわと湧き起こる。
そして、男の舌先が、私の胸の突起を弾いたとき、背筋のぞわぞわが一気に大きくなった。
「んっ!」
「実江子に似て淫乱だな」
私の鼻から漏れた音に、お義父さんが嫌らしい笑みを浮かべる。皮の厚いゴツゴツした指が、私の下半身へと伸び、足の付け根を撫で上げた。
「――だが、その分、楽しめる」
「く……」
私は固く歯を食いしばって、声を飲み込む。
奥を一撫でしたそのてらてらした太い指で、男が私の唇をなぞった。
「――ほら、もう、こんなに濡れて」
その指を強引に私の口へ突っ込みながら、お義父さんは下半身の滾った棒を、先ほどの部分に擦り付ける。
やだっ。
でも、それを口にすることは、意地でもできず――
「ゆ……に、い……ちゃん」
まるで気持ちを確かに保つ呪文のように、私は無意識のうちにその名前を呼んでいた。
その途端、男の表情が、激しく燃えるような形相に変わる。
「お前まで、私を侮辱するのかっ!?」
男の言っている意味がわからない。わからないけど、どうやら悠兄ちゃんの名前は、地雷だったようだ。そういえば数か月前、悠兄ちゃんが家を出る際に、お義父さんと激しく口論をしていたことを思い出す。
私が気を反らしたすきに、両手で私の脚を抱え込んだ男が、あてがっていた硬く太い楔を容赦なく一気に私の中に打ち込んだ。
「――――あっ!!」
瞬時に訪れる、焼けつくような痛み。
熱く滾った棒で、初めてそこを貫かれ、体中が心臓になったかのように、どくどく脈打った。
それとも――この規則的な拍動は、この男が、途中まで抜いては一気に突き上げるという行為を何度も何度も繰り返しているからだろうか。
想像もしていなかった痛みが与えられているのに、理性ではソコだけが私とは別の生物のようにも感じていた。
下半身を中心として与えられる痛みを伴った律動。そこから生まれる、肌と肌がぶつかる乾いた音と、ねっとりと絡みつくような水の音。
初めて感じるその痛みに、それでも、私は声を上げないようにと、強く唇を噛みしめる。
私が泣いて嫌がるのを見たいだけのこの男に、そこまで思い通りにはされたくない。
男は自分の気持ち良いように思う存分腰を動かした後、「むっ」と小さく呻いて、動きを止めた。そのことによって、繋がっている部分の軋むような痛みが止み、反対に痺れとなって広がっていく。
男の身が硬くなって、打ち込まれていた楔が大きく脈打った。
それから、ずるりとそれを取りだした男が私から離れ、ぐったりと力なく横たわる私のあごを、ぐいっと掴んだ。
「実江子に、告げ口するなら、するがいい。まあ、今の実江子には、お前のことなどどうでもいいだろうがな」
お母さんに、このことを話したら――
考えるだけでも、怖かった。
再婚前、生まれて間もない私を連れて離婚したお母さんは、私を保育園に預けながら"仕方なく"私を育てていた。
お店で知り合った高橋さん――お義父さんとの再婚を決めたのは、私が小学校に上がる前だ。お母さんが、相手は会社の社長さんで、お金も大きな家も持っていて、家には通いだけどお手伝いさんがいるのだと、嬉しそうに言っていたのを覚えている。
結婚して、夜の仕事を辞めたお母さんは、代わりに小さなセレクトショップを開き、仕事といっては外泊や出張旅行で家を空けることが多くなった。
今なら分かる。
保育園を卒園したら、夕方から夜にかけて私の面倒を見る人が必要になるから、お母さんはお手伝いさんを雇っているお義父さんと再婚したんだ。
だから、お母さんにとっては重荷の私と、ただ利用しただけのお義父さんとの関係がこんなことになっていると知っても、何とも思わないだろう。むしろ、お義父さんの興味が私に逸れたと喜ぶかもしれない。
言える筈ない。こんなこと。
言ったとしても、お母さんは知らぬふりを決め込むだろうし、最悪、お義父さんを私に押し付けようとするかもしれない。
「――ふん。涙の一つも見せんとは。母親に似てふてぶてしいな」
気が済んだのか、満足したのか、男はそう言い残して部屋を出て行った。
取り残された私の身体はずきずき痛んでいたけれど、心の部分は、まるで麻痺したように、どこか遠くから私と体の痛みを眺めている。
そして、身づくろいもしないままベッドの上にぺたんと座る私と、シーツの黒い染みを、月光がスポットライトのように浮かび上がらせていた。
***
そんなことがあってから、義父は母の出張中、夜中にたびたび私の部屋を訪れるようになった。
あの出来事も、夢であってくれたらよかったのに――
***
五年前――
