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脱走
やって来た小鬼
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ヒイラギ荘のリビング。
お笑い漫画のように滑稽な図だなとカイは思っていた。
狭い空間でカイと向き合って座っているのは土気色の皮膚をしたゴブリンなのだから。
ジルはホットミルクが気に入ったらしく、さっきから五杯もおかわりしている。背筋も凍る醜悪な表情をしていながら、フウフウ冷まして飲んでいる姿が可笑しくて、カイはにっこりした。
猫舌な小鬼…なんてシュールな。
リックが事故にあってからというもの、異常な出来事の連続だったせいで、少しのことでは驚かなくなっている自分に気づく。
「慣れっていうのは恐ろしいな。
こんな状況でも笑う余裕があるんだから」
ジルがカップをテーブルに戻してカイに向き直った。
「あなたは異形の姿の私を見てもそれほど驚かなかった。そして護り部がついている。
なぜですか?」
「それが分かれば僕も苦労しないよ」
苦笑いするカイ。
「わたくしに任を与えたお方は。
ライファーンの可能性が高いカイ様を死んでも守り抜け、と」
「まぁ私は死なないんですけれども」
アニタが朗らかに笑った。
「ライファーン…」
ジルがごくりと生唾を飲む。
束の間の沈黙。
「話が見えないよ、なんだい?そのライファーンって」
カイが口火を切る。
大きくかぶりを振りながら向き直り、正面からじっとカイを見つめるジル。
「その質問に答えていいのか私には判断がつかない。
逆にこちらからも質問してよろしいですか?」
無言で頷くカイを見て、鋭い歯を剥き出したので一瞬ぎょっとしたが、小鬼はどうやら微笑んでいるようだ。
「生計を共にする人間はおりますか?もしくは、常に側にいるような近しい者が」
先を続けるジル。
「いや。僕にはそのどちらもいないよ。腐れ縁っていうのなら、リックくらいだ」
病床のリックが脳裏をよぎる。
「どういうことだ、さっぱり分からない。それが本当なら彼はライファーンではないのかもしれない。
それとも、これからプレアーと出会う運命なのか」
ジルがアニタに質問する。
「理解する必要はありません。
わたくしは、ただ、お役目を果たすのみ」
明るく凛とした抑揚で語るアニタの言葉を聞いて、カイの胸がなぜだかチクリと痛んだ。
「ところで。ジルはなぜリアラルにいらっしゃったのですか?
森の番人は通常、自分の持ち場を離れることはないはずです。
よほどのことがない限り」
「ああ…そうでした!
大変なことになってしまった…
今頃、狭間は大混乱だ」
頭を抱えて嘆いているつもりなのだろうが、頭部が巨大すぎて、ジルの両手は耳までしか届いていない。
カイは笑いそうになったが、耳を引っ張りながら苦悶の表情を浮かべるジルを見て、咳払いをしてこらえた。
どうやら笑ってはならない深刻な場面のようだ。
「なにがあったんですか?
