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第五章
【エルフ】キリエ・シルフベルは癒されたい 1
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「それで、俺に相談って何ですか?」
ここはキリエさんが住まう屋敷の中。
二度目の来訪だ。
ソファに腰掛ける俺は温かい紅茶を啜ってから尋ねた。
「……」
向かいに座るキリエさんは瞳を伏して沈黙する。
「あの……キリエさん?」
「すみません。わざわざ来ていただいたのに失礼でしたね」
「いえ……言いにくいことなら、お好きなタイミングで話してください」
なぜかキリエさんはよそよそしかった。
何か話しづらいことでもあるのか、内股になり膝を擦り合わせてもじもじしている。
「ソロモンさん。貴方は魔王城を着実に良い方向へと変え始めています。素晴らしいと思います」
「……急にどうしたんですか?」
綺麗な顔立ちでじっと見つめられると恥ずかしい。
「疲れを知らずに、日夜努力を重ねる姿は尊敬に値します。私はいざという時にうじうじして足を踏み出せないというのに、その姿勢は是非真似したいくらいです」
「は、はぁ……」
「そんな貴方なら私の悩みも解決してくださるのではないかと思ったのです。聞いてくださいますか?」
何の脈絡もなかったのでよくわからなかったけど、神妙な面持ちになるキリエさんはじっと俺の瞳を捉えていた。
「俺に解決できる事なら喜んで相談に乗りますよ」
キリエさんには色々とお世話になったから、どんな相談でも聞いてあげたい。
「ありがとうございます。実は、仲良くなりたい方がいるのですが、あまり私のことを見てくれなくて困っているのです」
「ほう」
恋愛の相談だろうか。レイさんからヴァージンを揶揄われていたことも関係しているのかもしれない。
「私はその方と懇意に接して、もっともっとお話をして親交を深めたいと考えています。ですが、私は見ての通り無愛想で堅物のつまらないエルフです。他の魔族のように朗らかに笑うことはできませんし、楽しいお話をしてあげることなんてもってのほかです」
キリエさんは酷く寂しげな表情だった。
「そんなことは……」
俺は否定しようとしたが、関係が浅いためフォローの言葉が出てこない。
申し訳ないことに、俺はまだキリエさんのことをあまり知らなかった。
「否定していただかなくても結構です。事実、私は友と呼べる存在がおらず、多くの魔族とも顔見知り程度の間柄でしか交友をしていません」
「……ちなみに、仲良くなりたい魔族というのはどなたですか?」
俺は誤魔化すようにして紅茶を啜ってから、試しに聞いてみた。
「ついてきてください。実際に見た方が早いでしょうか」
キリエさんはいそいそと立ち上がると、姿鏡で身なりを整え始める。
心なしか緊張したような面持ちだ。
「その魔族はどこにいるんですか?」
魔王城にいる魔族なら俺も知っているだろうし、そうじゃないなら魔王城がある敷地の外だろうか。
「魔王城の裏手に広がる大森林です」
「初めて行くので少し楽しみですね」
「あそこは危険な場所ですから覚悟を決めておいてください。気を抜いたら容易くノックダウンされてしまいます。強敵です」
「それってどういう……」
ここは魔界だが、大森林には魔族以外の”何か”或いは、傍若無人な魔族が現れるということか?