暗闇の中、突如、部屋に現れたがっしりした体躯と、お酒のにおい。
いつもは優しい言葉を紡ぎだしていたその口が、苛立たしげに罵声を発したかと思うと、夢の中から強引に引きずり出された私の掛け布団は、荒々しく剥ぎ取られた。
何が起こったのか理解しようとしているうちに、パジャマの前を引き開けられて、ボタンが飛ぶ
カーテンから差し込む月明かりが私の肌に青白く反射した。
「やっ!」
私は、反射的に腕を胸の前に組んであらわになった肌を隠す。
男は、覚醒した私を見てたじろぐ様子もなく、反対にアルコールを含んだ息を吐きながら顔を近づけると、私が顔を背けるその反応を楽しむように、笑い声を上げた。
「思ったよりも、いい身体だな」
月光の中で身体を縮こめている私を見下ろし、男が言った。
この人は、普段こんな風に下品に物を言う人ではないはずなのに――
――ひょっとしたら、まだ私は夢から覚めていないのかもしれない。
いつもとの態度の違いとに、どう反応していいのか私の頭は混乱している。
「いやなら、泣き叫べ」
その言葉と同時に、男の両手がお尻のほうからパジャマのズボンとショーツを一緒にずりおろした。何をされたのか、私が理解できないうちに、男は私の両脚の間にするりと身体を滑り込ませる。
むき出しにされた下半身をひんやりとした空気が嘗め、男の両手が胸を隠していた私の手首を取ってベッドに押さえつけた。そうされて初めて、私はこれが夢ではないことを確信する。
――怖い。
私の背中を、恐怖がつっと走った。闇の中に蒼白く浮かび上がる、狂気に縁取られた異様な笑みが、私の心だけでなく体も震え上がらせる。
こういう場合は、大声を上げるものなのかもしれない。
けれど、喉の奥から空気は抜けるのに、声にならない。いや、もし声を出せたとしても、今夜この家には、私とこの男以外、誰もいない。
(助けて、悠兄ちゃん)
心の中で先日家を出たばかりの兄の名を呼ぶ。
優しくて、いつも私を守ってくれていた悠兄ちゃん。もし、悠兄ちゃんがここにいてくれたら、きっと助けてくれるはずなのに――
悠兄ちゃんは、もういない。頼れる人は、この家には、誰もいない。
それでも、私は、ここで暮らしていかなければならないのだ。
運よく何事もなく終わったとしても、この家の主人の機嫌を損ねるべきではない。それに、抵抗したら、余計にひどいことをされそうな気がした。
(たすけて、ゆうにいちゃん)
それが勇気を奮い起す呪文であるかのようにそうもう一度心の中で唱えると、私は、胃の辺りに力を入れ、目に力を入れて男を下からまっすぐ見上げる。
私を見下ろすその瞳に怒りの色が濃くなった。
「なんだ、その目は。……お前も、実江子と同じで、ふてぶてしいな」
左の頬に、熱い痛みが走る。男の顔は笑っていた。
「恨むなら、お前の母親を恨むんだな。籍を入れた途端、私の金で好き放題――挙句の果てに、男と旅行――」
怖くない。
怖がってはいけない。
この男は、私が怖がって、泣き叫ぶところを見たいのだ。
だとしたら、絶対に、怖がってはいけない。
私は、もう一度心の中で悠兄ちゃんの名前を念じると、男を睨んだまま。お腹に力を入れて声を出した。
「出張って言ってたわ」
「ああ、そうやって私は八年間も騙され続けてきた」
「嘘よっ」
「本当のことなど、話せるものか。だが、やっと証拠を手に入れた」
男がニタリと笑う。
「……私たちを追い出すつもり?」
「安心しろ、追い出しなどするもんか。浮気された上に離婚なんてすれば、私の名に瑕がつくからな。――ただ、この家に残されたお前と私で、存分に楽しもうというだけの話だ」
再び男が私の両手を押さえつけ、その口が、私の胸の頂に吸い付いた。ちくりとした痛みが走る。
「――痛っ!! やめて、お義父さんっ!」
「そうだ、泣き喚け。それが実江子への仕返しだ」
首筋に、男が食いついた。噛み付かれたのではないかとさえ思うほど、痛い。
やだっ。
けれど、私は、それを口にするのを我慢した。
恐怖や痛みに声を上げれば、男を喜ばせることになる。
それが、私にできるささやかな抵抗で――その時の私には、それしかできなかった。
私が唇を噛んで痛みを堪えているのをいいことに、男は、私を押さえつけたまま上半身のそこら中に、チリッと走る痛みを与え続ける。
そして、私がその痛みになれた頃、見計らっていたかのように今度は舌を使って嘗め回し始めた。鎖骨から首筋、肩、上腕、脇の下、脇腹と唾液でべたべたにしたその下が、胸のふくらみを円を描くように動き始める。
滑った感触の合間に、時折先ほどの痛みが走り、その動きに、私の息は荒くなってきた。
