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裏切り者の町
宴の準備
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ダーリは気のいいストレーガだった。
人間の暮らしに興味津々で、カイの話を真剣に聞き、どんな些細なことにも興味を示す。
土の味のする薬膳のような不味いお茶をお代わりしながら、かれこれ二時間ほど。
ダーリの話によると、前町長であり最高齢であったラシカが突然失踪してからというもの、この町に伝わる人間の伝記が途絶え、更新されることのないまま今に至るのだという。
「町民たちは人間の最新情報に飢えているんですよ。
ラシカが消えた損失は大きいんです。
彼は生き字引のような存在でしたから」
「なぜそんなに人間に興味があるんですか?」
「簡単なことです、人間の変化は凄まじいでしょう?
私が知る限りどんどん進化している。
科学が進歩し、オートメーション化も。
それらの返還は、彼らの見る夢にも反映されていく。
つまりイマジェニスタのことです。
人間が今なにを考え、どんな生き方をしているのか知ることは、今後のイマジェニスタの未来を知ることと同義なんです」
「なるほど。なんとなくですが意図するところがわかったような気がします。
ところであの、話は横道に逸れますけど…
皆さんが被っている帽子にはなにか意味があるんですか?」
カップを持ち上げかけたダーリの手がぴたりと止まった。
「なぜそんなことを気になさるんです?」
「ここに来るまでたくさんの住民とすれ違いましたが、帽子を被っていない人を誰も見かけなかったからです。
それに…」
言っていいのか考えあぐねた挙句、遠慮がちに質問するカイ。
「ダーリさんも奥様も、家の中で帽子を被ったままなので」
「この帽子は…そうですね、人間で言うところの下着と同じような感じでしょうか。
人様の前で脱ぐものではありませんし、脱ぐのはとても恥ずかしいんですよ」
「そうなんですか!?
頓珍漢なことをお聞きして、すみません」
恐縮するカイ。
リアラルで、なぜパンツを履いている、脱がないのか?と聞くようなものだ。
さっさと本題に移ろう。
「ところで僕、はぐれてしまった仲間を探しているんです」
「それは大変ですね、人探しですか」
「はい。ストレーガと小鬼と、護り部です」
「………」
「………………」
!?
なんだ、この間は。
なにかまずいことでも言ってしまったんだろうか。
「コホン。あの今、護り部とおっしゃいましたか?」
淡々とした静かな口調。
「……あっ、はい」
不安になるカイ。
こんなとき、相手の表情が隠れて見えないのは弱ったもんだな。
「そうでしたか。
……………」
「あの、それがどうかしましたか?僕またなにか失礼を…」
「いえいえ、
とんでもありません。
ありませんよ、とんでも」
ここへ向かう途中で聞いたディッパーの変な言い回しにそっくりだ。
奇妙な顔をしているカイを見て、ダーリが慌てて付け加えた。
「失礼でもなんでもありませんよ。少し驚いたものですから」
元の明るいトーンに戻っているが、なんだかさっきは少しトゲのある言い方だったような。
助けを求めて隣のディッパーを見ると、振る舞われたお茶菓子をがっついている。
話をまるで聞いていないようだ。
「ストレーガの中でも非常に身分の高いごくごく一部の者は、生まれてすぐ護り部を賜ります。
ご両親が授けるのですよ。むろん、授ける者がそれだけの魔力を有していなければ不可能ですけれどね。
しかし人間に護り部とは…聞いたことがない」
どこまで話していいものか。
とりあえず、詳細は黙っていることにしよう。
カイは成り行きを見守ることにした。
「小鬼については詳しくありませんが、ストレーガのほうでしたらお力になれるかも。
なんという方ですか?」
「狐火です」
ガタッ……!