僕にもわかるよう説明してください」
「たった一人の幼き少年の手によって…複数の魔導士の、尊い命が犠牲になった」
ことの顛末はこうだった。
狭間で行われる予定だった魔導大会が何者かの手によって妨害を受け、魔剣ゾイロスが奪われたこと。
瀕死のアイデムが一命を取り留め、安心した矢先、アイデムがその場にいた魔導士たち全員に襲いかかったこと。
ヤソックや数人の魔導士が応戦の末に殺され、ジルは命からがら狭間から逃げ出したこと。
不意の事態で、リアラルの降下ポイントを確かめる余裕もなく、たまたま動物園の噴水に出てきてしまったのだとジルは説明した。
申請していないため、魔法使用テリトリーを持っていないとも。
「私は、ご主人様を中心に半径5メートル圏内というテリトリーを受諾されてます」
「つまり、カイさんと行動を共にすれば私も魔法が使えるってことですね」
ジルが嬉しそうに叫ぶ。
「ねぇ、そいつがこっちの世界にやってくる可能性は?」
「もちろん」
暗い声で答えるジル。
「それどころか、既にやってきている可能性すらあります。
ずっと狭間にいたら捕まるのは時間の問題ですから」
「そんなのがこっちに来たら…
危険なんじゃ?」
重い空気が流れる。
「狭間が心配だから戻って様子を確かめに行きたくても、私にはどうすることもできません。
何人たりとも、ゴーデル様から召還の儀を受け賜わなければ、狭間に入ることが出来ないんです」
「僕に手伝えることはなにかある?危険なやつに誰かが傷つけられるかもしれないなんて見過ごせない」
ジルが腐った色をした指先を伸ばして、カイの手に触れた。
「あなたは勇敢な若者だ。
力を貸していただけると助かります。
なにぶん私はこのような見てくれですから、なにかと目立ちすぎます。
郷に入っては郷に従え、です。
リアラルのルールや常識を破りたくはないですしね」
「こう見えて、ジルはとてもマナーにうるさい小鬼なんですよ。
真面目すぎるくらいです」
鈴の音のようなアニタの笑い声。
「まったく気乗りはしませんが…狐火を頼るしか今のところ打つ手が思い浮かびません」
苦々しく鼻を鳴らして、唸り声を発したジルを見て、身をすくめるカイ。
「とりあえず、人前では大きな声を出したり、唸ったりしないほうがいいと思う」
失礼しました、気をつけますと蚊の鳴くような小声で答えるジルがなんとも可愛らしい。
なんて素直なゴブリンなんだ。
「それじゃアニタ、外出の準備を頼むよ。
今夜のうちに支度をすませようか。
そのほうが人目につかずに済むしね。
で、その狐火?とかいう人物はどこにいるんだい?
君たち二人は知ってるの?」
「知りません」
低いがなり声と鈴の音が、同時に答えた。
「知りませんが、行くことはできます、ご主人様」
こうしてカイは、初めての鏡廊下による移動を体験することとなった。
気圧の変化で耳がつまったときのような、重い空気が鼓膜を揺らしている。
水面のようにキラキラと反射したガラス面が、ぐにゃりと曲がって視界を見づらくしている。
粘土のような鏡を押し分けて、廊下に突入してからどのくらい時間が経ったのか。
時間にして、ものの数秒なのかもしれないが、とても長く感じる。
…と、ふいに前方に大きな鏡が一枚現れ…カイの数メートル先を歩いていたジルの姿がパッと消えた。
この不思議な空間に、たった一人。
もしこのまま閉じこめられてしまったら?
叫びだしたい衝動。
恐怖にかられ無意識にアニタを呼ぼうとして、はっと我に返る。
(鏡廊下を通過するとき、なにがあっても絶対にお喋りしてはいけません、ご主人様)
出発前に、何度も釘を刺されていた忠告。
そうだった、だからアニタは何も言ってくれないんだ。
でも、きっと今も側にいてくれているはず。
不安が薄れ、心が落ち着いてくる。
列車の窓から表の景色が後方へ流れていくように、カイの両脇をいくつものガラス扉が通り過ぎていく。
見たことのない顔ばかりだ。
これは鏡に映った誰かの姿なのだろうか。
!?
不意に前方にある一つの扉から、緑色の腕がにょきっと突き出され、おいでおいでをするように手招きしているのが見えた。
きっとあれが出口。
カイは目をつぶって、一気に鏡に突っ込んだ。
「これはこれはおそろいで」
しみったれたキイキイ声。
勢いよく転がり出たせいで倒れ込んだカイの頭上で老人の声がした。
口の中に広がる埃臭い味。
暗い廊下から明るい空間に放り出されたおかげで目が慣れず光が眩しい。
…ここはどこなんだ。
膝をつき体勢を立て直しながら顔を上げる。
「赤毛から連絡が来たんじゃよ、薄汚い森の野蛮人が、その青年の家の鏡に現れた、とな!
何かの冗談だと思っとったがここにやって来るとはびっくりじゃわい!
