いきなりですが魔王城で働くことになったので、魔族っ娘たちと一緒にスローライフを満喫します!

チドリ正明@不労所得発売中!!

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第二章

ようこそ魔王城へ 10

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「どうぞ、おかけになってください」

「ありがとうございます」

 俺はキリエさんに言われるがままに屋敷の居間のソファに腰を下ろした。

 当のキリエさんはキッチンへ向かう。何やら飲み物の準備をしてくれていたので、俺は待っている最中で部屋を確認した。

 屋敷の居間は穏やかで癒しの雰囲気に満ちていた。
 広々とした部屋には、やわらかな緑色や白色の装飾が目につき、壁には植物や花が飾られ、天井からは薄い幻想的な光が降り注いでいた。
 自然光が無く照明は魔道具の灯りなのに、魔王城に比べると非常に心地よく感じた。
 おまけに屋敷の中は心地よい香りが漂っていて、入った瞬間から落ち着きのある空間だと体が受け入れてくれた。

「おまたせしました。紅茶です。砂糖とミルクはテーブルの中央に置いてありますのでお好きにどうぞ」

 俺が部屋を見回していると、キリエさんはティーカップを片手に戻ってきた。俺の前に丁寧な所作で置き、向かいのソファに腰を下ろす。
 
 意外に思えたが、コースターは可愛らしいハート型だったし、ティーカップも明るいピンク色だった。
 中には温かい紅茶が注がれており、落ち着く香りと湯気を出している。

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 俺は紅茶の中に砂糖とミルクをこれでもかというくらいまで混ぜ合わせた。甘々の甘になっているが、これくらいがちょうどいい。

「随分と甘党なんですね」

「ん? そうですね。魔道具製作で頭と魔力を使うと疲れるので、昔から栄養はたくさん摂るようにしてるんですよね」

 村を出てからは魔道具に向き合う機会がめっきり減ったが、昔からその癖は抜けていない。

「確かに魔力を消費した後はお腹が空きますし、かなり疲れますもんね」

「そうなんですよね。キリエさんは主に回復魔法を使われるんですか?」

 俺は一度紅茶を口にして気分をリセットさせると、向かいに座るキリエさんに尋ねた。

「はい。私はこのお屋敷で治療院を営み、魔族の治療をメインに行なっております」

「へぇ……その口ぶりだと他にも何か?」

「希少な魔道具の収集をしております。実はそちらが本題になりまして、ソロモンさんに見ていただきたい魔道具があるのです。少々お待ちください」

 キリエさんは階段を上り二階へと向かって行った。

「俺にわかるかな……」

 魔王の言う通り、父さんが稀代の天才魔道具職人であるならば、俺の知識に間違いはないと思う。

 その知識や技術を披露する機会が一度としてなかったから、キリエさんの期待に応えられるかわからないな。

「お待たせしました」

 不安を胸に思考を続けていると、キリエさんは長さ百五十センチほどの長杖を片手に戻ってきた。
 杖の先端にはダークグリーンの色合いをした石がついているが、全く魔力を感じられず力を失いかけている。

「そちらは?」

「これは私が愛用していた杖になります。とある魔道具職人の方に製作していただいた特注品なのですが、その方に手入れの仕方を聞き忘れてしまいまして、今では使用できない状態になってしまいました」

 キリエさんはソファに座ると、大切そうに自身の膝の上に杖を乗せた。

「ほう……手に取っても見てもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

「どれどれ……」

 俺はキリエさんの手から杖を受け取り、じっくりと全体と先端の宝石の状態を確認した。

 そもそも魔法使いが使用する杖というのは、魔法を唱える際に込める魔力を増強させる効果がある。
 普通は特殊な木材で柄を造り、先端には魔力を込めた宝石、通称魔力結石を取り付けて効果の増強を図るのが一般的だ。
 しかし、魔力結石のメンテナンスを怠ると光を失い効果が消えてしまう。