ダーリが勢いよく立ち上がった。
「狐火様!」
思わず仰け反るカイ。
「なんと狐火様のお知り合いでしたか。
存じ上げず、これはとんだ御無礼を。
すぐさま宴の準備にかかります。
二時間ほどお時間を頂戴しますが、それまで町中を散策などして、ごゆっくりお楽しみください」
満面の笑みのカーリンが、呆気に取られるカイの背中を押し押し、いささか強引に屋敷の外へ追い出す。
致し方なく、ディッパーともどもそそくさと屋敷をあとにするカイであった。
人間の暮らしに興味津々で、カイの話を真剣に聞き、どんな些細なことにも興味を示す。
土の味のする薬膳のような不味いお茶をお代わりしながら、かれこれ二時間ほど。
ダーリの話によると、前町長であり最高齢であったラシカが突然失踪してからというもの、この町に伝わる人間の伝記が途絶え、更新されることのないまま今に至るのだという。
「町民たちは人間の最新情報に飢えているんですよ。
ラシカが消えた損失は大きいんです。
彼は生き字引のような存在でしたから」
「なぜそんなに人間に興味があるんですか?」
「簡単なことです、人間の変化は凄まじいでしょう?
私が知る限りどんどん進化している。
科学が進歩し、オートメーション化も。
それらの返還は、彼らの見る夢にも反映されていく。
つまりイマジェニスタのことです。
人間が今なにを考え、どんな生き方をしているのか知ることは、今後のイマジェニスタの未来を知ることと同義なんです」
「なるほど。なんとなくですが意図するところがわかったような気がします。
ところであの、話は横道に逸れますけど…
皆さんが被っている帽子にはなにか意味があるんですか?」
カップを持ち上げかけたダーリの手がぴたりと止まった。
「なぜそんなことを気になさるんです?」
「ここに来るまでたくさんの住民とすれ違いましたが、帽子を被っていない人を誰も見かけなかったからです。
それに…」
言っていいのか考えあぐねた挙句、遠慮がちに質問するカイ。
「ダーリさんも奥様も、家の中で帽子を被ったままなので」
「この帽子は…そうですね、人間で言うところの下着と同じような感じでしょうか。
人様の前で脱ぐものではありませんし、脱ぐのはとても恥ずかしいんですよ」
「そうなんですか!?
頓珍漢なことをお聞きして、すみません」
恐縮するカイ。
リアラルで、なぜパンツを履いている、脱がないのか?と聞くようなものだ。
さっさと本題に移ろう。
「ところで僕、はぐれてしまった仲間を探しているんです」
「それは大変ですね、人探しですか」
「はい。ストレーガと小鬼と、護り部です」
「………」
「………………」
!?
なんだ、この間は。
なにかまずいことでも言ってしまったんだろうか。
「コホン。あの今、護り部とおっしゃいましたか?」
淡々とした静かな口調。
「……あっ、はい」
不安になるカイ。
こんなとき、相手の表情が隠れて見えないのは弱ったもんだな。
「そうでしたか。
……………」
「あの、それがどうかしましたか?僕またなにか失礼を…」
「いえいえ、
とんでもありません。
ありませんよ、とんでも」
ここへ向かう途中で聞いたディッパーの変な言い回しにそっくりだ。
奇妙な顔をしているカイを見て、ダーリが慌てて付け加えた。
「失礼でもなんでもありませんよ。少し驚いたものですから」
元の明るいトーンに戻っているが、なんだかさっきは少しトゲのある言い方だったような。
助けを求めて隣のディッパーを見ると、振る舞われたお茶菓子をがっついている。
話をまるで聞いていないようだ。
「ストレーガの中でも非常に身分の高いごくごく一部の者は、生まれてすぐ護り部を賜ります。
ご両親が授けるのですよ。むろん、授ける者がそれだけの魔力を有していなければ不可能ですけれどね。
しかし人間に護り部とは…聞いたことがない」
どこまで話していいものか。
とりあえず、詳細は黙っていることにしよう。
カイは成り行きを見守ることにした。
「小鬼については詳しくありませんが、ストレーガのほうでしたらお力になれるかも。
なんという方ですか?」
「狐火です」
ガタッ……!
ダーリが勢いよく立ち上がった。
「狐火様!」
思わず仰け反るカイ。
「なんと狐火様のお知り合いでしたか。
存じ上げず、これはとんだ御無礼を。
すぐさま宴の準備にかかります。
二時間ほどお時間を頂戴しますが、それまで町中を散策などして、ごゆっくりお楽しみください」
満面の笑みのカーリンが、呆気に取られるカイの背中を押し押し、いささか強引に屋敷の外へ追い出す。
致し方なく、ディッパーともどもそそくさと屋敷をあとにするカイであった。
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