学園一の落ちこぼれ召喚術師の私が魔王の息子を召喚できてしまったわけですが、皆さんどんな気持ちですか?

かやかや

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19 優しげな声で

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教職員が使う校舎1階の一番東端。行き止まりの壁に手を突き呪文を唱えると、魔法で隠された隠し階段が現れ、そこから地下堂へと行くことができる。

「ミス・ウォーウィックはここで周囲を見張っていなさい。何か聞かれたら私の名を出すこと」
「ええ。わかっていますわ」

マヌエラ先生が階段を下りていくのを見送ると、また壁が塞がりただの廊下へと戻った。

禁術の書。
その噂を聞いたのは、入学して2週間ほど経った頃だった。

きっと禁書を見つけて我が物とすれば、とてつもない力が手に入ることだろう。この私、リーゼラ・ウォーウィックはそんなものに頼る必要はない。
魔法の才能は十分にある。19歳にしてノヴァーリスに入学し、成績も上々。生まれは由緒正しい伯爵家。成績不振の落ちこぼれたちにも話しかけてあげる優しさもある。
たまに言葉が鋭くなってしまうこともあるけれど、本当のことだから仕方ない。自分の才能のなさを呪うことだ。

そんな落ちこぼれの中でも、抜きん出た一人の成績不振者……モナ・フェスタ―。15歳でノヴァーリスに入学した癖に、入学して以来下級悪魔の召喚もできていない、どうしてこの学園にいるのかもわからないほどの愚か者。金に物を言わせたのかとも思ったが、出身は薄汚い孤児院だとか。

その最底辺の落ちこぼれが、私の目の前で上級悪魔を召喚した。
文献で見たことがあるような、古くからいる崇高な悪魔だ。インプすら使役できなかった、あの落ちこぼれが。

有り得ない。そんなことはあってはならない。
いら立ちでどうにかなってしまいそうなとき、マヌエラ先生が私にささやいた。

“モナが禁書を盗んだことにすればいい”と。

確かにレオナードは、禁書でも使わなければ召喚できるわけのない悪魔だ。禁書を盗んだと陥れれば、逆にあれは彼女の実力だと認めることになるが、それでも社会は彼女を認めない。それでいい。

「そこで何を?」

男の声にはっと顔を上げる。
不思議そうな顔をしたアルトゥール・クラウスナーがそこに立っていた。

「あ……アルトゥール先輩!ごきげんよう」
「ああ、どうも。……それで、どうかしたのかな」
「マヌエラ先生を待っています。それだけなのでご心配なく」
「なるほど」

にこりと愛想よく笑って誤魔化す。
一番近くの部屋は教職員専用の倉庫だ。マヌエラ先生を待っていたとしてもおかしくはない。

「アルトゥール先輩は何か?」
「ああ、いや。僕もマヌエラ先生に野暮用がね。ここにいたとは思わなかった、探し回ってしまったよ」
「え……」

思わず返事に詰まる。
マヌエラ先生が地下から出てくるのを見られるのは問題ない。彼女は教職員だから、地下室への入り方を知っているのはおかしいことじゃないはずだ。
でも、その前で私を待たせているというのはまずい。

「で、ですが、マヌエラ先生は倉庫にはいらっしゃらないようですわ。こちらへと向かっていたはずなのに、見失ってしまって。どこへ行ったのかしら」
「ああ……。大丈夫、行き先はわかっているから。君が探していたことも伝えておこう」
「あ、ええ……いえ、お待ちになって!あの、えっと……!」

行き場がわかっている、という言葉に慌てて引き止める。彼は学園長の孫だ。地下堂の行き方を知っていても不思議ではない。マヌエラ先生が禁書を盗もうとしているところを見られたらまずい!

「……大丈夫だよ。落ち着いて」

慌てた私の様子を見かねたのか、笑みを浮かべて優しい声で彼が話しかけてくる。いつの間にか距離が近付き、そっと手を取り柔らかく握ってきた。
いつもならここで媚びを売るところだったけれど、流石に今はそんな暇はない。一体どうすれば……。

「禁書を盗もうとしているんだよね?」

変わらない笑顔で、彼がさらりと告げる。
驚きの声を上げる間もなく、ヒュン、と風が吹くような音がして、視界の中で彼以外の景色が歪んだ。
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