ぞわぞわとした感覚が、背筋の下――腰のあたりでじわじわと湧き起こる。
そして、男の舌先が、私の胸の突起を弾いたとき、背筋のぞわぞわが一気に大きくなった。
「んっ!」
「実江子に似て淫乱だな」
私の鼻から漏れた音に、お義父さんが嫌らしい笑みを浮かべる。皮の厚いゴツゴツした指が、私の下半身へと伸び、足の付け根を撫で上げた。
「――だが、その分、楽しめる」
「く……」
私は固く歯を食いしばって、声を飲み込む。
奥を一撫でしたそのてらてらした太い指で、男が私の唇をなぞった。
「――ほら、もう、こんなに濡れて」
その指を強引に私の口へ突っ込みながら、お義父さんは下半身の滾った棒を、先ほどの部分に擦り付ける。
やだっ。
でも、それを口にすることは、意地でもできず――
「ゆ……に、い……ちゃん」
まるで気持ちを確かに保つ呪文のように、私は無意識のうちにその名前を呼んでいた。
その途端、男の表情が、激しく燃えるような形相に変わる。
「お前まで、私を侮辱するのかっ!?」
男の言っている意味がわからない。わからないけど、どうやら悠兄ちゃんの名前は、地雷だったようだ。そういえば数か月前、悠兄ちゃんが家を出る際に、お義父さんと激しく口論をしていたことを思い出す。
私が気を反らしたすきに、両手で私の脚を抱え込んだ男が、あてがっていた硬く太い楔を容赦なく一気に私の中に打ち込んだ。
「――――あっ!!」
瞬時に訪れる、焼けつくような痛み。
熱く滾った棒で、初めてそこを貫かれ、体中が心臓になったかのように、どくどく脈打った。
それとも――この規則的な拍動は、この男が、途中まで抜いては一気に突き上げるという行為を何度も何度も繰り返しているからだろうか。
想像もしていなかった痛みが与えられているのに、理性ではソコだけが私とは別の生物のようにも感じていた。
下半身を中心として与えられる痛みを伴った律動。そこから生まれる、肌と肌がぶつかる乾いた音と、ねっとりと絡みつくような水の音。
初めて感じるその痛みに、それでも、私は声を上げないようにと、強く唇を噛みしめる。
私が泣いて嫌がるのを見たいだけのこの男に、そこまで思い通りにはされたくない。
男は自分の気持ち良いように思う存分腰を動かした後、「むっ」と小さく呻いて、動きを止めた。そのことによって、繋がっている部分の軋むような痛みが止み、反対に痺れとなって広がっていく。
男の身が硬くなって、打ち込まれていた楔が大きく脈打った。
それから、ずるりとそれを取りだした男が私から離れ、ぐったりと力なく横たわる私のあごを、ぐいっと掴んだ。
「実江子に、告げ口するなら、するがいい。まあ、今の実江子には、お前のことなどどうでもいいだろうがな」
お母さんに、このことを話したら――
考えるだけでも、怖かった。
再婚前、生まれて間もない私を連れて離婚したお母さんは、私を保育園に預けながら"仕方なく"私を育てていた。
お店で知り合った高橋さん――お義父さんとの再婚を決めたのは、私が小学校に上がる前だ。お母さんが、相手は会社の社長さんで、お金も大きな家も持っていて、家には通いだけどお手伝いさんがいるのだと、嬉しそうに言っていたのを覚えている。
結婚して、夜の仕事を辞めたお母さんは、代わりに小さなセレクトショップを開き、仕事といっては外泊や出張旅行で家を空けることが多くなった。
今なら分かる。
保育園を卒園したら、夕方から夜にかけて私の面倒を見る人が必要になるから、お母さんはお手伝いさんを雇っているお義父さんと再婚したんだ。
だから、お母さんにとっては重荷の私と、ただ利用しただけのお義父さんとの関係がこんなことになっていると知っても、何とも思わないだろう。むしろ、お義父さんの興味が私に逸れたと喜ぶかもしれない。
言える筈ない。こんなこと。
言ったとしても、お母さんは知らぬふりを決め込むだろうし、最悪、お義父さんを私に押し付けようとするかもしれない。
「――ふん。涙の一つも見せんとは。母親に似てふてぶてしいな」
気が済んだのか、満足したのか、男はそう言い残して部屋を出て行った。
取り残された私の身体はずきずき痛んでいたけれど、心の部分は、まるで麻痺したように、どこか遠くから私と体の痛みを眺めている。
そして、身づくろいもしないままベッドの上にぺたんと座る私と、シーツの黒い染みを、月光がスポットライトのように浮かび上がらせていた。
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