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11 騒動、その後
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「レオナードって何?どんな悪魔?」
「教科書に載ってないよね……見た目も怖いし」
「本当にフェスタ―が召喚したのかよ?」
ざわつく教室の中心で、私はどうしていいのかわからず立ちすくんでいた。
レオナード。確か、大勢いる低級の魔族を統率する長だ。勿論レオナード自身は低級ではなく、紛うことなく上級の魔物だ。
『レオナード、ただいま馳せ参じました』
ぼわんと響くような低い声が頭の中に流れ込んでくる。同時に大きなヤギの頭を垂れさせ、その場に跪く。
それを見て更に室内は騒然とし、マヌエラ先生はわなわなと唇を震わせている。
「ミス・フェスタ―!これは本当に、本当に貴方が、ご自分で召喚なさったの!?」
小動物の鳴き声のようにキーキーとした声で喚いている。違いますと言うわけにもいかない。
「は、はい……そうです」
「そ、そうですか。そう……。では、ええと、……次の方に移りましょう。その悪魔を引っ込めなさい」
引っ込めると言われても、私が召喚したわけではないため、オロヴァセーレに頼まなければ。
そこでやっとオロヴァセーレの存在を思い出し、指輪を通じて念じる。
────オロヴァセーレ!
────ああ。これでやっと他の生徒のスタートラインに立てただろう?
スタートラインなわけがない。むしろゴールですらある。かみ合わない話がもどかしいが、今優先するべきは他のことだ。
────違うけど、とりあえずレオナードを戻して。あとで話があるから!
────……?そうか。わかった。
納得していない様子だったが、すっと霧散するようにレオナードの姿が消えた。それを見てほっと一息つき、私は席の方へと戻った。
「疲れた……」
思わず声に出ていた。
「あの」
机に突っ伏しぐったりと脱力していると、突然女の声が側から聞こえた。顔を上げると、化粧で彩られた目を吊り上げたリーゼラが側に立っている。
「さっきの悪魔は、貴方が?」
「ええ、私が。……悪い?」
「……。そう。私、貴方を勘違いしていたようね」
どんな風に突っかかってくるのかと思ったが、予想外にも笑みを浮かべて柔らかな態度で接してくる。なんだか不気味だ。
「これから切磋琢磨いたしましょう?改めてよろしく、モナさん」
「あ……うん。……よろしく」
差し出された白い手を握り、握手をする。にこりと笑顔を残すと、彼女はまた自分の席へと戻っていった。
「……ふん、よく言うわ。どんな手を使ったのか知らないけど、実力なわけないじゃない。アンタは下級悪魔すら召喚できない落ちこぼれなんだから。」
一日の全ての授業が終わり、今日は図書館へと行かずにまっすぐ部屋へと戻った。
ベッドに寝そべり、昼間の授業のことを考えながら指輪をじっと見つめる。
────ねえ、さっきのは何?
────……さっきの、というのは、あの召喚授業のことか?……レオナードが何か非礼でも?
────違う。私が求めたのは下級悪魔!もう、ちゃんと聞いてなかったの?
