最強の出戻り勇者は空白の五年間を取り戻すために現代日本でチート級の魔法を乱用してサクサクと成り上がります

チドリ正明@不労所得発売中!!

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「——は? 今なんて?」

 俺は西園寺さんの口から発せられた言葉に驚いて、自然と口がぽっかりと開いた。

「聞こえなかったかしら? 田中さん。あなた、小説家にならない?」

 西園寺さんは少し声を大きくして同じことを言った。
 どうやら俺の耳が遠くて聞こえてないと勘違いしているようだ。

「いや、聞こえてはいたんだが……小説家って……。俺、仕事に関してはレジ打ちと品出し以外、全く経験はないけど大丈夫か?」

 俺は高卒から異世界に召喚された二十歳までの2年と少しの間に、合計三つのコンビニでバイトリーダーとして働いてきた。
 全く自慢できることではないが、俺に社会経験というものはないに等しいので、本当に簡単な事しかしないような仕事ならまだしも、小説家などという尖った仕事は中々ハードルが高い気がしている。

「大丈夫よ。私は編集者で田中さんは私が受け持つ作家さん。責任を持ってサポートするから安心してちょうだい。それに、あなたには返し切れないほどの恩もあるしね? 私からすれば、こうして対等に話をしてくれているだけでもありがたいと思っているわ」

 西園寺さんは悩みや不安を感じている俺のことを安心させるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
 魔法を使わなくてもその言葉が本心なのだと容易にわかる。

「わかった。頑張ってみるよ」

 無職の俺がどうこう言うものではないので、今は目の前にある課題に精一杯取り組むべきだろう。
 それに、西園寺さんと仕事以外で知り合いになれたというのは大きなプラスになる。多少やらかしても何とかなりそうだし、何より仕事がやりやすそうだ。

「うん。その意気よ」

 西園寺さんは楽しげに笑ってから閉じたばかりのノートパソコンを再度開くと、とてつもない速度でタイピングを始めた。

 早速説明を始める気らしい。

「……まあ、なるようになるか」

 少し心配だが、なんとかなるだろう。
 バレない範囲で魔法を使って、五年間のブランクと欠点を補おう。

「随分自信があるのね?」

 西園寺さんはノートパソコンに目をやりながら、小声で呟いた俺の言葉を軽く笑い飛ばすように拾ったが、俺には魔法があるので、簡単なルールさえ覚えてしまえば特に困ることはない。
 どんな仕事でもハイレベルにこなすことができるだろう。

「まあな」

 俺は変に勘繰られても面倒なのでサラリと受け流し、まるで冗談で言ったかのように話を終わらせた。
 
「ふふっ、自信があるのはいいことよ。二人三脚で素晴らしい本を出しましょう?」

 西園寺さんは俺のことを一瞥すると、再びノートパソコンに目をやった。
 見たところ、俺のような素人と組む不安は特になさそうだ。
 少し知り合いなだけで、普通の新人作家と扱いは何ら代わりはないのだろう。

「そうだな。一つ質問だが、本を出すまでのおおよその時間……というか、期限は決まっていたりするのか?」

「んー。そうねぇ……短くて大体三ヶ月、長くて一年って感じかしら? でも結局は人によるって感じかな? あんまり数字が振るっていないのに原稿の提出が遅い人もいるし、結構な売り上げで巻数も相当なものなのに早い人もいるわね」

 西園寺さんは顎に手を当てて考えるような素振りを見せると、記憶の中を探るようにして言った。
 この人が何歳かはわからないが、見た目からして俺と同じか一個上くらいだろう。

「そうなんですか。じゃあ半年くらいで出版できたら御の字ですかね」

 西園寺さんと組めた以上、出版すること自体は決まったようなものだろう。
 問題はいつになったらそこにありつけるか、という点だったが、早いうちに原稿を仕上げてしまえば、なんとかなりそうだな。

「まあそうね……よしっ……準備完了よ! 今から文章を書くにあたって大切なルールと書き方について簡単に説明していくから集中してよく聞いてね」

 西園寺さんは軽く相槌を打つと、格好良くエンターキーを叩いた。
 そして、ノートパソコンを俺に見えるように向きを変えた。
 手にはごく普通のボールペンを持っており、小慣れた様子で器用にペン回しをしている。

「わかった。説明を頼む」

 俺は軽く腰を上げてソファに浅く座り直した。
 そして瞬時に、こちらの世界の人々では到底敵わないであろう圧倒的な視力と聴力、集中力を研ぎ澄ませて、話を聞く体勢に移った。

「任せて。まずは——」

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