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狂気に満ちた世界で生きる私
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私が気がついた頃には世界が狂気で満ちていた。朝のニュースも以前は天気予報や芸能ニュースが主だったはずなのに、今は猟奇的な殺人事件や人間の食べ方などのイカレているものをタレント達がヘラヘラと紹介していた。
世界が狂気に満ちたことに、最近まで私は気がつくことができなかった。今思い返せば異常なことばかりが周りで起きていた。
これは二年前の話。私の近所にはよく野良犬が出没する。野良犬は非常に穏やかで、これまで人を襲うこともなければ、物的被害さえ報告されていなかった。ただ、金持ちの犬嫌いなおじさんが嫌がっていたくらい。
そんなある日、野良犬たちがパタリと姿を消した。初めのうちは飼い主が見つかったのか、山へ帰ったのか、当時はそんなことを考えていた。そんな予想は悪い意味で裏切られることになった。通学路の途中にはこの街一番ともいえる豪邸があるのだが、そこについ最近消えたと思っていた野良犬たちが、まるで魔女狩りにでも合ったかのように、無残な姿で吊るされていた。生物としての原型はほとんどなく、ただ『犬』として認識できる程度。
「ねぇ、あれやばくない?」
当時、仲の良かった友人に声をかけるも友人はケタケタと笑うばかりで返答しない。
「ねぇってば!ヤバイよあれ!警察に通報しないと!」
冷静でいられなくなった私は友達の肩を揺すりながら必死に声を荒げた。
「なんで?」
え?友達は怖いくらいに本当になんでもない顔をしていた。
「なんで、そんなことしないといけないの?犬ぐらい」なんでもないよ。さ、学校いこ。遅刻しちゃう。」
なんであなたはそんなことが言えるの?
私たち、幼なじみだよね?昔から野良犬たちをみてきたよね?そんなのおかしいよ……
私はこの日を最後に友達と会うのはやめた。
二年前のこの日から少しずつ周りがおかしくなっていった。学校では先生がチョークを授業中に当たり前のように食べていたり、放課後には黒板を舐めずっていた。生徒の間では『階段落とし』なるものが流行っていた。ルールは簡単で階段から人を落とすだけ。より重症患者になった人の勝ち、というものらしい。学校には男女問わずに日が経つごとに怪我人が増えていた。遂には死者まででたが、私以外の誰も気にも留めなかった。むしろみんなは笑っていた。
『今回の勝者はあいつだな!』って人が死んでるのになに言ってるの。
☆ ★ ☆ ☆
あの日から一年が経ったけど、残酷な世界には変わりなかった。しかし狂気さにおいては以前よりもエスカレートしていた。
家族関係も少し変わっていて、ここ一ヶ月でパパが家に帰っていない。ママに聞いてみても、仕事よ、としか言わないのでパパがなにをしているのかがわからないでいた。
このイカレた世界は通りを歩いていても当たり前のように暴力が起きているし、ひどい時には血だるまになった人と思われるモノが道端にあったりする。
最近になって、人体実験が世間で流行り出した。中でも致死量を遥かに超えた毒ガスの檻の中に人を入れて、どのくらいの時間生きるかというものを予想して賭博をするのが主流になっていた。
毒ガスの実験に参加する人。言わば被験者は全国民の中から性別年齢を問わずランダムに数名選ばれる。
私は無意識に応募していた観覧席チケットの抽選が当たり、この実験をリアルタイムで観覧した。いつ応募したかは覚えていないが、この際見ておいても損はないだろう。
どうしてか、いつの日からかわからないが人が叫び、呻き、苦しむ声になにも思わなくなっていた。この時は『慣れ』として片付けて、私の心は正常だと自分に言い聞かし、実験を見続けていた。
私がいる席は実験が行われているステージからは少し遠いのでわかりにくいが、実験の最後には若い女性が断末魔をあげながら地にひれ伏し死んでいくのが見えた。この実験の毒ガスは体内を蝕むものらしく、死んだ女性に外傷はなかった。実験が終わると同時に歓声も上がり実験は幕を閉じた。
今日の朝食はどこかおかしい。卵を焼いてるママの様子もいつもと違うみたいだ。
「はい。おまたせ、目玉焼きとウインナー
よ。」
そう言われ出てきたのは、丸々としたなにかの目玉を焼いたものと、歪な形のウインナーだった。
「ママ。これはなに?」
私はママに聞くと同時に、食べてみた。
「これはねパパの目玉と、パパを粗挽きにしたお肉よ。」
は?この時のことはよく覚えていないけど、パパを食べて、頭が少しだけ覚醒して、ママをママをママを………。
次の日ママはいなくなった。
ママも誰かに食べられてるのかな。
☆ ★ ☆ ☆
そしてそれから一年が経ち現在。
相も変わらず、世界はおかしかった。そんな私もママがいなくなったっていうのに涙は出なかったし、冷静に自分を保つことができた。冷静、というかなにも考えなかったというほうが正しい。
もしかしたら自分も他のひとみたいにイカレるのではないかと思ったが、こんなに冷静にいられているのだから問題ないのだろう。
二年前に起きた犬の魔女狩りの時、一緒にいた友達が一年ほど前に死んだらしい。死因は聞いていないが、この世界では珍しく外傷がなく非常に綺麗な状態で見つかったらしい。
最近、気づいたら時間が経っているのことがよくある。そして、私が知らない記憶が脳内を駆け巡り幻覚となり、私を苦しめていた。私は今まであの時のパパを除いて、人肉を食べたことがないはずなのに鮮明に味や、形、どこで食べたかを覚えていた。どこか、見覚えのある懐かしい感じがしていた。
記憶を頼りに一階へ向かうとリビングは血だらけになっていた。血だらけのリビングを抜け台所へ向かうと、そこには目をくり抜かれて、四股を切断されたママの姿があった。誰がやったんだなんて考えたのも束の間、思考が記憶を呼び覚まし、理解した。
私、ママのことも食べちゃったのか。
☆ ★ ☆ ☆ ★
あれから一ヶ月が経ったがそれからも度々意識を失い、悪い記憶が脳内を支配していることがあった。人を殺したり他人の肉を食べたりすることはなかったが、心のどこかに自分への物寂しさや徐々に崩壊していく自我に悲しさがあったのだろう。意識が戻ったころには、身体中が傷だらけで派手に自傷行為をしていたことが記憶を辿るまでもなく理解することができた。
今思えば、犬の魔女狩りの時を最後に私の心はイカれていた。感情をあらわにすることもなくなり、次第に周りが見えなくなっていた。自分は違うと信じて狂気じみた世界ばかりを憎んでいたが、本当は私も世界もなにもかもがとっくにイカれていたんだろう。
そして、私は自我が残っているうちに命を絶った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
世界が狂気に満ちたことに、最近まで私は気がつくことができなかった。今思い返せば異常なことばかりが周りで起きていた。
これは二年前の話。私の近所にはよく野良犬が出没する。野良犬は非常に穏やかで、これまで人を襲うこともなければ、物的被害さえ報告されていなかった。ただ、金持ちの犬嫌いなおじさんが嫌がっていたくらい。
そんなある日、野良犬たちがパタリと姿を消した。初めのうちは飼い主が見つかったのか、山へ帰ったのか、当時はそんなことを考えていた。そんな予想は悪い意味で裏切られることになった。通学路の途中にはこの街一番ともいえる豪邸があるのだが、そこについ最近消えたと思っていた野良犬たちが、まるで魔女狩りにでも合ったかのように、無残な姿で吊るされていた。生物としての原型はほとんどなく、ただ『犬』として認識できる程度。
「ねぇ、あれやばくない?」
当時、仲の良かった友人に声をかけるも友人はケタケタと笑うばかりで返答しない。
「ねぇってば!ヤバイよあれ!警察に通報しないと!」
冷静でいられなくなった私は友達の肩を揺すりながら必死に声を荒げた。
「なんで?」
え?友達は怖いくらいに本当になんでもない顔をしていた。
「なんで、そんなことしないといけないの?犬ぐらい」なんでもないよ。さ、学校いこ。遅刻しちゃう。」
なんであなたはそんなことが言えるの?
私たち、幼なじみだよね?昔から野良犬たちをみてきたよね?そんなのおかしいよ……
私はこの日を最後に友達と会うのはやめた。
二年前のこの日から少しずつ周りがおかしくなっていった。学校では先生がチョークを授業中に当たり前のように食べていたり、放課後には黒板を舐めずっていた。生徒の間では『階段落とし』なるものが流行っていた。ルールは簡単で階段から人を落とすだけ。より重症患者になった人の勝ち、というものらしい。学校には男女問わずに日が経つごとに怪我人が増えていた。遂には死者まででたが、私以外の誰も気にも留めなかった。むしろみんなは笑っていた。
『今回の勝者はあいつだな!』って人が死んでるのになに言ってるの。
☆ ★ ☆ ☆
あの日から一年が経ったけど、残酷な世界には変わりなかった。しかし狂気さにおいては以前よりもエスカレートしていた。
家族関係も少し変わっていて、ここ一ヶ月でパパが家に帰っていない。ママに聞いてみても、仕事よ、としか言わないのでパパがなにをしているのかがわからないでいた。
このイカレた世界は通りを歩いていても当たり前のように暴力が起きているし、ひどい時には血だるまになった人と思われるモノが道端にあったりする。
最近になって、人体実験が世間で流行り出した。中でも致死量を遥かに超えた毒ガスの檻の中に人を入れて、どのくらいの時間生きるかというものを予想して賭博をするのが主流になっていた。
毒ガスの実験に参加する人。言わば被験者は全国民の中から性別年齢を問わずランダムに数名選ばれる。
私は無意識に応募していた観覧席チケットの抽選が当たり、この実験をリアルタイムで観覧した。いつ応募したかは覚えていないが、この際見ておいても損はないだろう。
どうしてか、いつの日からかわからないが人が叫び、呻き、苦しむ声になにも思わなくなっていた。この時は『慣れ』として片付けて、私の心は正常だと自分に言い聞かし、実験を見続けていた。
私がいる席は実験が行われているステージからは少し遠いのでわかりにくいが、実験の最後には若い女性が断末魔をあげながら地にひれ伏し死んでいくのが見えた。この実験の毒ガスは体内を蝕むものらしく、死んだ女性に外傷はなかった。実験が終わると同時に歓声も上がり実験は幕を閉じた。
今日の朝食はどこかおかしい。卵を焼いてるママの様子もいつもと違うみたいだ。
「はい。おまたせ、目玉焼きとウインナー
よ。」
そう言われ出てきたのは、丸々としたなにかの目玉を焼いたものと、歪な形のウインナーだった。
「ママ。これはなに?」
私はママに聞くと同時に、食べてみた。
「これはねパパの目玉と、パパを粗挽きにしたお肉よ。」
は?この時のことはよく覚えていないけど、パパを食べて、頭が少しだけ覚醒して、ママをママをママを………。
次の日ママはいなくなった。
ママも誰かに食べられてるのかな。
☆ ★ ☆ ☆
そしてそれから一年が経ち現在。
相も変わらず、世界はおかしかった。そんな私もママがいなくなったっていうのに涙は出なかったし、冷静に自分を保つことができた。冷静、というかなにも考えなかったというほうが正しい。
もしかしたら自分も他のひとみたいにイカレるのではないかと思ったが、こんなに冷静にいられているのだから問題ないのだろう。
二年前に起きた犬の魔女狩りの時、一緒にいた友達が一年ほど前に死んだらしい。死因は聞いていないが、この世界では珍しく外傷がなく非常に綺麗な状態で見つかったらしい。
最近、気づいたら時間が経っているのことがよくある。そして、私が知らない記憶が脳内を駆け巡り幻覚となり、私を苦しめていた。私は今まであの時のパパを除いて、人肉を食べたことがないはずなのに鮮明に味や、形、どこで食べたかを覚えていた。どこか、見覚えのある懐かしい感じがしていた。
記憶を頼りに一階へ向かうとリビングは血だらけになっていた。血だらけのリビングを抜け台所へ向かうと、そこには目をくり抜かれて、四股を切断されたママの姿があった。誰がやったんだなんて考えたのも束の間、思考が記憶を呼び覚まし、理解した。
私、ママのことも食べちゃったのか。
☆ ★ ☆ ☆ ★
あれから一ヶ月が経ったがそれからも度々意識を失い、悪い記憶が脳内を支配していることがあった。人を殺したり他人の肉を食べたりすることはなかったが、心のどこかに自分への物寂しさや徐々に崩壊していく自我に悲しさがあったのだろう。意識が戻ったころには、身体中が傷だらけで派手に自傷行為をしていたことが記憶を辿るまでもなく理解することができた。
今思えば、犬の魔女狩りの時を最後に私の心はイカれていた。感情をあらわにすることもなくなり、次第に周りが見えなくなっていた。自分は違うと信じて狂気じみた世界ばかりを憎んでいたが、本当は私も世界もなにもかもがとっくにイカれていたんだろう。
そして、私は自我が残っているうちに命を絶った。
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