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ハイジャックと空駆ける天馬
緊急アナウンス
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どのくらい経っただろうか。
けたたましい騒音が辺りの空気をつん裂き、眠っていた乗客たちが次々と目を覚ます。
何かの異常を知らせる警報が鳴り響いている。
ほどなくして警報が止み、それと同時にアナウンスが流れた。
「機体最後尾のラバトリー内で火災報知機が作動しました。乗務員2名がすみやかに確認を行っています。しばらくお待ちくださいませ」
「ラバトリーとはなんじゃ?」
狐火が不機嫌に目を擦りながら質問する。
「トイレですよ。誰かが煙草でも吸おうとしたんじゃないですか?ほら…」
パンプレットの一部を指さしてカイが続けた。
「機内へのライターの持ち込みは一つまで可」
と書かれている。全面禁煙なのだからライターの持ち込みは不可にすれば良いものを。
よくあることなのだろうか。
周囲を見渡すと、乗客たちは慌てる様子もなく落ち着き払って大人しく座っている。
狐火だけがソワソワと身をよじっているのが気になったがカイは何も言わず黙っていた。
ピンポンパンポーン…
経過の詳細を告げるアナウンスが入る。
「先ほどの警報についてお知らせします。お客様が誤って火器を使用したことによる警報機の作動と判明しました。火災報知機とスプリンクラーが反応しましたが、安全面に特に問題がないことが確認出来ましたので、ご安心ください。なお、ラバトリーは清掃中のため、二十六時四十五分までご使用になれません。
ご了承くださいますよう、よろしくお願いします。…繰り返します」
同じ内容が数回続き
「それでは…引き続き、快適な空の旅をお楽しみくださいませ」
という言葉を最後にプツンと切れた。
「四十五分じゃと?あと十分も待たなければならんのか。冗談じゃない、我慢の限界じゃぞ」
狐火がキイキイ声を発した。
さっきからずっとトイレを我慢していたのだ。
カイが止めるのも聞かず、ぴょこんと立ち上がるとラバトリーのある後部に向かって通路を歩いていってしまった。
やれやれ。
ストレーガも用を足すんだなと考えてカイはおかしくなった。
限りなく人間に近いじゃないか。
狐火がラバトリー近くまでやってきたとき、薄い壁の向こうからくぐもった女の声が聞こえた。
続いて、男の声。
何を話しているんだろう。清掃中にしては静かだ。
「言う通りにしろ。コックピットまで行って機長に伝えるんだ。変な気を起こしたら、この女の命はないぞ。乗客たちに悟られないよう行動しろ、いいな?」
命令されたCAが蒼い顔をして通路をこちらに向かって戻って来る。
狐火は、とっさにダストボックスのある壁の窪みに身を寄せて隠れた。
脇目も降らず真っ直ぐ前だけを見て、ふらふらとゾンビのように移動していくCAは、老人に気づかず行ってしまった。
物陰から様子をうかがう。
どうやら女性が一人、拘束されているようだ。
清掃していたCAの一人だろう。
猿ぐつわをされ、ナイフを首元に突きつけられている。
「金属探知機の故障はラッキーだったな。俺たちはついてる。きっと上手くいくさ」
「まぁな、こんなチャンス二度とはなお目にかかれないだろうしな。天は俺たちに味方した」
なんじゃこれは!
