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「――っ」
 動きを封じられていても、女が声を上げまいと努力しているのがわかる。
 指で捏ね、摘み、押し、ひっぱり――刺激が変化する度に、女の喉が反り返り、腰がびくついた。白い喉が露わになる度に、胸が突き出され欲情を煽る。舌を這わせると「あんっ!」と女が思わず声を漏らした。
 恥ずかしいと思う余裕すらなくした女の反応を楽しむかのように、彼は容赦なく固く尖った小さな突起に舌先をあて、弾き、転がす。
「……ん、……あ――」
 女の息が切れ切れになり、噛み殺そうとしながらも、逆に艶かしい甘い声になる。
「感じやすいんだな」
 それがいけないことであるかのように耐える女の姿を見ていると、笑みとともにそんな言葉が口をついて出た。
「こんな……はず、な……い、――んっ!」
 男はもう一度小さく笑うと、それを証明するかのように指で女の茂みを掻き分けた。軽く指で撫でただけなのに秘裂はくちゅりと音を立てる。
「こんなに、濡れているのに、まだ足りない?」
 膝に手をかけると、女は微かに抵抗を見せつつも、恥じらいながらゆっくりと腿を開いた。
 男は、腿の間へ割って入り、乳首を攻めていたその唇を胸から腹部へと這わせて茂みの奥に隠れる小さな陰核を舐める。
「んんん――っ!」
 腰が大きく弾み、女の身体が強ばった。
 しかし彼は腰をしっかりと押さえ小さな花芯に吸い付いたまま、彼女が身体をのけ反らせるのに合わせて強く舌で弄ぶ。
 割れ目に沿って動かしていた指を、膣内へためらうことなく入れると、女は声を上げまいと呻き続けた。
 男は様子を見て膣内に入れていた指を二本に増やす。中を弾き、花芯を舐めていた舌の動きも同じように速度を早めて、彼女の上昇のスピードを加速する。
「んんっ」
 その指がある一点を擦った時、女の体がさらに大きく震えた。男はその部分を執拗に攻める。
「あ、あ、あ、ん――」
 半開きになった口からはとうとう甘い声が漏れ始めた。
 彼の指と舌から生まれる波は今や大波となり、彼女の中の何かを押し上げようとしている。
「あ、だめ、あん、んっ――」
 波が最高潮を迎えようとしたその瞬間、男はその先を促すため、花芯を扱きながら、奥まで突っ込んだ中指で感じる部分を強く押した。
「んんんっ!」
 女の全身に力が入った。中に入れていた指に圧力を感じる。
 肩で息をしながら力を抜いた彼女の肌は、紅潮しうっすらと汗ばんでいた。


「……溶けた?」
 女の息が整うのを待って、額にかかる髪を撫でながら男は聞く。
「わからない。けど――」
「足りない?」
 まだ痺れの収まらない頭で少し考えたあと、女は小さく首を動かして答えた。


***


「こういう時、女はなんて言って欲しいのかわからないが――」
 男は左手で女の頭を何も言わずに撫でてやるにとどめた。
 一服して息を整えた後、冷蔵庫を開ける。
 残っていたのは、ミネラルウォーターとビールが一本ずつ。
「これで、最後」
 男は、女にペットボトルを渡し、自分はビールを開ける。
 僅かに戸惑った後、ペットボトルに口をつけた女は、ごくごくと、半分ほどそれを空けた。
「甘いもののほうが、いい?」
 思い出したように、机においてあったハードケースを開けた男は、女の視線の先にケースから取り出した箱を置く。
 薄いブルーの細いリボンが結ばれた小さな黒いギフトボックスは、駅前の小さな店で買ったものだ。頼まれていたものだが、チョコレートが好きな女ならこちらの方が嬉しいだろう。
「それ――」
「駅前で買ったやつだけど」
「もらって、いいの? これ、限定品だし、プレゼントみたいだけど――」
「いいよ」
 それでも女が戸惑っているので、男は「ああ」と思い出したようにその隣に、一万円札を三枚置いた。
「誤魔化そうってつもりじゃない――これで、いい?」
「……お金は、いい。――けど、チョコはもらっていい?」
「そうか、商売じゃなかったんだっけな」
 にこりと笑ってすぐに女は恥ずかしそうにその笑顔を隠した。
「……また、会える?」
「俺は、君にまた会いたいと思ってもらえるような男じゃないが――」
 とはいえ、この女があの男の恋人なら、糸を繋げておくのも悪くないと、思い直す。うまくすると教授に恩を売れるかもしれない。「――なにか書くモノある?」
 女は体にシーツを巻きつけてバッグに歩み寄り、中から丁寧に折りたたまれた薄い紙とペンを取り出した。
 その紙に驚いた様子の男を見て自嘲するように言う。
「表に書いてって言ってるわけじゃないの。もういらないから」
「……裏にとはいえ、この紙にペンを入れるのはちょっとためらわれるな」
 彼女は、紙の上で戸惑っているペン先をじっと見つめている。
「探偵さんなの?」
「バイト、かな。本業は別にある。――ま、何か困ったことがあったら、どうぞ」
 苦く笑ってそう言うと、男は思い切って婚姻届の裏に名前と電話番号を書いた。
「私は――」
 彼女の言葉を男は素早く「いや」と遮った。
「――君の名前は聞かない。……聞いたら、忘れるわけにはいかなくなる」


 外に出ると雨はもう上がっていて、空には明るい日差しが戻ってきていた。照りつけ始めた太陽が、雨で濡れたアスファルトの水分を蒸発させ、空気を濃くしている。
 男は、眩しい空を見上げた。
 その隣で女は鞄をしっかりと持ち直し、しっかりとした足取りで歩きだす。
 それを確認した彼も、彼女とは反対の方向へ歩きはじめた。
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