僕1人しかいない世界

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僕一人しかいない世界

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 世界は突然闇に包まれた。僕以外の時間が全て停止し気がついた頃には、停止していた人々もいなくなり『僕と物』だけが残る世界になっていた。
 当時十五歳で思春期真っ盛りな僕は、どこかかっこつけた考えを持っていて特になにも感じることはなかった。



 僕は一人で生きていける
 早く一人暮らしがしたい
 早く働きたい
 家族なんて必要ない

 僕は根拠のない自信があり、人に迷惑をかけることをなんとも思っていなかったので、やっと邪魔な大人達がいなくなった。ぐらいにしか思っていなかった。

 昔から素行が悪く、誰にでも抗っていたと思う。悪い事と言われて思いつくことは粗方やっただろう。

 僕の人生は僕だけのものだから両親や口うるさい大人達に指図されるものではない。

☆ ☆ ☆

 この世界には『生物』と呼べる存在が僕しかいない。通貨を作る必要もなければ、経済を回す必要もなく、自分勝手に誰にも邪魔されずに自由に思いのままに行動することができる。

 僕しかいなくなった世界になってから僕はすぐに、これまでやってみたかったが社会のルールが壁になりできなかったことをたくさんやった。
 周りのうるさい奴らも今はいない。僕だけの世界では僕がなによりも正しいのだ。

 なぜか電気やガス、水道は通っていたし、一人では食べ切れないくらいの保存食が大量にあったので衣食住の心配はなさそうだ。
 それから僕は大嫌いだった学校や僕を馬鹿にしていたクラスメイトの家や家族との思い出にこれまでの鬱憤をぶつけた。
 もちろん悪いだなんて一ミリたりとも思わなかった。

 日頃溜まっていたストレスはこの世界ですべて消化できそうだ。
 
☆ ☆ ☆ ☆ 

 好き勝手に生きること一ヶ月。
物事には必ず飽きがくるものである
家は燃やしたし、欲しいものも全て手に入れた、溜まっていたストレスは発散できたはずなのに胸には得体の知れぬモヤモヤが残っていた。
 はじめての感情に戸惑うと同時に、それを理解できないことに対してイライラが募った僕は飽きなんか忘れ、気持ち悪い胸の苦しみを周囲にぶつけた。




 それから一ヶ月 また一ヶ月となにをしたいのかもわからないままに時間だけが流れていった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 そして、ついに一人だけの世界に住み始めてから1年が経過した。
 僕は無意識に声を漏らしていた。

 「さびしい。みんなに会いたい。」

 それは一年前のような残酷な感情など一切含まれていない、まるで澄んだ水のようなキレイな心が自然と口にした真実の産声だった。
 
 僕ははじめての感情に戸惑っていた。
まるで僕が僕じゃないみたいに。

 この世界には食料もあるし、一年で車にも乗れるようになった。人がいないから渋滞なんて存在しないのでどこへでも行ける。しかも欲しいものはなんでも手に入ってしまう。不便なことなんて一つたりともないとずっと思っていたのに。





 家に帰っても暖かいご飯どころか誰一人いない。寝ても起きてもずっと独り。最初は良かった。邪魔な奴らがいない生活に心を躍らせながら生活していた。だが、次第に家族のありがたみを知ることとなった。
 

 






 僕は泣いた。ただ泣いた。毎日毎日泣き続けた。独りなんて寂しくなんてないと思っていたから、独りでも平気だなんて思っていたから。



☆ ☆ ☆ ☆






 そして一ヶ月。





 僕は悲壮感、孤独感に激しく襲われていた。










 「元の世界に戻りたい。神様、もしも僕のことを見ているのならどうか、みんなのいたあの世界に戻してください。過去の過ちを精算することはできませんが、僕の一生をかけて償うことならできます!
 どうか、どうか、、」









 僕は掠れた声でハッキリとそう呟いた。
涙はもう出てこない。
赤く腫れすぎた目がそう言っている。






 膝をつき、天に顔を向けていた僕の視界は突然強い光に包まれ、眠るように意識を刈り取られた。

















☆ ☆ ☆



 「被験No.3643の状態はどうだ?」






 「はい。カプセルに入れてから、既に一年一ヶ月が経過しましたが、矯正プログラムは順調です。どうやら一人で生きていくことの辛さを強く感じたようで、心の色が明るくなってきています。矯正完了基準値は超えているので一週間後には退院可能かと思われます。」







 「そうか。彼もここにくる前は、十五歳にして相当な悪人だったようだからね。家族や周囲の大切さをしれて良かったよ。
 退院するときにはいつも通り被験者のカプセル内での記憶を削除することを忘れないようにしてくれ。退院後はきれいな心を持った青年になってくれるだろう。
 私はやることがあるのでこれで失礼するよ。後の処理は君に任せよう。」


 

☆ ☆






 「一年間もこの施設にはお世話になったなぁ。博士と助手さん!楽しい時間をありがとうございました。また一緒に遊びましょう!」




 「さようなら。こちらも『色々と』楽しかったよ。」


 被験No.3643が両親の車に乗り込み、帰宅するのを見送り














 「実験成功だ。」















 そう言って、博士は次の被験者のもとへと向かった



☆ ☆ ☆ ☆ ★

















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