表と裏と狭間の世界

雫流 漣。

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カイ・ロバーツ

アレルギーの原因

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「話がなくなっちゃったんなら仕方ない。
今夜は飲もうか」
カイが優しく言った。

「君はあるんじゃない?話」

驚いて振り向くと、リックが気づかわしげにカイを見ている。

「昨夜の、季節外れの花粉症…
原因になったアレルゲンはなんだい?」

カイは心のネジが緩むのを感じた。
気を使っているときによく出る、リックらしい言い回しだ。

今まで誰にも内緒で長い時間をかけて書き溜めた小説…
その小説が見向きもされずに落選に至るまでの経過が、洪水のように押し寄せてくる。
柄にもなく、ぽつりぽつりと語り始めるカイ。

今朝の新聞の受賞者欄に自分の名前がなかったこと。
受賞者はカイより四つも年下の大学生で、
総評によると関係各社から将来を有望視されている期待の大型新人であること。
そして自分は、これが最後の機会になるだろうと腹をくくった末の挑戦だったこと。

「しがないアルバイト暮らしは卒業して、近いうちにきちんと就職するよ」
と言ってから
「雇ってもらえるかはわからないけどね」
と付け加えた。

(なるべく自然な感じに映るといいんだけどな…)

惨めな姿をリックに見せたくない。

リックはすっかりおしまいになるまで神妙な面持おももちでうなづいていた。

予想に反してリックは穏やかな反応を示した。
「なんていうか、その…つまりだ。
君が本気で決めたことなら、俺は応援する。
それが夢を諦めたうえでの就職であっても、さ」

カイは意表を突かれた。
 …君なら出来るはずだ!
…逃げだすのか?
そんな具合に叱咤激励しったげきれいされると思っていたのだ。

「ありがとう。リック」
驚いた反面、胸を撫でおろす。
今夜は激しい議論をしたくなかったし、
頭では理解していても気持ちを納得させるにはまだ時間が必要だった。

「コケッピーのほかにニュースはないのかい?」
カイがにっこりして聞いた。

「だ、か、ら………


あんまり強くリックが言い放ったのがおかしくて、二人は同時に笑い出した。
カイは今この場にリックが隣にいることに感謝した。
リックとは昔からずっとこんなふうだ。
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