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第三章 

【ヴァンパイヤ】 リリス・ブラッドの興味 2

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 到着したのは一階の大広間。

 上下階へ通じる多くの階段は、さながら蜘蛛の巣のように張り巡らされており、俺とリリスはその大広間の中央にいた。
 
 感覚的には早朝っぽいので、他の魔族の姿は見当たらない。どうやらそのあたりの時間感覚というか生活リズムは人間と近しいようだ。
 太陽の光が無いのはいささか残念だが。

「相変わらず汚いなぁ」

 俺は大広間全体に視線を這わせた。

 魔王城の大広間は、歩くたびに微細なちりやほこりが空中を舞い踊り、光の輝きを反射していた。
 ほこりが床を覆い、光が差し込むとそれらはキラキラと輝き、まるで幻想的な光景が広がっているかのようだった。

 無論、全て汚らしいものである。
 掃除のしがいがあるってもんだ。

「ソロモン、なんか楽しそう」

「リリスにも掃除の楽しさがすぐにわかるさ」

「それは何? 魔道具?」

 リリスは俺が手に持つ例の魔道具を指差すと、無表情で尋ねてくる。

「ん? 知らないのか? これは風式かぜしき高性能バキューマーだ」

「かぜ、ん? かぜしき?」

「風式だ。文字通り、強力な風を起こす魔法を封じ込めた魔道具がこの箱ん中に内蔵されていて、埃やちりを一気に吸い込んでくれる優れものだぞ」

 俺が手に持っているのは、風式高性能バキューマー。ひとよんで風式。
 木製の筒状の本体には手持ち用の取っ手があり、本体の端部にはガラス製の球体がついている。
 球体の内部には魔法を封じ込めた特殊な石が入っていて、片手で取っ手を持ち、空いた方の手でガラス製の球体に手を添えながら、そこに微量の魔力を込めると、吸引力のある風魔法を発動させられる仕組みだ。

「……わからない」

「まあまあ、見てろ。いくぞー」

 頬を膨らませるリリスを一瞥してから、ガラスの球体に手を添えて魔力を込めた。

 すると、筒状の本体が、グオオォォンォオオオンと、振動を伴った音を響かせる。
 少しばかり騒音に気を遣う必要があるのが難点だ。

 それから数秒後にはガラスの球体が緑色の光を放つ。
 一気に吸引力のある風魔法を発動させると、筒状の本体の中には大広間全体の埃という埃がとてつもない勢いで吸い込まれていった。

「うわぁぁぁぁぁーーー! 久しぶりにやると最高だな! これ!」

 俺は大広間内の埃が一気に吸い込まれていく快楽に酔いしれた。
 村にいた頃はよく部屋の隅々をきれいにしたものだ。
 村の人たちからも大好評だった。

「どうだー? リリス、お前もやってみるか?」

「え……」

 論より証拠とはよく言ったものだ。
 俺の問いかけに対して、横に立つリリスは呆然としていた。
 やりたいやりたくない以前に、驚きすぎて硬直しているらしい。
 
 じゃあ、とりあえず大広間の掃除は俺が終わらせるか。

 俺はガラスの球体に込める魔力量をやや増幅させると、風魔法の吸引力を高めて大広間の中を歩き回った。
 やがて、十分ほど経過し、だだっ広い大広間と上下階へと伸びる階段の隅々まで掃除を終えた俺は、リリスの眼前に行って今一度声をかけた。

「リリス」

「……あ」

 気の抜けたような返事をした。

「これが風式高性能バーキューマー、通称風式だ。すごいだろ?」

「うん……ボクもやってみたいかも」

 リリスは指を咥えながら風式をジーーーっと見つめている。興味を持ってくれたらしい。

「いいぞ。今は食堂に誰もいないだろうし、そこで試してみるといい。この規模を十分足らずで終わらせられるなら、色んな部屋と廊下を含めても割と短時間で回れそうだしな」

 確実に閑散としている食堂へ向かうことにした。

「わくわく」

「楽しみか」

「うん、楽しみっ」

 リリスは相変わらず無表情気味ではあったが、その口調は確かに上擦っており、楽しみな気持ちが伝わってきた。

「じゃ、いくぞ!」

「いくぞーっ」

 俺の掛け声に合わせてリリスは右手を天に突き出した。

 あまり周囲に関心がなさそうに見えたので、こうして興味を持ってくれたのは嬉しい限りだな。
 
 
 

 







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