ひさしぶりじゃな、コワッパ!」
そこには、仁王立ちで腰に両手を当ててふんっと仰け反る老人の姿…
「あんたは…ドルバンの、たぬきじじい!」
「半分正解で半分不正解じゃ。
たぬきなどでは断じてない。
そこだけは考えを改めて頂かないと困るんじゃがの」
「そんなことはどうでもいいんですよ」
ジルの声だ。
切って捨てるような冷たい響きを孕んでいる。
「どうでもいいじゃと?これはこれは、言うに事欠いて…どうでもいいとは」
狐火が悪態をつき始めたのを無視して、こやつは狸ではなく狐なんですよとカイに説明するジル。
「して、カイじゃったかな?何用でここへ?おまけに隣に醜い小鬼まで従えて」
「それについては私からお話します。
不本意ながらあなたの知恵という助けが必要なん…」
片手でジルを遮る狐火。
「コワッパがワシを頼ってくるなぞ余程の緊急事態。御託は抜きじゃ、さっさと本題に入らんか要領の悪いヤツめ」
禿げ上がった頭を上げて、誰もいない空間にチラッと目をやり
「足りないところは補足を頼むぞ」
「かしこまりました、名を呼べぬ御方」
可憐な声が小さく、けれどハッキリと了承する。
「名を呼べぬ御方、ですか……
狐火がアニタの契約者だったとは。
まあ予測はしてましたがね」
ジルが深いため息を吐いた。
「どういうことだ、それは」
カイが食ってかかる。
「アニタを僕によこしたのがあんただって?
なぜ僕を守る。
あんたと僕は、骨董品屋で出会うまで互いの存在すら知らなかったはずだ。
一切合切、納得のいく返事を聞かせてもらうまで僕はここを動かないぞ」
鉛筆のような指を左右に振ってカイを制止するジル。
「カイ、落ち着いて。
立ち話もなんです。座らせてもらいましょう」
巨大な頭を左右に振り振りカイの隣までやってくるとパチンと指を鳴らす。
と、目の前に布製の赤茶色のソファーが現れた。
二人掛けだ。
三人掛けではないことに気まずさを感じたものの、促されるまま素直に腰を下ろすカイ。
お笑い漫画のように滑稽な図だなとカイは思っていた。
狭い空間でカイと向き合って座っているのは土気色の皮膚をしたゴブリンなのだから。
ジルはホットミルクが気に入ったらしく、さっきから五杯もおかわりしている。背筋も凍る醜悪な表情をしていながら、フウフウ冷まして飲んでいる姿が可笑しくて、カイはにっこりした。
猫舌な小鬼…なんてシュールな。
リックが事故にあってからというもの、異常な出来事の連続だったせいで、少しのことでは驚かなくなっている自分に気づく。
「慣れっていうのは恐ろしいな。
こんな状況でも笑う余裕があるんだから」
ジルがカップをテーブルに戻してカイに向き直った。
「あなたは異形の姿の私を見てもそれほど驚かなかった。そして護り部がついている。
なぜですか?」
「それが分かれば僕も苦労しないよ」
苦笑いするカイ。
「わたくしに任を与えたお方は。
ライファーンの可能性が高いカイ様を死んでも守り抜け、と」
「まぁ私は死なないんですけれども」
アニタが朗らかに笑った。
「ライファーン…」
ジルがごくりと生唾を飲む。
束の間の沈黙。
「話が見えないよ、なんだい?そのライファーンって」
カイが口火を切る。
大きくかぶりを振りながら向き直り、正面からじっとカイを見つめるジル。
「その質問に答えていいのか私には判断がつかない。
逆にこちらからも質問してよろしいですか?」
無言で頷くカイを見て、鋭い歯を剥き出したので一瞬ぎょっとしたが、小鬼はどうやら微笑んでいるようだ。
「生計を共にする人間はおりますか?もしくは、常に側にいるような近しい者が」
先を続けるジル。
「いや。僕にはそのどちらもいないよ。腐れ縁っていうのなら、リックくらいだ」
病床のリックが脳裏をよぎる。
「どういうことだ、さっぱり分からない。それが本当なら彼はライファーンではないのかもしれない。
それとも、これからプレアーと出会う運命なのか」
ジルがアニタに質問する。
「理解する必要はありません。
わたくしは、ただ、お役目を果たすのみ」
明るく凛とした抑揚で語るアニタの言葉を聞いて、カイの胸がなぜだかチクリと痛んだ。
「ところで。ジルはなぜリアラルにいらっしゃったのですか?