強敵という表現が気になる。
「私は毎日のように足を運んでいますが、その度に心を支配されて我を失いかけてしまいます。かなり刺激が強いのです」
「……よくわかりませんが、気を引き締めておきます」
魔王城の外を散策するのは初めてだから少しだけ楽しみな気持ちもあった。
しかし、目を輝かせながらも物騒な事を口にされると、些か不安な気持ちも出てくる。
聞いたところによると、魔王城に住まう魔族以外の魔族は、城から少し離れた場所にまとまり国を築いているらしい。魔界も人間界と同じくいくつかの国と街で成り立っており、そのトップが魔王なのだ。
まだまだ知らないことはたくさんある。まずは身近なところから知っていこう。
「では、向かいましょう」
キリエさんは魔法を使って屋敷を施錠する。
「はい」
俺はキリエさんと並んで大森林を目指した。
一体そこには何が待ち受けているのか。キリエさんが仲良くなりたい魔族の正体とは。
ここはキリエさんが住まう屋敷の中。
二度目の来訪だ。
ソファに腰掛ける俺は温かい紅茶を啜ってから尋ねた。
「……」
向かいに座るキリエさんは瞳を伏して沈黙する。
「あの……キリエさん?」
「すみません。わざわざ来ていただいたのに失礼でしたね」
「いえ……言いにくいことなら、お好きなタイミングで話してください」
なぜかキリエさんはよそよそしかった。
何か話しづらいことでもあるのか、内股になり膝を擦り合わせてもじもじしている。
「ソロモンさん。貴方は魔王城を着実に良い方向へと変え始めています。素晴らしいと思います」
「……急にどうしたんですか?」
綺麗な顔立ちでじっと見つめられると恥ずかしい。
「疲れを知らずに、日夜努力を重ねる姿は尊敬に値します。私はいざという時にうじうじして足を踏み出せないというのに、その姿勢は是非真似したいくらいです」
「は、はぁ……」
「そんな貴方なら私の悩みも解決してくださるのではないかと思ったのです。聞いてくださいますか?」
何の脈絡もなかったのでよくわからなかったけど、神妙な面持ちになるキリエさんはじっと俺の瞳を捉えていた。
「俺に解決できる事なら喜んで相談に乗りますよ」
キリエさんには色々とお世話になったから、どんな相談でも聞いてあげたい。
「ありがとうございます。実は、仲良くなりたい方がいるのですが、あまり私のことを見てくれなくて困っているのです」
「ほう」
恋愛の相談だろうか。レイさんからヴァージンを揶揄われていたことも関係しているのかもしれない。
「私はその方と懇意に接して、もっともっとお話をして親交を深めたいと考えています。ですが、私は見ての通り無愛想で堅物のつまらないエルフです。他の魔族のように朗らかに笑うことはできませんし、楽しいお話をしてあげることなんてもってのほかです」
キリエさんは酷く寂しげな表情だった。
「そんなことは……」
俺は否定しようとしたが、関係が浅いためフォローの言葉が出てこない。
申し訳ないことに、俺はまだキリエさんのことをあまり知らなかった。
「否定していただかなくても結構です。事実、私は友と呼べる存在がおらず、多くの魔族とも顔見知り程度の間柄でしか交友をしていません」
「……ちなみに、仲良くなりたい魔族というのはどなたですか?」
俺は誤魔化すようにして紅茶を啜ってから、試しに聞いてみた。
「ついてきてください。実際に見た方が早いでしょうか」
キリエさんはいそいそと立ち上がると、姿鏡で身なりを整え始める。
心なしか緊張したような面持ちだ。
「その魔族はどこにいるんですか?」
魔王城にいる魔族なら俺も知っているだろうし、そうじゃないなら魔王城がある敷地の外だろうか。
「魔王城の裏手に広がる大森林です」
「初めて行くので少し楽しみですね」
「あそこは危険な場所ですから覚悟を決めておいてください。気を抜いたら容易くノックダウンされてしまいます。強敵です」
「それってどういう……」
ここは魔界だが、大森林には魔族以外の”何か”或いは、傍若無人な魔族が現れるということか?
強敵という表現が気になる。
「私は毎日のように足を運んでいますが、その度に心を支配されて我を失いかけてしまいます。かなり刺激が強いのです」
「……よくわかりませんが、気を引き締めておきます」
魔王城の外を散策するのは初めてだから少しだけ楽しみな気持ちもあった。
しかし、目を輝かせながらも物騒な事を口にされると、些か不安な気持ちも出てくる。
聞いたところによると、魔王城に住まう魔族以外の魔族は、城から少し離れた場所にまとまり国を築いているらしい。魔界も人間界と同じくいくつかの国と街で成り立っており、そのトップが魔王なのだ。
まだまだ知らないことはたくさんある。まずは身近なところから知っていこう。
「では、向かいましょう」
キリエさんは魔法を使って屋敷を施錠する。
「はい」
俺はキリエさんと並んで大森林を目指した。
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