まさかこれが噂に聞くハイジャックとか言うやつなんじゃろうか。
リアラルの古い白黒映画で似たようなシーンを観たことがある。
人質を盾に犯行グループが政府に何かを要求するのだ。
こやつらの狙いがなにかは分からぬが、面白いことになってきおったわい…
狐火の口元に笑みが浮かんだ。
犯人は二人?ここからでは角度が悪い。
もう少し近づいて…
その姿をこの目で…
ジリジリと距離を詰める狐火。
その狐火の姿が、ラバトリーの洗面台の鏡に映りこんだ。
狐火に背中を向けた位置にいた男が、もう一人の男に目配せをして合図を送る。
視線の先には…腰の曲がった老人の姿。
萎びた骸骨のような様相、そこにのっぺりと張りついたしわくちゃの皮…思わず目を見張る。
ナイフを握った男は、幽霊さながらの気味の悪い年寄りがスリ足で近づいてくるのを見つめながら、この生き物は人間なのだろうかと考えていた。
思考停止状態。
悪寒を感じたのか一瞬大きくぶるっと震えたあと、呼吸を整えゆっくりと振り返った。
けたたましい騒音が辺りの空気をつん裂き、眠っていた乗客たちが次々と目を覚ます。
何かの異常を知らせる警報が鳴り響いている。
ほどなくして警報が止み、それと同時にアナウンスが流れた。
「機体最後尾のラバトリー内で火災報知機が作動しました。乗務員2名がすみやかに確認を行っています。しばらくお待ちくださいませ」
「ラバトリーとはなんじゃ?」
狐火が不機嫌に目を擦りながら質問する。
「トイレですよ。誰かが煙草でも吸おうとしたんじゃないですか?ほら…」
パンプレットの一部を指さしてカイが続けた。
「機内へのライターの持ち込みは一つまで可」
と書かれている。全面禁煙なのだからライターの持ち込みは不可にすれば良いものを。
よくあることなのだろうか。
周囲を見渡すと、乗客たちは慌てる様子もなく落ち着き払って大人しく座っている。
狐火だけがソワソワと身をよじっているのが気になったがカイは何も言わず黙っていた。
ピンポンパンポーン…
経過の詳細を告げるアナウンスが入る。
「先ほどの警報についてお知らせします。お客様が誤って火器を使用したことによる警報機の作動と判明しました。火災報知機とスプリンクラーが反応しましたが、安全面に特に問題がないことが確認出来ましたので、ご安心ください。なお、ラバトリーは清掃中のため、二十六時四十五分までご使用になれません。
ご了承くださいますよう、よろしくお願いします。…繰り返します」
同じ内容が数回続き
「それでは…引き続き、快適な空の旅をお楽しみくださいませ」
という言葉を最後にプツンと切れた。
「四十五分じゃと?あと十分も待たなければならんのか。冗談じゃない、我慢の限界じゃぞ」
狐火がキイキイ声を発した。
さっきからずっとトイレを我慢していたのだ。
カイが止めるのも聞かず、ぴょこんと立ち上がるとラバトリーのある後部に向かって通路を歩いていってしまった。
やれやれ。
ストレーガも用を足すんだなと考えてカイはおかしくなった。
限りなく人間に近いじゃないか。
狐火がラバトリー近くまでやってきたとき、薄い壁の向こうからくぐもった女の声が聞こえた。
続いて、男の声。
何を話しているんだろう。清掃中にしては静かだ。
「言う通りにしろ。コックピットまで行って機長に伝えるんだ。変な気を起こしたら、この女の命はないぞ。乗客たちに悟られないよう行動しろ、いいな?」
命令されたCAが蒼い顔をして通路をこちらに向かって戻って来る。
狐火は、とっさにダストボックスのある壁の窪みに身を寄せて隠れた。
脇目も降らず真っ直ぐ前だけを見て、ふらふらとゾンビのように移動していくCAは、老人に気づかず行ってしまった。
物陰から様子をうかがう。
どうやら女性が一人、拘束されているようだ。
清掃していたCAの一人だろう。
猿ぐつわをされ、ナイフを首元に突きつけられている。
「金属探知機の故障はラッキーだったな。俺たちはついてる。きっと上手くいくさ」
「まぁな、こんなチャンス二度とはなお目にかかれないだろうしな。天は俺たちに味方した」
なんじゃこれは!
まさかこれが噂に聞くハイジャックとか言うやつなんじゃろうか。
リアラルの古い白黒映画で似たようなシーンを観たことがある。
人質を盾に犯行グループが政府に何かを要求するのだ。
こやつらの狙いがなにかは分からぬが、面白いことになってきおったわい…
狐火の口元に笑みが浮かんだ。
犯人は二人?ここからでは角度が悪い。
もう少し近づいて…
その姿をこの目で…
ジリジリと距離を詰める狐火。
その狐火の姿が、ラバトリーの洗面台の鏡に映りこんだ。
狐火に背中を向けた位置にいた男が、もう一人の男に目配せをして合図を送る。
視線の先には…腰の曲がった老人の姿。
萎びた骸骨のような様相、そこにのっぺりと張りついたしわくちゃの皮…思わず目を見張る。
ナイフを握った男は、幽霊さながらの気味の悪い年寄りがスリ足で近づいてくるのを見つめながら、この生き物は人間なのだろうかと考えていた。
思考停止状態。
悪寒を感じたのか一瞬大きくぶるっと震えたあと、呼吸を整えゆっくりと振り返った。
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