森の番人は通常、自分の持ち場を離れることはないはずです。
よほどのことがない限り」
「ああ…そうでした!
大変なことになってしまった…
今頃、狭間は大混乱だ」
頭を抱えて嘆いているつもりなのだろうが、頭部が巨大すぎて、ジルの両手は耳までしか届いていない。
カイは笑いそうになったが、耳を引っ張りながら苦悶の表情を浮かべるジルを見て、咳払いをしてこらえた。
どうやら笑ってはならない深刻な場面のようだ。
「なにがあったんですか?
僕にもわかるよう説明してください」
「たった一人の幼き少年の手によって…複数の魔導士の、尊い命が犠牲になった」
ことの顛末はこうだった。
狭間で行われる予定だった魔導大会が何者かの手によって妨害を受け、魔剣ゾイロスが奪われたこと。
瀕死のアイデムが一命を取り留め、安心した矢先、アイデムがその場にいた魔導士たち全員に襲いかかったこと。
ヤソックや数人の魔導士が応戦の末に殺され、ジルは命からがら狭間から逃げ出したこと。
不意の事態で、リアラルの降下ポイントを確かめる余裕もなく、たまたま動物園の噴水に出てきてしまったのだとジルは説明した。
申請していないため、魔法使用テリトリーを持っていないとも。
「私は、ご主人様を中心に半径5メートル圏内というテリトリーを受諾されてます」
「つまり、カイさんと行動を共にすれば私も魔法が使えるってことですね」
ジルが嬉しそうに叫ぶ。
「ねぇ、そいつがこっちの世界にやってくる可能性は?」
「もちろん」
暗い声で答えるジル。
「それどころか、既にやってきている可能性すらあります。
ずっと狭間にいたら捕まるのは時間の問題ですから」
「そんなのがこっちに来たら…
危険なんじゃ?」
重い空気が流れる。
「狭間が心配だから戻って様子を確かめに行きたくても、私にはどうすることもできません。
何人たりとも、ゴーデル様から召還の儀を受け賜わなければ、狭間に入ることが出来ないんです」
「僕に手伝えることはなにかある?危険なやつに誰かが傷つけられるかもしれないなんて見過ごせない」
ジルが腐った色をした指先を伸ばして、カイの手に触れた。
「あなたは勇敢な若者だ。
力を貸していただけると助かります。
なにぶん私はこのような見てくれですから、なにかと目立ちすぎます。
郷に入っては郷に従え、です。
リアラルのルールや常識を破りたくはないですしね」
「こう見えて、ジルはとてもマナーにうるさい小鬼なんですよ。
真面目すぎるくらいです」
鈴の音のようなアニタの笑い声。
「まったく気乗りはしませんが…狐火を頼るしか今のところ打つ手が思い浮かびません」
苦々しく鼻を鳴らして、唸り声を発したジルを見て、身をすくめるカイ。
「とりあえず、人前では大きな声を出したり、唸ったりしないほうがいいと思う」
失礼しました、気をつけますと蚊の鳴くような小声で答えるジルがなんとも可愛らしい。
なんて素直なゴブリンなんだ。
「それじゃアニタ、外出の準備を頼むよ。
今夜のうちに支度をすませようか。
そのほうが人目につかずに済むしね。
で、その狐火?とかいう人物はどこにいるんだい?
