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6 アルトゥール・クラウスナー
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「……アルトゥール・クラウスナー?」
その名前を口にした途端、悪魔の声がぴたりと止まった。目付きが更に鋭さを増し、こちらを睨み付けてくる。
最初は敵意ばかりが込められている視線だったが、次第に私のことを吟味するような雰囲気に変わった気がする。自分で名前を出しておいて何だけど、良く言えば爽やか、悪く言えば軽薄そうなアルトゥールとは似ても似つかないオーラだ。
口を閉ざしたままの彼の代わりに、私が先を切った。
「……この魔導書、貴方の忘れ物だったんです。だから……」
「……。その魔導書で俺を呼んだというのか?お前のような小娘が?まさか本当に……!」
「え……?」
つんと澄ましていた端正な顔立ちが、驚愕の色を露わにした。突然声を荒げた彼に思わず警戒の姿勢を取ると、自分の言葉の意図が伝わっていないことを察したのか、一つ咳払いをしてから彼が続けた。
「私……いや、いいか。俺の名はオロヴァセーレ。魔王の息子……つまり、いずれ魔界を統治する者だ。アルトゥール・クラウスナーは人間界における仮の名に過ぎない」
「え……?じゃあ、学園長の孫っていうのは……」
「学園長の記憶を改竄しただけだ。……その程度、赤子の手を捻るよりも容易だ」
そう言いつつもなんだか鼻が高そうだ。
「どうして悪魔が人間界に?そういうのってよくあることなんですか?あとは、えっと、……!」
「少し黙れ」
新情報が次々出てきて頭が混乱し、矢継ぎ早に質問を口にする私に向けて食指を指したかと思えば、その途端に声が出なくなった。使役者である私の行動を縛れるあたり、やはり魔王の息子なのだろう。
不満そうに見上げていると、彼が霞んだ幽体の馬から降りてこちらに近付いてくる。魔法陣から出る寸前まで近付くと、改めて顔立ちがはっきりと見えた。図書館で遭遇したアルトゥールとは雰囲気が正反対だ。
「……俺は、自らの召喚術師たる人間を探しに来た」
細めた瞳でまっすぐとこちらを見据えてくる。血のような色の目に影が差し、禍々しく感じる。
「俺の魔力に耐え得る人間。俺を使役するほどの強大な魔力の持ち主。……それがお前、ということになるが」
重苦しかった視線がふっと軽くなり、再び吟味するような目へと変わった。じろじろと不躾に見回した後、くっと喉を鳴らして笑われた。
「お前、例の落ちこぼれだろう。ノヴァーリス創立きっての腑抜けと名高い」
「……っ」
言い返せない悔しさに唇を噛む。結局今回だって、私はアルトゥールの……オロヴァセーレの魔導書に宿る魔力に頼って彼を召喚したに過ぎない。このままオロヴァセーレを無理矢理使い魔にしたとしても、きっと魔力不足で喰われて終わるだけだろう。
彼がパチンと指を鳴らすと、声が出るようになった。
「……そう、です。私は魔力が少ないから、下級悪魔すら召喚できなくて……」
「違う」
遮られて顔を上げる。変わらない冷たい瞳がこちらを見下ろしていた。
「下級悪魔が寄り付くはずもない。畏れているんだ。……この才がわからないとは、ノヴァーリスも腑抜けたな。父上の時代はこうではなかったと聞いたが」
「え?どういう……」
この学園に来て以来の屈辱的な記憶が蘇ってくる。言葉をなくし視線をさまよわせていると、力が抜け、手に持っていた魔導書が床に落ちた。
「お前の魔力は多すぎる。……強大すぎる、ということだ」
その名前を口にした途端、悪魔の声がぴたりと止まった。目付きが更に鋭さを増し、こちらを睨み付けてくる。
最初は敵意ばかりが込められている視線だったが、次第に私のことを吟味するような雰囲気に変わった気がする。自分で名前を出しておいて何だけど、良く言えば爽やか、悪く言えば軽薄そうなアルトゥールとは似ても似つかないオーラだ。
口を閉ざしたままの彼の代わりに、私が先を切った。
「……この魔導書、貴方の忘れ物だったんです。だから……」
「……。その魔導書で俺を呼んだというのか?お前のような小娘が?まさか本当に……!」
「え……?」
つんと澄ましていた端正な顔立ちが、驚愕の色を露わにした。突然声を荒げた彼に思わず警戒の姿勢を取ると、自分の言葉の意図が伝わっていないことを察したのか、一つ咳払いをしてから彼が続けた。
「私……いや、いいか。俺の名はオロヴァセーレ。魔王の息子……つまり、いずれ魔界を統治する者だ。アルトゥール・クラウスナーは人間界における仮の名に過ぎない」
「え……?じゃあ、学園長の孫っていうのは……」
「学園長の記憶を改竄しただけだ。……その程度、赤子の手を捻るよりも容易だ」
そう言いつつもなんだか鼻が高そうだ。
「どうして悪魔が人間界に?そういうのってよくあることなんですか?あとは、えっと、……!」
「少し黙れ」
新情報が次々出てきて頭が混乱し、矢継ぎ早に質問を口にする私に向けて食指を指したかと思えば、その途端に声が出なくなった。使役者である私の行動を縛れるあたり、やはり魔王の息子なのだろう。
不満そうに見上げていると、彼が霞んだ幽体の馬から降りてこちらに近付いてくる。魔法陣から出る寸前まで近付くと、改めて顔立ちがはっきりと見えた。図書館で遭遇したアルトゥールとは雰囲気が正反対だ。
「……俺は、自らの召喚術師たる人間を探しに来た」
細めた瞳でまっすぐとこちらを見据えてくる。血のような色の目に影が差し、禍々しく感じる。
「俺の魔力に耐え得る人間。俺を使役するほどの強大な魔力の持ち主。……それがお前、ということになるが」
重苦しかった視線がふっと軽くなり、再び吟味するような目へと変わった。じろじろと不躾に見回した後、くっと喉を鳴らして笑われた。
「お前、例の落ちこぼれだろう。ノヴァーリス創立きっての腑抜けと名高い」
「……っ」
言い返せない悔しさに唇を噛む。結局今回だって、私はアルトゥールの……オロヴァセーレの魔導書に宿る魔力に頼って彼を召喚したに過ぎない。このままオロヴァセーレを無理矢理使い魔にしたとしても、きっと魔力不足で喰われて終わるだけだろう。
彼がパチンと指を鳴らすと、声が出るようになった。
「……そう、です。私は魔力が少ないから、下級悪魔すら召喚できなくて……」
「違う」
遮られて顔を上げる。変わらない冷たい瞳がこちらを見下ろしていた。
「下級悪魔が寄り付くはずもない。畏れているんだ。……この才がわからないとは、ノヴァーリスも腑抜けたな。父上の時代はこうではなかったと聞いたが」
「え?どういう……」
この学園に来て以来の屈辱的な記憶が蘇ってくる。言葉をなくし視線をさまよわせていると、力が抜け、手に持っていた魔導書が床に落ちた。
「お前の魔力は多すぎる。……強大すぎる、ということだ」
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