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22 最悪じゃない入学初日
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最悪だ。
広い部屋で、私1人だけがぽつんと座っていた。胃がはち切れそうな不快感を堪えて、縮こまるように背中が丸まり姿勢が悪くなる。
私は今年、ノヴァーリスの召喚術師クラスに入学した1年生。エリート中のエリートが集うこの学園からスカウトが来たときはとても嬉しかったし、本当に真面目に勉強を重ねて、立派な召喚術師になろうと決意した。
それなのに、入学初日────つまり今日のオリエンテーションで、私は何も召喚できなかった。
オリエンテーション後、この部屋にくるように私だけが言われ、そして今に至るというわけだ。
一体何のために残らされたんだろう。補習?叱責?それとももしかして、スカウトが手違いだったから退学とか入学取り消しとか言われるんじゃ────!?
不安で口内が乾き始めた頃、ギィ、と扉の開く音ではっと顔を上げる。
「あなたが何も召喚できなかった生徒さん?」
「は、はい!」
凛とした女性の声だ。
彼女は部屋に入るなり中を見渡し、私を捉えると、カツカツと靴音を立てて近づいてきた。
先生……だろうか。
でも、オリエンテーションのときに紹介された召喚術の先生は男性だった。それに、ローブも着ていないし何だか先生らしくない見た目だ。
彼女は私の前まで来ると、じっとこちらを見つめてきた。
……怖い。何を言われるんだろう。
「あ、あの……私、才能がないから、退学……でしょうか。最初から何も召喚できないだなんて……」
「退学?……そんなこと思ってたの?大丈夫、別件だから」
「え……?」
軽い口調でさらりと否定され、少々面食らっていると、彼女の細い手がそっと私の肩を掴んだ。
「怖がらないで。大丈夫だから」
黒曜石のような瞳が真っ直ぐに向けられる。
その言葉は力強くて、それでいて温かい。
「あなたみたいな子のために私がいるの。大丈夫、数週間もすれば魔力のコントロールができるようになって、他の生徒に追い付けるよ。暫く私が直々に指導します」
「先生……なんですか?」
「ううん、正式にはここの教職員ってわけではないんだけど……。あなたみたいに、上手く召喚ができない子の面倒を見たくて、学園側にわがまま言ってるの」
「先生じゃないんですか?じゃあ、何なの?」
「大丈夫だよ!不審者とかじゃないから。ちゃんと学園に認可はもらってるし」
そう言うと彼女は照れ臭そうに目を細め、どこか懐かしそうに私を見た。
「モナ・フェスター。ノヴァーリスの顧問召喚術師です。……あなたみたいな子を何人も面倒見てきたから、安心して」
屈託のない笑みが、私の緊張を解いていた。
■あとがき
ここまで読んでいただいてありがとうございます!思いつきで始めたものなので拙い展開だったかもしれませんが、自分的にはとても楽しく書けました。読んでくれた皆様のおかげです!
後日、番外編のようなものを投稿予定です。こんな話が読みたい!などがもしありましたら、感想でリクエストくれると嬉しいです!
広い部屋で、私1人だけがぽつんと座っていた。胃がはち切れそうな不快感を堪えて、縮こまるように背中が丸まり姿勢が悪くなる。
私は今年、ノヴァーリスの召喚術師クラスに入学した1年生。エリート中のエリートが集うこの学園からスカウトが来たときはとても嬉しかったし、本当に真面目に勉強を重ねて、立派な召喚術師になろうと決意した。
それなのに、入学初日────つまり今日のオリエンテーションで、私は何も召喚できなかった。
オリエンテーション後、この部屋にくるように私だけが言われ、そして今に至るというわけだ。
一体何のために残らされたんだろう。補習?叱責?それとももしかして、スカウトが手違いだったから退学とか入学取り消しとか言われるんじゃ────!?
不安で口内が乾き始めた頃、ギィ、と扉の開く音ではっと顔を上げる。
「あなたが何も召喚できなかった生徒さん?」
「は、はい!」
凛とした女性の声だ。
彼女は部屋に入るなり中を見渡し、私を捉えると、カツカツと靴音を立てて近づいてきた。
先生……だろうか。
でも、オリエンテーションのときに紹介された召喚術の先生は男性だった。それに、ローブも着ていないし何だか先生らしくない見た目だ。
彼女は私の前まで来ると、じっとこちらを見つめてきた。
……怖い。何を言われるんだろう。
「あ、あの……私、才能がないから、退学……でしょうか。最初から何も召喚できないだなんて……」
「退学?……そんなこと思ってたの?大丈夫、別件だから」
「え……?」
軽い口調でさらりと否定され、少々面食らっていると、彼女の細い手がそっと私の肩を掴んだ。
「怖がらないで。大丈夫だから」
黒曜石のような瞳が真っ直ぐに向けられる。
その言葉は力強くて、それでいて温かい。
「あなたみたいな子のために私がいるの。大丈夫、数週間もすれば魔力のコントロールができるようになって、他の生徒に追い付けるよ。暫く私が直々に指導します」
「先生……なんですか?」
「ううん、正式にはここの教職員ってわけではないんだけど……。あなたみたいに、上手く召喚ができない子の面倒を見たくて、学園側にわがまま言ってるの」
「先生じゃないんですか?じゃあ、何なの?」
「大丈夫だよ!不審者とかじゃないから。ちゃんと学園に認可はもらってるし」
そう言うと彼女は照れ臭そうに目を細め、どこか懐かしそうに私を見た。
「モナ・フェスター。ノヴァーリスの顧問召喚術師です。……あなたみたいな子を何人も面倒見てきたから、安心して」
屈託のない笑みが、私の緊張を解いていた。
■あとがき
ここまで読んでいただいてありがとうございます!思いつきで始めたものなので拙い展開だったかもしれませんが、自分的にはとても楽しく書けました。読んでくれた皆様のおかげです!
後日、番外編のようなものを投稿予定です。こんな話が読みたい!などがもしありましたら、感想でリクエストくれると嬉しいです!
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