君たち二人は知ってるの?」
「知りません」
低いがなり声と鈴の音が、同時に答えた。
「知りませんが、行くことはできます、ご主人様」
こうしてカイは、初めての鏡廊下による移動を体験することとなった。
気圧の変化で耳がつまったときのような、重い空気が鼓膜を揺らしている。
水面のようにキラキラと反射したガラス面が、ぐにゃりと曲がって視界を見づらくしている。
粘土のような鏡を押し分けて、廊下に突入してからどのくらい時間が経ったのか。
時間にして、ものの数秒なのかもしれないが、とても長く感じる。
…と、ふいに前方に大きな鏡が一枚現れ…カイの数メートル先を歩いていたジルの姿がパッと消えた。
この不思議な空間に、たった一人。
もしこのまま閉じこめられてしまったら?
叫びだしたい衝動。
恐怖にかられ無意識にアニタを呼ぼうとして、はっと我に返る。
(鏡廊下を通過するとき、なにがあっても絶対にお喋りしてはいけません、ご主人様)
出発前に、何度も釘を刺されていた忠告。
そうだった、だからアニタは何も言ってくれないんだ。
でも、きっと今も側にいてくれているはず。
不安が薄れ、心が落ち着いてくる。
列車の窓から表の景色が後方へ流れていくように、カイの両脇をいくつものガラス扉が通り過ぎていく。
見たことのない顔ばかりだ。
これは鏡に映った誰かの姿なのだろうか。
!?
不意に前方にある一つの扉から、緑色の腕がにょきっと突き出され、おいでおいでをするように手招きしているのが見えた。
きっとあれが出口。
カイは目をつぶって、一気に鏡に突っ込んだ。
「これはこれはおそろいで」
しみったれたキイキイ声。
勢いよく転がり出たせいで倒れ込んだカイの頭上で老人の声がした。
口の中に広がる埃臭い味。
暗い廊下から明るい空間に放り出されたおかげで目が慣れず光が眩しい。
…ここはどこなんだ。
膝をつき体勢を立て直しながら顔を上げる。
「赤毛から連絡が来たんじゃよ、薄汚い森の野蛮人が、その青年の家の鏡に現れた、とな!
何かの冗談だと思っとったがここにやって来るとはびっくりじゃわい!
ひさしぶりじゃな、コワッパ!」
そこには、仁王立ちで腰に両手を当ててふんっと仰け反る老人の姿…
「あんたは…ドルバンの、たぬきじじい!」
「半分正解で半分不正解じゃ。
たぬきなどでは断じてない。
そこだけは考えを改めて頂かないと困るんじゃがの」
「そんなことはどうでもいいんですよ」
ジルの声だ。
切って捨てるような冷たい響きを孕んでいる。
「どうでもいいじゃと?これはこれは、言うに事欠いて…どうでもいいとは」
狐火が悪態をつき始めたのを無視して、こやつは狸ではなく狐なんですよとカイに説明するジル。
「して、カイじゃったかな?何用でここへ?おまけに隣に醜い小鬼まで従えて」
「それについては私からお話します。
不本意ながらあなたの知恵という助けが必要なん…」
片手でジルを遮る狐火。
「コワッパがワシを頼ってくるなぞ余程の緊急事態。御託は抜きじゃ、さっさと本題に入らんか要領の悪いヤツめ」
禿げ上がった頭を上げて、誰もいない空間にチラッと目をやり
「足りないところは補足を頼むぞ」
「かしこまりました、名を呼べぬ御方」
可憐な声が小さく、けれどハッキリと了承する。
「名を呼べぬ御方、ですか……
狐火がアニタの契約者だったとは。
まあ予測はしてましたがね」
ジルが深いため息を吐いた。
「どういうことだ、それは」
カイが食ってかかる。
「アニタを僕によこしたのがあんただって?
なぜ僕を守る。
あんたと僕は、骨董品屋で出会うまで互いの存在すら知らなかったはずだ。
一切合切、納得のいく返事を聞かせてもらうまで僕はここを動かないぞ」
鉛筆のような指を左右に振ってカイを制止するジル。
「カイ、落ち着いて。
立ち話もなんです。座らせてもらいましょう」
巨大な頭を左右に振り振りカイの隣までやってくるとパチンと指を鳴らす。
と、目の前に布製の赤茶色のソファーが現れた。
二人掛けだ。
三人掛けではないことに気まずさを感じたものの、促されるまま素直に腰を下ろすカイ。
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