────だから、レオナードを寄越しただろう。何が不満なんだ。
どうにも話がかみ合わない。特に意地悪をしているわけではなく、本当に私の言いたいことがわかっていないらしい。
────えっと、……私が求めてたのは、インプとかフェアリーとか……。
────インプ!?……ああ、そんな。すまない、普通はインプが……。そうなのか、……。じゃあレオナードは……。
────上級。……そっか、オロヴァセーレは王子様なんだよね。
────インプ……フェアリー……。
────あの、あんまり気にしないで。
世継ぎである彼には、レオナードですら下級だと勘違いしていたらしい。ノヴァーリスに在籍しているにも関わらず、召喚術師クラスの授業内容を勘違いしていた自分が信じられないようで、何かぶつぶつと呟きながら落ち込んでいる様子だ。これ以上はそっとしておこう。
その日は疲れていたから、この学園に来てから初めて自習をせずに寝た。
だから私はこのとき、本棚に見知らぬ本が一冊増えていることに気付いていなかったのだった。
「教科書に載ってないよね……見た目も怖いし」
「本当にフェスタ―が召喚したのかよ?」
ざわつく教室の中心で、私はどうしていいのかわからず立ちすくんでいた。
レオナード。確か、大勢いる低級の魔族を統率する長だ。勿論レオナード自身は低級ではなく、紛うことなく上級の魔物だ。
『レオナード、ただいま馳せ参じました』
ぼわんと響くような低い声が頭の中に流れ込んでくる。同時に大きなヤギの頭を垂れさせ、その場に跪く。
それを見て更に室内は騒然とし、マヌエラ先生はわなわなと唇を震わせている。
「ミス・フェスタ―!これは本当に、本当に貴方が、ご自分で召喚なさったの!?」
小動物の鳴き声のようにキーキーとした声で喚いている。違いますと言うわけにもいかない。
「は、はい……そうです」
「そ、そうですか。そう……。では、ええと、……次の方に移りましょう。その悪魔を引っ込めなさい」
引っ込めると言われても、私が召喚したわけではないため、オロヴァセーレに頼まなければ。
そこでやっとオロヴァセーレの存在を思い出し、指輪を通じて念じる。
────オロヴァセーレ!
────ああ。これでやっと他の生徒のスタートラインに立てただろう?
スタートラインなわけがない。むしろゴールですらある。かみ合わない話がもどかしいが、今優先するべきは他のことだ。
────違うけど、とりあえずレオナードを戻して。あとで話があるから!
────……?そうか。わかった。
納得していない様子だったが、すっと霧散するようにレオナードの姿が消えた。それを見てほっと一息つき、私は席の方へと戻った。
「疲れた……」
思わず声に出ていた。
「あの」
机に突っ伏しぐったりと脱力していると、突然女の声が側から聞こえた。顔を上げると、化粧で彩られた目を吊り上げたリーゼラが側に立っている。
「さっきの悪魔は、貴方が?」
「ええ、私が。……悪い?」
「……。そう。私、貴方を勘違いしていたようね」
どんな風に突っかかってくるのかと思ったが、予想外にも笑みを浮かべて柔らかな態度で接してくる。なんだか不気味だ。
「これから切磋琢磨いたしましょう?改めてよろしく、モナさん」
「あ……うん。……よろしく」
差し出された白い手を握り、握手をする。にこりと笑顔を残すと、彼女はまた自分の席へと戻っていった。
「……ふん、よく言うわ。どんな手を使ったのか知らないけど、実力なわけないじゃない。アンタは下級悪魔すら召喚できない落ちこぼれなんだから。」
一日の全ての授業が終わり、今日は図書館へと行かずにまっすぐ部屋へと戻った。
ベッドに寝そべり、昼間の授業のことを考えながら指輪をじっと見つめる。
────ねえ、さっきのは何?
────……さっきの、というのは、あの召喚授業のことか?……レオナードが何か非礼でも?
────違う。私が求めたのは下級悪魔!もう、ちゃんと聞いてなかったの?
────だから、レオナードを寄越しただろう。何が不満なんだ。
どうにも話がかみ合わない。特に意地悪をしているわけではなく、本当に私の言いたいことがわかっていないらしい。
────えっと、……私が求めてたのは、インプとかフェアリーとか……。
────インプ!?……ああ、そんな。すまない、普通はインプが……。そうなのか、……。じゃあレオナードは……。
────上級。……そっか、オロヴァセーレは王子様なんだよね。
────インプ……フェアリー……。
────あの、あんまり気にしないで。
世継ぎである彼には、レオナードですら下級だと勘違いしていたらしい。ノヴァーリスに在籍しているにも関わらず、召喚術師クラスの授業内容を勘違いしていた自分が信じられないようで、何かぶつぶつと呟きながら落ち込んでいる様子だ。これ以上はそっとしておこう。
その日は疲れていたから、この学園に来てから初めて自習をせずに寝た。
だから私はこのとき、本棚に見知らぬ本が一冊増えていることに気付いていなかったのだった。
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