学園一の落ちこぼれ召喚術師の私が魔王の息子を召喚できてしまったわけですが、皆さんどんな気持ちですか?

かやかや

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5 魔導書の誘導

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頭の中で必死に行きたくないと念じるが、魔導書に操られた体は気にすることもなく外へと出て行ってしまった。

気付けば校舎内にいた。私の足音と、窓に雨が当たる音だけが校舎内に響く。傘も差さずにここまで歩いてきた私は濡れねずみで、静かな雰囲気もあいまって寒気がした。

地下の扉を開け、魔導書が進んでいたのは、どうやら召喚室の方向らしい。

この時間に地下室にいると、日々の補習のことを思い出す。意地悪で嫌味っぽいマヌエラ先生。私が何も召喚できなければ、彼女の責任とされるからだろう。

彼女は、私が何か召喚できれば私を認めてくれるのだろうか。

手に持った魔導所を一瞥いちべつする。これほどの魔力を借りれば、私にだって下級の召喚くらいは……

そんなことを考えている内、召喚室に着いていた。扉の前に立った途端、手の中の魔導書が熱くなったかと思えば、自然と扉が開いた。

石畳の床には授業外時間だというのに魔法陣が描かれていて、何で描いたのかツンとする臭いが充満している。体の自由が利く状態だったら、間違いなく鼻をつまんでいたところだ。

そのまま真っ直ぐ進み、薄紫に発光する魔法陣の目の前で立ったかと思えば、そこでやっと足が止まった。少しだけ気が抜けて溜息をつき、体が自由になっていることに気が付いた。

こんな時間にこんなところをふらふらしていることが知られたら大問題だ。さっさと帰ろう。
────と、普通は思うはずだ。というか、考え自体は頭に中にある。そう思っているはずなのに、先程からさかんに過っていく考えが再び蘇ってくる。

“もしかしたらこれを使えば、私にも召喚ができるようになるのではないか。”
“これほどの魔力を借りれば、私にだって下級の召喚くらいは……”

本を開くと、見覚えのない魔法文字が並んでいるページが開いた。私には読めない魔法文字のはずなのに、自然と読み方が頭の中に浮かんでくる。気付いたときにはその文章を口にしていた。

同時に床に描かれた魔法陣が鈍く光り始める。室内に強大な魔力が渦を巻き、よどんだ色の煙が生まれて魔法陣を囲んだ。

体の中で魔力が循環する感覚がわかった。最初は体内だけだったその感覚が段々と指先から外に滲み始め、次第に魔力が私の体を包み、そうして大きく広がった力が魔法陣の中心へと集まっていく。

これが召喚の感覚。初めて味わう感覚に胸が高鳴る。

魔法陣の中心に集まった私の魔力が段々と輪郭を形成し、姿を現し始めた。四つ足の動物……大きくて首が長い。馬に似ている。ぼんやりとそんなことを考えていると、頭の中に声が響いてきた。

────小娘。不遜にも私を呼んだのはお前か

重々しい声だ。空気が張り詰め、思わず息を呑むが、召喚者たる私が弱腰では相手に主導権を握られてしまう。

「黙りなさい。不遜だろうと小娘だろうと、使役者は私。姿を現しなさい」

なるべく強い語調で言い切ると、不服そうな息遣いを最後に魔法陣の光が強まり、目の前が眩んだ。視界が開けてくると、魔法陣の中心には確かに姿が現れていた。

最初に見えたのは、不気味に霞んだ青い馬。たてがみは青い焔が揺れ、その上にはすらりとした姿の男性が跨っていた。塗り潰したような黒の髪と、対照的な色白の肌。美しいコントラストに映えるのは切れ長のルビーのような瞳で、火のような熱い色の目が冷たくこちらを睨んでいた。軍服にも似たデザインの黒の服に、右肩にだけある肩章についた赤いマントが、風もないのになびいていた。

呆けたようにその姿を眺めていたのは、顔立ちにどこか見覚えがあったから。視線が気に障ったのか、形の整った眉を一瞬しかめ、吐息っぽく語りかけてくる。

「……ふん。間の抜けた顔の娘だ。こんな輩に召喚ばれるだなどと……」

声を聞いて、ますます既視感が強まった。どこかで聞いたことがある。というか、最近どこかで話した気がする。確かこの声は────

「……アルトゥール・クラウスナー?」
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