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第一章
ソロモンの軌跡 1
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「……何も上手くいかないな」
街の近くにある、閑散とした森の中。
中央に広がる湖のほとりに座り、溜め息をこぼす。
街には俺の居場所がない。
理由は簡単だ。俺は魔族と人間の混血種、魔人だから。
「それにしても、まさか父さんが魔族だったなんて思わなかったな」
一月前。父さんは病で命を落とす間際で、衝撃の事実を口にした。
それは、自分が魔族であるということ。
魔族と言えば、人類が最も忌み嫌う存在だ。
村の人たちはそれを知らなかったんだと思う。普通に接していたし、何なら父さんは村一番の人気者だったから。
知っていたのは母さんだけかな。
そんな母さんは俺が幼い頃に病気で死んじゃったから、詳しい話を聞く術はない。
ただ、一つはっきりしたのは、魔族の父さんと人間の母さんの間に生まれた俺が混血種であるということだ。
「……魔人ってだけでどうしてこんなに虐げられなくちゃいけないんだよ」
父さんを恨むつもりはない。俺のことを愛してくれたから。
でも、後ろ指を差される毎日はもう嫌だ。
罵詈雑言を浴びせられながら、執拗な暴力を受け続ける日常には耐えられない。
空を見上げて想いに耽る。
誰にも虐げられることなく、俺らしく自由に暮らしたい。
父さんから教わった魔道具製作と手先の器用さを活かして、誰かの役に立ちたい。
「……あれは……?」
感傷に浸っていると、鮮やかな青空の遥か向こうから何かが近づいてくるのが見えた。
隕石……? かなりの速度だぞ。
確実にこちらへ向かって降ってきている。
それが何かは全くわからない。でも、巨大な物体とかではなかった。
「近づいてくる……」
俺は湖畔を離れて後方に退いた。
木々の隙間から顔を出し、迫り来る物体を凝視する。
やがて、物体は轟音を伴い湖に墜落すると、淡い光を放ち、湖面に美しい波紋を広げながら水中に沈んでいった。
「な、なんだったんだ……?」
俺は恐る恐る湖に近づいた。
湖の底からこちらへ向かって、黒い影がぷかぷかと浮いてくるのが見えた。
よくよく目を凝らして見てみると、それは確かに人の形をしていた。
やがて、数十秒後、人の形をした何かが水面に浮き出て全貌を現した。
それは黒いローブを纏っていて、頭には小さめのツノが二本生えている。
髪は銀混じりの綺麗な紫色で、腰元までありそうなほど長い。ただ、背丈は結構小さそうだ。
女性というよりは少女らしい容姿だ。更に言えば、種族は人間ではなく魔族だろう。
異形のツノがその証拠だが、俺にもその血が入っているから見た目で判断せずともなんとなくでわかる。
え? というより、どうして魔族が空から降ってきたんだ……?
意味がわからない。
「ぅ、ぅぅ……はぁはぁ……っっ……!」
魔族の少女は仰向けになって水面を彷徨っていたが、その呼吸は荒々しかった。
一刻も早く手当てをしないと死んでしまいそうに見えた。
焦った俺は持参していたバックパックを漁る。
「確か麻縄があったはず……あった!」
俺は奥底から麻縄を手に取ると、すぐに輪っか状に固く結んで、魔族の少女のツノを目掛けて放り投げた。
麻縄の輪っかは見事にツノに引っかかったので、俺は急いで麻縄を湖畔へ手繰り寄せる。
あまり呑気にしている暇はなさそうだ。
「と、取り敢えず、外傷にはポーションをかけてから包帯を巻いて……それからそれから、あっ! 俺の魔力を分けてあげて……っと」
湖畔で衰弱する魔族の少女に対して、今この場で思いつく限りの処置を施す。
肩口と脇腹には細かな傷があったのでポーションをかけて包帯を巻き、疲労困憊気味の顔色は魔力を分け与えることで改善を試みた。
本当は人間同士、魔族同士が一番だが、俺は魔人だから、魔力を分け与えたら少しくらいは体力を回復させる効果は出るはず……
俺は生まれつき魔力量だけは多いし、たくさん分け与えてみよう。
「少し顔色が良くなってきたかな。それに、呼吸も落ち着いてきた」
ほっと胸を撫で下ろした。
何かあった時のために常にバックパックを持ち歩いていたのが功を奏した。
麻縄やポーションは魔道具製作で怪我した際に治療するために携帯している。備えあれば憂いなしだ。
それにしても、あの高度から高速で降ってきたというのに、普通に生きているなんて流石は純真な魔族だなぁ。
魔界から来たのかな?
ここは人間界だから本当は元の場所まで送り届けてあげた方が優しいか。
でも、人間界と魔界は隔絶されていて、行き来するためには莫大な量の魔力と特殊な呪文が必要って聞いたことがある。
俺にはもうできることがない。
「……帰ろう」
魔族の生命力と耐久力があれば、数日で完全に治癒するはずだし、俺が何もせずとも一安心だ。
街へ連れていって俺と同じ目に遭わせてしまうことだけは避けたかった。
モンスターが現れないこの森の中なら、しばらくは安全だと思う。
今日はもう疲れたから休もう。
そして、明日には街を出よう。
もう、俺は街にはいたくない。
別の場所で、新しい環境で、新しい自分を見つけ出したいな。
街の近くにある、閑散とした森の中。
中央に広がる湖のほとりに座り、溜め息をこぼす。
街には俺の居場所がない。
理由は簡単だ。俺は魔族と人間の混血種、魔人だから。
「それにしても、まさか父さんが魔族だったなんて思わなかったな」
一月前。父さんは病で命を落とす間際で、衝撃の事実を口にした。
それは、自分が魔族であるということ。
魔族と言えば、人類が最も忌み嫌う存在だ。
村の人たちはそれを知らなかったんだと思う。普通に接していたし、何なら父さんは村一番の人気者だったから。
知っていたのは母さんだけかな。
そんな母さんは俺が幼い頃に病気で死んじゃったから、詳しい話を聞く術はない。
ただ、一つはっきりしたのは、魔族の父さんと人間の母さんの間に生まれた俺が混血種であるということだ。
「……魔人ってだけでどうしてこんなに虐げられなくちゃいけないんだよ」
父さんを恨むつもりはない。俺のことを愛してくれたから。
でも、後ろ指を差される毎日はもう嫌だ。
罵詈雑言を浴びせられながら、執拗な暴力を受け続ける日常には耐えられない。
空を見上げて想いに耽る。
誰にも虐げられることなく、俺らしく自由に暮らしたい。
父さんから教わった魔道具製作と手先の器用さを活かして、誰かの役に立ちたい。
「……あれは……?」
感傷に浸っていると、鮮やかな青空の遥か向こうから何かが近づいてくるのが見えた。
隕石……? かなりの速度だぞ。
確実にこちらへ向かって降ってきている。
それが何かは全くわからない。でも、巨大な物体とかではなかった。
「近づいてくる……」
俺は湖畔を離れて後方に退いた。
木々の隙間から顔を出し、迫り来る物体を凝視する。
やがて、物体は轟音を伴い湖に墜落すると、淡い光を放ち、湖面に美しい波紋を広げながら水中に沈んでいった。
「な、なんだったんだ……?」
俺は恐る恐る湖に近づいた。
湖の底からこちらへ向かって、黒い影がぷかぷかと浮いてくるのが見えた。
よくよく目を凝らして見てみると、それは確かに人の形をしていた。
やがて、数十秒後、人の形をした何かが水面に浮き出て全貌を現した。
それは黒いローブを纏っていて、頭には小さめのツノが二本生えている。
髪は銀混じりの綺麗な紫色で、腰元までありそうなほど長い。ただ、背丈は結構小さそうだ。
女性というよりは少女らしい容姿だ。更に言えば、種族は人間ではなく魔族だろう。
異形のツノがその証拠だが、俺にもその血が入っているから見た目で判断せずともなんとなくでわかる。
え? というより、どうして魔族が空から降ってきたんだ……?
意味がわからない。
「ぅ、ぅぅ……はぁはぁ……っっ……!」
魔族の少女は仰向けになって水面を彷徨っていたが、その呼吸は荒々しかった。
一刻も早く手当てをしないと死んでしまいそうに見えた。
焦った俺は持参していたバックパックを漁る。
「確か麻縄があったはず……あった!」
俺は奥底から麻縄を手に取ると、すぐに輪っか状に固く結んで、魔族の少女のツノを目掛けて放り投げた。
麻縄の輪っかは見事にツノに引っかかったので、俺は急いで麻縄を湖畔へ手繰り寄せる。
あまり呑気にしている暇はなさそうだ。
「と、取り敢えず、外傷にはポーションをかけてから包帯を巻いて……それからそれから、あっ! 俺の魔力を分けてあげて……っと」
湖畔で衰弱する魔族の少女に対して、今この場で思いつく限りの処置を施す。
肩口と脇腹には細かな傷があったのでポーションをかけて包帯を巻き、疲労困憊気味の顔色は魔力を分け与えることで改善を試みた。
本当は人間同士、魔族同士が一番だが、俺は魔人だから、魔力を分け与えたら少しくらいは体力を回復させる効果は出るはず……
俺は生まれつき魔力量だけは多いし、たくさん分け与えてみよう。
「少し顔色が良くなってきたかな。それに、呼吸も落ち着いてきた」
ほっと胸を撫で下ろした。
何かあった時のために常にバックパックを持ち歩いていたのが功を奏した。
麻縄やポーションは魔道具製作で怪我した際に治療するために携帯している。備えあれば憂いなしだ。
それにしても、あの高度から高速で降ってきたというのに、普通に生きているなんて流石は純真な魔族だなぁ。
魔界から来たのかな?
ここは人間界だから本当は元の場所まで送り届けてあげた方が優しいか。
でも、人間界と魔界は隔絶されていて、行き来するためには莫大な量の魔力と特殊な呪文が必要って聞いたことがある。
俺にはもうできることがない。
「……帰ろう」
魔族の生命力と耐久力があれば、数日で完全に治癒するはずだし、俺が何もせずとも一安心だ。
街へ連れていって俺と同じ目に遭わせてしまうことだけは避けたかった。
モンスターが現れないこの森の中なら、しばらくは安全だと思う。
今日はもう疲れたから休もう。
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もう、俺は街にはいたくない。
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