7 / 60
カイ・ロバーツ
アレルギーの原因
しおりを挟む
「話がなくなっちゃったんなら仕方ない。
今夜は飲もうか」
カイが優しく言った。
「君はあるんじゃない?話」
驚いて振り向くと、リックが気づかわしげにカイを見ている。
「昨夜の、季節外れの花粉症…
原因になったアレルゲンはなんだい?」
カイは心のネジが緩むのを感じた。
気を使っているときによく出る、リックらしい言い回しだ。
今まで誰にも内緒で長い時間をかけて書き溜めた小説…
その小説が見向きもされずに落選に至るまでの経過が、洪水のように押し寄せてくる。
柄にもなく、ぽつりぽつりと語り始めるカイ。
今朝の新聞の受賞者欄に自分の名前がなかったこと。
受賞者はカイより四つも年下の大学生で、
総評によると関係各社から将来を有望視されている期待の大型新人であること。
そして自分は、これが最後の機会になるだろうと腹をくくった末の挑戦だったこと。
「しがないアルバイト暮らしは卒業して、近いうちにきちんと就職するよ」
と言ってから
「雇ってもらえるかはわからないけどね」
と付け加えた。
(なるべく自然な感じに映るといいんだけどな…)
惨めな姿をリックに見せたくない。
リックはすっかりお終いになるまで神妙な面持ちで頷いていた。
予想に反してリックは穏やかな反応を示した。
「なんていうか、その…つまりだ。
君が本気で決めたことなら、俺は応援する。
それが夢を諦めたうえでの就職であっても、さ」
カイは意表を突かれた。
…君なら出来るはずだ!
…逃げだすのか?
そんな具合に叱咤激励されると思っていたのだ。
「ありがとう。リック」
驚いた反面、胸を撫でおろす。
今夜は激しい議論をしたくなかったし、
頭では理解していても気持ちを納得させるにはまだ時間が必要だった。
「コケッピーのほかにニュースはないのかい?」
カイがにっこりして聞いた。
「だ、か、ら………コケコッピー」
あんまり強くリックが言い放ったのがおかしくて、二人は同時に笑い出した。
カイは今この場にリックが隣にいることに感謝した。
リックとは昔からずっとこんなふうだ。
今夜は飲もうか」
カイが優しく言った。
「君はあるんじゃない?話」
驚いて振り向くと、リックが気づかわしげにカイを見ている。
「昨夜の、季節外れの花粉症…
原因になったアレルゲンはなんだい?」
カイは心のネジが緩むのを感じた。
気を使っているときによく出る、リックらしい言い回しだ。
今まで誰にも内緒で長い時間をかけて書き溜めた小説…
その小説が見向きもされずに落選に至るまでの経過が、洪水のように押し寄せてくる。
柄にもなく、ぽつりぽつりと語り始めるカイ。
今朝の新聞の受賞者欄に自分の名前がなかったこと。
受賞者はカイより四つも年下の大学生で、
総評によると関係各社から将来を有望視されている期待の大型新人であること。
そして自分は、これが最後の機会になるだろうと腹をくくった末の挑戦だったこと。
「しがないアルバイト暮らしは卒業して、近いうちにきちんと就職するよ」
と言ってから
「雇ってもらえるかはわからないけどね」
と付け加えた。
(なるべく自然な感じに映るといいんだけどな…)
惨めな姿をリックに見せたくない。
リックはすっかりお終いになるまで神妙な面持ちで頷いていた。
予想に反してリックは穏やかな反応を示した。
「なんていうか、その…つまりだ。
君が本気で決めたことなら、俺は応援する。
それが夢を諦めたうえでの就職であっても、さ」
カイは意表を突かれた。
…君なら出来るはずだ!
…逃げだすのか?
そんな具合に叱咤激励されると思っていたのだ。
「ありがとう。リック」
驚いた反面、胸を撫でおろす。
今夜は激しい議論をしたくなかったし、
頭では理解していても気持ちを納得させるにはまだ時間が必要だった。
「コケッピーのほかにニュースはないのかい?」
カイがにっこりして聞いた。
「だ、か、ら………コケコッピー」
あんまり強くリックが言い放ったのがおかしくて、二人は同時に笑い出した。
カイは今この場にリックが隣にいることに感謝した。
リックとは昔からずっとこんなふうだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
GREATEST BOONS+
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!
わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―
島崎 紗都子
児童書・童話
「師匠になってください!」
落ちこぼれ無能魔道士イェンの元に、突如、ツェツイーリアと名乗る少女が魔術を教えて欲しいと言って現れた。ツェツイーリアの真剣さに負け、しぶしぶ彼女を弟子にするのだが……。次第にイェンに惹かれていくツェツイーリア。彼女の真っ直ぐな思いに戸惑うイェン。何より、二人の間には十二歳という歳の差があった。そして、落ちこぼれと皆から言われてきたイェンには、隠された秘密があって──。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
月神山の不気味な洋館
ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?!
満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。
話は昼間にさかのぼる。
両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。
その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。
はだかの魔王さま
板倉恭司
児童書・童話
あなたの願い、僕がかなえます。ただし、その魂と引き換えに……この世に未練を持つ者たちの前に突如として現れ、取引を申し出る青年。彼はこの世のものとも思えぬ美しい顔をしていたが、残念な格好をしていた。
魔法が使えない女の子
咲間 咲良
児童書・童話
カナリア島に住む九歳の女の子エマは、自分だけ魔法が使えないことを悩んでいた。
友だちのエドガーにからかわれてつい「明日魔法を見せる」と約束してしまったエマは、大魔法使いの祖母マリアのお使いで魔法が書かれた本を返しに行く。
貸本屋ティンカーベル書房の書庫で出会ったのは、エマそっくりの顔と同じエメラルドの瞳をもつ男の子、アレン。冷たい態度に反発するが、上から降ってきた本に飲み込まれてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる