学園一の落ちこぼれ召喚術師の私が魔王の息子を召喚できてしまったわけですが、皆さんどんな気持ちですか?

かやかや

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16 サイコメトリー

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「ここが例の地下堂か……」

モナとの面会を終えた俺は、学園長に頼んで地下堂へと来ていた。

この学園の教職員はこの地下堂への行き方を知っているらしい。

六角形の部屋に、高い天井。床には大きく魔法陣が張られている。魔力の気配はあるが、それほど強くない。禁書を盗まれた後だからか?

まあ、そんなことはどうだっていい。大事なのは今ではなく、過去だ。

簡単に地下堂全体に結界を張る。これで俺以外の誰も、……いや、俺以上の実力を持つ奴しかこの中には入れないし、この地下堂に近づく気にもならない。

「これで、好きなだけ調査ができる……」

ふっと体の力を抜き、人間の外殻を破る。
髪はインクが滲むように黒く変色し、目は溶岩が湧き出るように赤黒さが流れ込む。これで俺はアルトゥールではなくオロヴァセーレだ。……やはりこの姿は落ち着く。

「さあ、俺に真実を示せ!」

地下堂の中にカッと光が満ち、次の瞬間には魔法陣の中央に一冊の書物が浮いていた。
勿論、俺が作り出した幻影だ。薄ぼんやりと透けている。
というよりも、過去の映像を映し出していると表現すべきか。サイコメトリーだ。

時刻は数日前。まだこの時間は禁書は盗まれていないらしい。

「もう少し時間を進めてみるか……」

ゆっくりと少しずつ時間をずらすが、中々動きがない。

しかしこの地下堂は全く人が来ないらしい。この学園にいる奴は真面目な堅物ばっかりなのか?

若干のつまらなさを感じ始めたとき、地下堂の魔力が揺らいだ感覚がした。

地下堂に続く階段の方から鈍い足音がする。やっと犯人のお出ましか?

『どなたかいらっしゃる?』

ぼわんとした老婆の声だ。見回りに来た教職員だろうか。

老婆はやはりノヴァーリスの黒いケープを羽織っている。少なくとも魔導師クラスの教師ではないな。とはいえ学園内で見覚えはある。

『……いないわね。今の内よ』

地下堂と怪談を見渡し人気がないのを確認すると、ケープの中から細い杖を取り出し、空中に小さく魔法陣を描く。

「あの陣は……?」

見たことがある。木っ端の魔を呼ぼうとしているわけではない。

魔法陣から光が漏れ、醜い大きな鳩の姿をした悪魔が現れた。

「シャッズか!?」

思わず声を荒げた。

シャッズは、元々は成り上がりの位持ちだったものの、王宮の宝物に手を付け拘留されている悪魔の名だ。

転移や転送、盗むことにかけては一級品の手を持っていた。あと一歩で宝物庫を空にされるところだった程だ。

今はただの罪人でしかない……はずだったのだが、人間と契約を結び魔力を分け与えてもらっているとは、次期王として情けない。早めに処分を下しておくべきだと父上に提言しなければ。

しかし魔法陣を描いて直接召喚しているところを見ると、使い魔とはなっていないらしい。

シャッズは端が裂けるほどにくちばしを大きく開け、中に広がる闇のような異空間へと禁書を呑み込んだ。

『これでいいわ……』

老婆が満足げに瞳を細める。
そういえばこの教師、俺がレオナードを転送したときにモナの授業を担当していた教師だ。名前は確か……

「マヌエラ・ミネッティ……だったか?」
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