表と裏と狭間の世界

雫流 漣。

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離別のとき

砂漠の生存者

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照りつける太陽が肌を焼く。
見渡す限り、砂、砂、砂…

なんだこの暑さ。
羽毛のたっぷり詰まったダウンジャケットを脱いで、男が立ち上がる。
俺たちは死んだのか?
走馬灯を見た記憶はないが、あれが地獄でないなら、なんだって言うんだ?
祖国を捨て、高飛びして、一発当てにいく途中だったはずだ。
地元のマフィアも俺たちの到着を首を長くして待ってるのに。


ここはどこなんだ。
まるで砂漠じゃないか。
あの世にも砂漠があるのか知らんが。
立ち尽くし途方に暮れる男。

…と、一面淡色で覆われた視界の端に、鮮やかな赤が飛び込んできた。
男は、おぼつかない足取りでよろよろと近づくと、しゃがみこみ、地に膝をつけてそれを見つめる。
手を伸ばして赤いものに触れると、それはぐにゃりと柔らかかった。溶けかかって、ベタついている。
はっとして触れた手を引っ込める。
熱風に煽られ、もみくちゃにされながらも、男はおそるおそる地面を掘り始めた。

やがて、黄砂の中から顔を出したものは…
拳ほどの大きさの、真っ赤なゼリービーンズだった。
ゼリービーンズの先は棒状になっており、なにかののようだ。
砂の熱さで火傷しそうな温度。
それを見た男は半狂乱になった。
目を血走らせて、砂を掻き分ける。
指の皮が剥け、血が滲んだがなおも掘り続けた。

緑色をした衣服の切れ端。
何度となく見てきた迷彩柄だ。
やがて砂の下に、髪のようなものが見て取れた。
間違いない、この下に人が埋まっているのだ。

一心不乱に掘り進むうち、少しずつ全容が明らかになっていく…
必死に掘り続けて発見したものは、兄貴の遺体だった。
なんでこんなことに。
一度死んだのに、あの世でまたもう一度死ぬなんてことがありえるのか?

男は流す涙も無くしていた。
あのとき、もしも一度、ギルの座席まで戻って指示を仰いでいたら、この事態は避けられたろうか。
兄貴と俺は、ただリーダーに認められたかっただけだ。
俺たちは、あの二人に内緒で点数稼ぎをしようと単独行動をした、それが悪かったのか。
俺はもう駄目かもしれない。
せめて…リーダーたちは無事であってほしい。
頼む、無事でいてくれ。

ゴージャスなプールサイドで、デッキチェアに横になってくつろぐサングラスの彼らを想像して、男は口元に引きつったみを浮かべた。


男はいつまでもその場を離れなかった。
どうせ行くあてなどない。
ここにあるのは砂の嵐だけだ。
逃げ場なんてあるものか。
何時間も何時間も。
亡骸を抱きしめてうずくまったまま動かない男の体を、熱い砂が覆い隠していった。
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