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9 転学勧告

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「失礼します。召喚術師サマナークラス1回生、モナ・フェスタ―です」
「どうぞ。入りなさい」

重厚な扉を開き、室内へと入る。トロフィーや盾がいくつも飾られた大きな棚、ふかふかの赤い絨毯。正面のデスクに腰掛けているのは、白髭を生やした老人……ノヴァーリスの学園長だ。ノヴァーリスらしい黒のローブを羽織っており、逆光で浮かび上がったシルエットは丸みを帯びている。

「掛けなさい。楽にしてくれていい」
「はい。失礼します」

向かい合ったソファの片方に座ると、学園長もそれを追って向かいに腰を掛けた。

「ええと、お話というのは……?」

緊張に耐え切れず、私の方から口を開く。学園長は何と言うべきか迷うように口をもごつかせてから、一つ溜息をついた。

「誤魔化しても仕方あるまい。単刀直入に言わせてもらうが、君の召喚術の実践成績が芳しくないことについてだ」
「……はい」

いつかは言われてしまうだろうと予想はしていたため、驚きはしない。

「それに加えて、君が門限を過ぎてから寮を抜け出して遊び歩いているとも聞いている。昨夜も部屋を出ていたとか」
「ち、違います!確かに昨夜は訳あって校舎に行きましたが、昨日が初めてのことです!」

予想外の発言に立ち上がってしまいそうなのを堪え、膝の上で拳を握った。きっとルームメイトのあいつが報告したんだろう。

「ふむ、……とにかく、せめて期末考査までに下級悪魔程度は召喚してもらえなければ、こちらとしても困ってしまうんだ。……召喚術師学校はノヴァーリス以外にもある。推薦状も書こう。ノヴァーリスからの推薦ならばどこの学校にだって入れるさ」

罪悪感からか目を伏せる老人を前に唇を噛む。昨夜初めての召喚が成功したことを伝えれば、この話も一旦は落ち着くだろうか。視線を落とし、指輪を見詰めた。

「……私は、」

──トントン
言いかけたところで、ノックの音が鳴り響いた。

「お話中失礼します。お祖父様、アルトゥールです」
「ああ、……すまないね、フェスタ―くん。入りなさい」

礼儀正しく入室してきたアルトゥールがちらりとこちらを一瞥し、何か言いたげに一瞬だけ瞳を細めた。

「魔法省からご連絡が。お急ぎとのことでしたので、可能であれば今すぐに」
「そうか?変だな、そんな予定は……。フェスタ―くん、少しここで待っていてくれるか?」
「はい、わかりました」

学園長が腰を上げ、アルトゥールの隣を抜け部屋を出て暫くすると、アルトゥールが近付いてきた。

「転学か。それは困るだろう」
「うん……」
「次の召喚術の実践授業があるとき、俺を呼ぶといい。……勘違いするなよ、指輪でだ。合図をくれれば俺から下級悪魔を送り込む」
「……貴方のことは言っちゃいけないの?」

その質問をした途端、何とも言えない渋い表情が目に入る。

「……功績をひけらかして、今すぐに評価を覆したいと?」
「……そういうわけじゃないけど」
「機会を待て、と言っている。……いいな?とりあえずは転学を免れろ」

静かに頷くと、彼も顎を引いた。
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