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幽霊をあざ笑う
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悪魔と契約を交わした者の肉体が朽ち果てた時、その魂がどこへ行くかご存じだろうか?
闇に属した存在が天国に行けないことは容易にわかる。
では、地獄に落ちるのかと言えばそうではない。
意外や意外、現世に留まるのである。
ただ、現世とは言っても、異なる次元に存在しているため、ところどころ、半ば三次元と重なるように浮遊している。
未来永劫、そこから消滅することの許されない霊体、早い話が幽霊と呼ばれる輩だ。
悪魔との契約により、成仏できずに地上を彷徨う彼らは、強い憎しみの感情に支配されている。死んでみて初めて理解できることもあるのだ。
生ある人としての人生はわずかなもの。
悠久の時を漂う彼らにとって、まばたき一つするかしないかのちっぽけな瞬間を満たす欲望のために、悪魔に魂を売ってしまった。
なんと浅はかで愚かな行為、こんなはずではなかったと悔いても後の祭り。
霊たちの怒りの矛先は、たびたび契約を持ちかけた悪魔に向けられる。
コンウェルシオに限らず、悪魔の周りには常に無数の幽霊がいる。取り囲まれていると言っていいほどだ。
彼らは罵詈雑言や憎しみの波動を投げつけながら、自らをこんな目に合わせた悪魔を呪うのだ。
その霊も、複数がより合わさって絡まり合ううちに、一つの大きな塊になる。
同じ意思を持つ巨大な情念の壁となって憎い悪魔の周囲を丸ごと覆うのだ。
契約に持ち込んだ数が多ければ多いほど纏わりつく霊体の数が増えて、幽層と呼ばれるその壁は厚くなる。逆に、契約が少ない悪魔の幽層は極めて薄い。
従って、幽層はそのまま悪魔のステータスを如実に表すバロメーターだ。
人間は時計や宝石など、高価な装飾品を身につけたがるが、悪魔にとっての幽層はそれと同等な価値を含む。悪魔もまた、見栄を張りたい生き物なのだ。
そして、人間界にブランド品があるように、幽層にも格の違いがある。元となる霊の質というのだろうか…念が強く、おどろおどろしい霊の集合体ほど、質の高い幽層とされて一目置かれる。
そんな中、コンウェルシオの幽層は、他の悪魔とは違い、一風変わった趣をしていた。
幽層は透明を基本として、灰色、藍色、黒といった具合に暗色がかった色彩をしているのが普通である(サングラスのレンズのようなものだ)が、コンウェルシオの幽層は柔らかな明るいグリーンなのだ。
なんたる異質。
先の病魔が聞き及んだコンウェルシオの噂と言うのは、この世にも珍しい明るい幽層のことだろうとコンウェルシオ本人は思っていた。
あまり良いニュアンスではないはずだ、闇色に染まってこその悪魔ではないか。
しかも。
コンウェルシオには秘密がある。
口が裂けても言えないことだが、グリーンの幽層から一様に聞こえてくる声…
この声は纏りつかれている悪魔自身にしか聞こえないのだが…
彼らは口々に、コンウェルシオに感謝の言葉を述べているのだ。こんなことがあっていいわけがない。
コンウェルシオは困惑していた。
数はそう多くはないものの、それなりに契約を結び、数々の嫌がらせ、小さな不幸を人間たちにバラ蒔き…
それなのに、このていたらくはなんだ?