 この杖を見る限り、既に魔力結石は長年の使用を経たせいか魔力を含有する力を失っているので、新たなモノに交換すれば力を取り戻せそうだ。

「魔力結石はお持ちですか? できれば、これと同程度のものがいいですね」

「はい。えーっと……こちらでよろしいですか?」

 キリエさんは立ち上がって背後の引き出しの中から、全く同じ大きさの緑色の魔力結石を取り出してこちらに渡してきた。
 光り輝くそれは間違い無く未使用品である。
 元々のサイズも大きくてかなり高価なことは明白だったので、そんな引き出しからすぐに出てくるとは思わなかったな。
 俺が人間界で見たことがあるのは、これよりも三回りくらいは小さくて些か光力が少ない魔力結石だった気がする。

「木の状態は万全ですし、単なる魔力結石の効力切れですね。魔力結石の交換をする感じでいいですか?」

 俺は受け取った新たな魔力結石を隣に置くと、尚も杖全体の状態を確認した。
 すると、杖の最下部の方に見覚えのあるネームが刻印されていることに気がついた。

 文字は掠れていて少し醜いが、確かに”サイモン”と刻まれている。

「え? できるんですか? 魔界にいる色々な魔道具職人の方に見ていただいたら、その杖は特殊な構造で製作者と同じ魔力を持つ者でないとどうしようもないと言われたのですが……」

「あー、これを作ったのは俺の父さんみたいなので、その血を引く俺なら簡単に直せますよ。ちょっと待ってくださいね」

「えっ!? ソロモンさんはサイモンさんの御子息様なのですか!? 一体どういう偶然の巡り合わせでしょうか……? 街で過ごした苛烈な日常の記憶は摘出しておりましたが、過去の生い立ちについては見そびれてました」

「……よし」

 向かいでキリエさんが慌てふためいて驚きに感情が支配されているが、俺は気にすることなく杖の先端に取り付けられた古い魔力結石を取り外した。
 やり方は簡単。
 一定量の魔力を込めて力づくで引っ張るだけだ。
 本来は誰でもできる作業なのだが、父さんはそこに制限を加えていたらしい。
 現状、父さんの血を引く者は世界に俺一人だけなので、俺にしかこの杖のメンテナンスができない。

「後は新しい魔力結石を取り付けて……っと、完成しましたよ」

 俺は古びた魔力結石に変えて、新しい光り輝く魔力結石を同様の手順で取り付けると、杖をキリエさんに手渡しで返却した。
 キリエさんは未だに状況が飲み込めていない様子だったが、杖を受け取ると落ち着きを取り戻したのか、ごくりと息を呑んで何度も瞬きを繰り返した。

「……本当にサイモンさんの御子息様なんですね」

 キリエさんは信じられない物を見たかのようか顔つきだった。切れ長の瞳を細めることで、より美人感を高めてこちらを見ている。

「俺も父さんが魔王城で働いてたってことはついさっき知ったんですけどね。その様子だと、キリエさんは父さんと親しかったんですか?」

「杖のメンテナンス等の為に、たまにこちらに顔を出していただいたていたのです。寡黙ながら、とても優しいお方でした」

「魔王……様も似たようなことを言ってましたね」

 魔王と言いかけたが、対外的には魔王様と呼ばなければ問題に発展しかねないのですかさず言葉を修正した。
 というか、父さんって凄えな。他にも色々な魔族とのエピソードがありそうだ。

「左様ですか。ところで、幹部の方々には会われましたか?」

「えーっと、ヴァンパイアのリリス・ブラッドさんに会いましたよ。この通り、首をガブリと噛まれちゃいましたけどね」
 
 俺は顔を横に向けて首元を見せた。
 魔王城を回っている時に窓ガラスを鏡代わりに確認したのだが、首元にはリリスさんに噛まれた小さな歯の跡がくっきり残っていた。

「ほう? 彼女は極度の引きこもり体質で私もそのご尊顔を拝んだのは一度きりなんですよ。ソロモンさん、随分と彼女に気に入られたのですね。
 ヴァンパイヤの王であるヴァンパイヤロードの末裔なので、実力は確かですよ」

 キリエさんは口元に手を当てて驚いた素振りを見せた。
 ヴァンパイアロードの末裔だからこそ幹部ってわけか。
 確かに、魔力量は相当多そうだったし、その力も絶大なのだろう。良かった、機嫌を損ねて殺されなくて。

「そうなんですかね。ちなみに他の幹部の方々ってどんな感じなんですかね?」

「なんとも言えないですが曲者揃いなのは確かです。一つ言えるのは、少なくともリリスさんは幹部クラスの中では最もまともな部類に入るということです。ソロモンさんが他の方々と邂逅した際にどうなるかはわかりませんね」

「……曲者揃いですか」

 俺は首を垂らして息を吐いた。
 魔人ハーフデーモンである俺がそんな曲者揃いの幹部たちにどんな扱いを受けるのか不安でしょうがない。
 魔王の言葉と魔界で推し進めている計画を聞く限りだと人間よりも差別意識は低そうだが、やはり中途半端な血筋である俺を見たら嫌悪感を抱かせてしまうこともありそうだな。
 今後は魔王城に留まることになるので、言動には細心の注意を払わないといけないな。

「魔王城にいればそのうち会えるかと思います。では、話も済んだことですし、こちらに来てください。傷が残ってしまう前に治療させていただきますので」

「ん、あ、はい。隣、失礼します」

 よくわからなかったが首元の傷を治してくれるということで、俺は向かいに座るキリエさんの隣に移動した。

「傷を見せてください」

「はい……どうぞ」

「あら、かなり深めに噛まれるだけでなく結構な量の血液と魔力を吸われておりますが、体調は万全でしょうか?」

 キリエさんは俺の首元を間近で凝視しながら小さな声で確認してくる。
 生暖かい吐息が当たってこそばゆい。ついでに、隣に座ったらよくわかったが、キリエさんはスレンダーな見た目に反して胸が大きいらしく、肩の辺りに異様なまでの柔らかさを感じる。

 でも、理性の乱れとは別に、ちょっと頭がクラクラするな。

「少し、めまいが」

 なぜかここにきて視界がボヤけ始めた。

「貧血気味のようですので、本日は傷口の治療を終えたら部屋で安静になさっていてください」

「はい……」

「では、失礼します」

 キリエさんは頭を抱える俺の肩を片手で支えながらも、余った方の手で首元に優しく手を触れてきた。
 そして、柔らかくて暖かな魔力をじんわりと静かに傷口に流し込んでくる。

「……ありがとうございます。慣れているんですね」

 やがて、傷口が治ったことを感覚的に察した俺は、キリエさんに頭を下げてお礼を伝えた。

「これが私の仕事です。それに、ソロモンさんの治療をするのは二度目ですからね」

「二度目?」

「ええ。一度目はリュミエールお嬢様が血相を変えて担ぎ込んできた時です。瀕死のソロモンさんの事を回復魔法で治療いたしました」

「あ……キリエさんだったんですね。俺のことを助けてくれたのって」

「回復魔法をかけたのは私ですが、ここまで運んできてくださったのはお嬢様です。お忙しいのですぐに出て行かれましたが、本当に心配していた様子でした。お話しする機会があれば直接お礼を伝えてあげてください」

「もちろんです。キリエさんも、治してくれてありがとうございました」

「いえ、これは私の仕事なので大丈夫です。では、くれぐれもお気をつけてお帰りください」

 キリエさんは俺の手を取り、優しい声色で言葉をかけてくれた。
 なんだこの人、いや、この魔族。優しすぎる。
 やっぱり、人間が一方的に恨んでいるだけで、魔族そのものは比較的温厚な性格なのかもしれない。

 俺はふらふらする頭を抑えながら屋敷を後にすると、そのまま寄り道せずに管理室へと帰ったのだった。

 





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