学園一の落ちこぼれ召喚術師の私が魔王の息子を召喚できてしまったわけですが、皆さんどんな気持ちですか?

かやかや

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3 ひとりぼっち図書館

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「さて、生徒諸君。マルセロイ暦568年から王位に着いたツェヴェールの退位は?わかる者はいるか?」

教師が広い講義室に向けて問い掛けるが、誰も手を上げようとはしない。値踏みするように教室内を見回すと、壇上に立つ二つの目がこちらを向いた。

「……では、フェスターに答えてもらおう。召喚がからきしな分座学に精を出していると聞いたが?」

途端に教師の口角が僅かに上がり、わざとらしく声高に私を揶揄してくる。最初は教師からも馬鹿にされることに対しかなり傷付いたが、今はもう慣れっこだ。気に障らないわけじゃないけど。

「マルセロイ暦811年です」
「……正解だ。どうやらフェスターはエンターテイナーの才能もないらしい」

静かに席を立って答えると、教師は不満そうに声のトーンを落としてまた一つ私を馬鹿にした。面白くもないジョークだというのに、私を貶めるためだけにクスクスと周囲から笑い声がこぼれる。

悔しくないと言ったら嘘になる。だから私は、召喚ができない分、できるだけ座学で補おうとたくさん勉強をした。中間試験では、座学の成績は全てA評価だった。

それでも総合成績が芳しくないのは、最も重要と言っても過言ではない「召喚実践」で最低のE評価だからだ。だけど、まだEをもらえるだけでもマシだ。できないからと言って授業に出席しなければ評価はつかず、最も重要な授業に対するやる気がない、と見られる。

だから私は、毎回休まずに召喚実践の授業に出席している。…そして、毎回授業の中で下級悪魔の召喚テストを受けさせられる。勿論、生徒や教師のための見せ物ショーでしかない。

ひどいときは、魔法陣の中心からもくもくと煙が現れ光が漏れ、やっと下級悪魔の召喚ができたのかと期待に胸を膨らませたところで、教師の仕込んだドッキリだったということがわかった。記憶にある限り、あの授業が一番盛り上がっていただろう。

「それでは本日の授業は終了だ。期末試験が近づいているから、各自自習に励むように。……下級悪魔の召喚に失敗するような落ちこぼれになりたくなければだが」

陰湿な言葉は気にせず、私は幽霊のように教室を抜け出した。


向かう先は図書館だ。図書館には個別学習スペースがあり、予約さえすれば数時間の間一人きりで勉強にふけることができる。司書から鍵を受け取って、真っ先に個学習スペースの扉を開けた。

「……え?」
「あれ?」

私が予約していたはずの個別学習スペースには既に人がいた。互いに間の抜けた声を上げる。そこにいたのは私ですら知っている、白銀の髪と海色の瞳。稀代の天才、アルトゥール・クラウスナーだ。

透き通るような銀色の睫毛が何度も上下し、不思議そうにまばたきを続けている。きっと私も、同じように目を丸くしているのだろう。先に動いたのはアルトゥールの方で、困ったように苦笑いを浮かべている。

「えっと……、どうしてここに?何か用だったりするのかな」
「どうしてって……、私が予約していたからですけど」

おかしなことを聞く彼に対し、怪訝そうに眉を寄せながら答えた。彼も同じように不可解そうにこちらを見つめていたが、その内ころころと笑い声を上げて白い喉を見せた。

「そうか!ごめんね、俺の方が勘違いしていたらしい。……君、名前は?所属はどこ?後日お詫びをさせてくれるかな」
「……結構です」

誤解がわかったというのに、彼は一向に動く気配を見せない。迷惑だ、と言外に告げるように表情をしかめると、困ったように眉尻を下げてアルトゥールが笑った。

「……そう怒らないで。わかったよ。今度食堂ででも会ったら何か奢るから」

苦々しく言い残して学習室内を出ていく背をじっと見詰め、やっと一人だけの空間を得られたことに安堵し溜息をついた。



「おかしい……人払いはしたはずだ。なんであんな小娘なんかが入って来た?邪魔しやがって……」

後ろ手に戸を閉め、苛立ちを抑えるためにガシガシと髪を掻き乱す。忌々しげに個室内にいる小娘を扉越しに数秒睨んでから、再び前を向いて歩き始める。その頃には、ノヴァーリスきっての天才、アルトゥール・クラウスナーの顔に戻っていた。
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