しかも恐ろしいことに、コンウェルシオが熱心に仕事に励めば励むほど、幽層の色合いは鮮やかになり、明るさを増しているようなのだ。
憎しみや呪いは悪魔にとって素晴らしいエネルギー源だが…
感謝の言葉など、悪魔にとってただの毒。いい加減にしなければ、こちらの身が持たないだろう。
そんなわけで。
コンウェルシオは憎悪に燃える瞳で己の幽層を睨みつけ、あざ笑う。
「おまえたち、新たな戦法で我にダメージを与えるつもりか?賢いやつらめ」
しかし哀しいかな、どんなに凄みを聞かせても、コンウェルシオの幽層は意にも介さず「ありがとう、ありがとう」と口々に呟いている…
苦難はしばらく続くのであろうか。
そして今夜も、コンウェルシオは深いため息をついた。
闇に属した存在が天国に行けないことは容易にわかる。
では、地獄に落ちるのかと言えばそうではない。
意外や意外、現世に留まるのである。
ただ、現世とは言っても、異なる次元に存在しているため、ところどころ、半ば三次元と重なるように浮遊している。
未来永劫、そこから消滅することの許されない霊体、早い話が幽霊と呼ばれる輩だ。
悪魔との契約により、成仏できずに地上を彷徨う彼らは、強い憎しみの感情に支配されている。死んでみて初めて理解できることもあるのだ。
生ある人としての人生はわずかなもの。
悠久の時を漂う彼らにとって、まばたき一つするかしないかのちっぽけな瞬間を満たす欲望のために、悪魔に魂を売ってしまった。
なんと浅はかで愚かな行為、こんなはずではなかったと悔いても後の祭り。
霊たちの怒りの矛先は、たびたび契約を持ちかけた悪魔に向けられる。
コンウェルシオに限らず、悪魔の周りには常に無数の幽霊がいる。取り囲まれていると言っていいほどだ。
彼らは罵詈雑言や憎しみの波動を投げつけながら、自らをこんな目に合わせた悪魔を呪うのだ。
その霊も、複数がより合わさって絡まり合ううちに、一つの大きな塊になる。
同じ意思を持つ巨大な情念の壁となって憎い悪魔の周囲を丸ごと覆うのだ。
契約に持ち込んだ数が多ければ多いほど纏わりつく霊体の数が増えて、幽層と呼ばれるその壁は厚くなる。逆に、契約が少ない悪魔の幽層は極めて薄い。
従って、幽層はそのまま悪魔のステータスを如実に表すバロメーターだ。
人間は時計や宝石など、高価な装飾品を身につけたがるが、悪魔にとっての幽層はそれと同等な価値を含む。悪魔もまた、見栄を張りたい生き物なのだ。
そして、人間界にブランド品があるように、幽層にも格の違いがある。元となる霊の質というのだろうか…念が強く、おどろおどろしい霊の集合体ほど、質の高い幽層とされて一目置かれる。
そんな中、コンウェルシオの幽層は、他の悪魔とは違い、一風変わった趣をしていた。
幽層は透明を基本として、灰色、藍色、黒といった具合に暗色がかった色彩をしているのが普通である(サングラスのレンズのようなものだ)が、コンウェルシオの幽層は柔らかな明るいグリーンなのだ。
なんたる異質。
先の病魔が聞き及んだコンウェルシオの噂と言うのは、この世にも珍しい明るい幽層のことだろうとコンウェルシオ本人は思っていた。
あまり良いニュアンスではないはずだ、闇色に染まってこその悪魔ではないか。
しかも。
コンウェルシオには秘密がある。
口が裂けても言えないことだが、グリーンの幽層から一様に聞こえてくる声…
この声は纏りつかれている悪魔自身にしか聞こえないのだが…
彼らは口々に、コンウェルシオに感謝の言葉を述べているのだ。こんなことがあっていいわけがない。
コンウェルシオは困惑していた。
数はそう多くはないものの、それなりに契約を結び、数々の嫌がらせ、小さな不幸を人間たちにバラ蒔き…
それなのに、このていたらくはなんだ?
しかも恐ろしいことに、コンウェルシオが熱心に仕事に励めば励むほど、幽層の色合いは鮮やかになり、明るさを増しているようなのだ。
憎しみや呪いは悪魔にとって素晴らしいエネルギー源だが…
感謝の言葉など、悪魔にとってただの毒。いい加減にしなければ、こちらの身が持たないだろう。
そんなわけで。
コンウェルシオは憎悪に燃える瞳で己の幽層を睨みつけ、あざ笑う。
「おまえたち、新たな戦法で我にダメージを与えるつもりか?賢いやつらめ」
しかし哀しいかな、どんなに凄みを聞かせても、コンウェルシオの幽層は意にも介さず「ありがとう、ありがとう」と口々に呟いている…
苦難はしばらく続くのであろうか。
そして今夜も、コンウェルシオは深いため息をついた。
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