12 / 22
12 疑惑
しおりを挟む
あの召喚実践の授業があった日から、私は比較的平穏な日々を過ごしていた。
誰も私に突っかかってくることはなく、マヌエラ先生や一部の生徒はいまだ不満そうだったが、リーゼラに関しては嫌味な態度も何もなく接してくる。不気味なくらいだ。
私はといえば、下級悪魔なども召喚できるようになるために、休日までオロヴァセーレから魔力のコントロールの方法を習っていた。
本来の姿が魔族と言えど、ノヴァーリスで優秀な魔導師として生活しているだけあり、彼の教えはとてもわかりやすい。ただ一つ、問題があるとすれば……。
「正直、アルトゥールと一緒にいるところはあんまり見られたくないんだけど……」
「……そのためにわざわざ、狭い個別学習室で訓練をつけてやってるわけだが」
白銀の髪と瑠璃色の瞳の好青年のうんざり顔を見るのにも慣れてきた。
彼が結界を張ってくれているため、彼の魔力量を超えない限りはいくらでも魔力を使えるし、どんな話でもできる。天才魔導師が使い魔というのはとても心強い。
「皆の憧れのアルトゥール先輩に教えてもらってるなんて知られたら、どれだけ妬まれるかわかる?」
「人間という生き物は複雑だな。お前が落ちこぼれと揶揄されていたのも、元は妬みからだろう?」
「うん、……それと、髪の色もあると思う。黒髪は縁起が悪いんだよ」
「魔界では黒髪はむしろ素晴らしい才の表れだが、……おい、魔力が膨らんできている。もっと内側へと抑えろ」
「ん……ごめん、ちょっと集中力切れてきた……」
「……少し休憩するか」
転移魔法を使ってアルトゥールがその場を去ると、深く息を吐く。
私の才能を見込んでのことなのだろうが、彼の指導は中々に厳しい。重い体で学習室を去り、そのまま図書館を後にした。
たまには学外でお茶でもしようか。今まで勉強ばかりでろくに遊んでいなかったから、王都には慣れていない。
そんなことを考えていると、どこかからこちらへと向かってくるせわしない足音が聞こえてきた。
「いました!彼女です!」
同時に鬼気迫る金切声が耳に入り、何事かと振り返ると、ノヴァーリスの職員を数人連れたリーゼラがこちらへと走ってきているのが見えた。
何かあったのだろうかと疑問に思う中、彼女たちが私の方へと向かっていることに気付いた。
「きゃあっ!?な、何!?」
「モナ・フェスタ―だな!お前には許可なく禁術の書を盗み出した疑いがかけられている。連行するぞ」
すぐに私はノヴァーリスの職員に取り押さえられた。じゃりじゃりとした土の味が口の中に広がる。
禁術……?
疑問には思ったが、段々と意識が薄れていく。職員の魔法だろう。
遠巻きに見えるリーゼラのほくそ笑いを最後に、私の意識は途切れた。
誰も私に突っかかってくることはなく、マヌエラ先生や一部の生徒はいまだ不満そうだったが、リーゼラに関しては嫌味な態度も何もなく接してくる。不気味なくらいだ。
私はといえば、下級悪魔なども召喚できるようになるために、休日までオロヴァセーレから魔力のコントロールの方法を習っていた。
本来の姿が魔族と言えど、ノヴァーリスで優秀な魔導師として生活しているだけあり、彼の教えはとてもわかりやすい。ただ一つ、問題があるとすれば……。
「正直、アルトゥールと一緒にいるところはあんまり見られたくないんだけど……」
「……そのためにわざわざ、狭い個別学習室で訓練をつけてやってるわけだが」
白銀の髪と瑠璃色の瞳の好青年のうんざり顔を見るのにも慣れてきた。
彼が結界を張ってくれているため、彼の魔力量を超えない限りはいくらでも魔力を使えるし、どんな話でもできる。天才魔導師が使い魔というのはとても心強い。
「皆の憧れのアルトゥール先輩に教えてもらってるなんて知られたら、どれだけ妬まれるかわかる?」
「人間という生き物は複雑だな。お前が落ちこぼれと揶揄されていたのも、元は妬みからだろう?」
「うん、……それと、髪の色もあると思う。黒髪は縁起が悪いんだよ」
「魔界では黒髪はむしろ素晴らしい才の表れだが、……おい、魔力が膨らんできている。もっと内側へと抑えろ」
「ん……ごめん、ちょっと集中力切れてきた……」
「……少し休憩するか」
転移魔法を使ってアルトゥールがその場を去ると、深く息を吐く。
私の才能を見込んでのことなのだろうが、彼の指導は中々に厳しい。重い体で学習室を去り、そのまま図書館を後にした。
たまには学外でお茶でもしようか。今まで勉強ばかりでろくに遊んでいなかったから、王都には慣れていない。
そんなことを考えていると、どこかからこちらへと向かってくるせわしない足音が聞こえてきた。
「いました!彼女です!」
同時に鬼気迫る金切声が耳に入り、何事かと振り返ると、ノヴァーリスの職員を数人連れたリーゼラがこちらへと走ってきているのが見えた。
何かあったのだろうかと疑問に思う中、彼女たちが私の方へと向かっていることに気付いた。
「きゃあっ!?な、何!?」
「モナ・フェスタ―だな!お前には許可なく禁術の書を盗み出した疑いがかけられている。連行するぞ」
すぐに私はノヴァーリスの職員に取り押さえられた。じゃりじゃりとした土の味が口の中に広がる。
禁術……?
疑問には思ったが、段々と意識が薄れていく。職員の魔法だろう。
遠巻きに見えるリーゼラのほくそ笑いを最後に、私の意識は途切れた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる