最強の出戻り勇者は空白の五年間を取り戻すために現代日本でチート級の魔法を乱用してサクサクと成り上がります

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助けを求める女性

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「あ、あなたは……?」

 女性は悲壮感漂う表情で俺のことを見上げた。
 涙混じりの弱々しい声はオスのオークに攫われてしまった女冒険者のようだった。

「僕は言い争っている声が聞こえたので参上したまでです。何かお困りごとでも?」

 俺は女性に手を差し伸べて軽く微笑んだ。
 反応から察するにあっちは俺だと気がついていないらしい。
 もしかすると、気が動転していることも相まって状況判断ができていないのかもしれない。

「……盗み聞きですか? それとあなたには関係ないので気にしないでください。大丈夫ですから」

 女性は差し出された俺の手を振り払うと、よろめきながらも自力で立ち上がった。

「そうですか……でも、涙が出てきますよ?」

 弱い自分を精一杯取り繕うような強気な口調ではあったが、やはり体は素直だ。
 女性の瞳からは一粒の涙が流れていた。

「え……? ほ、ほんとだ……こんなつもりじゃなかったのに……」

 女性が白みを帯びた細い指で一粒の涙を拭うと、両の瞳からはまるでダムが決壊したかのようにとめどなく涙が溢れて出てきていた。

「……」

 俺はそれを静かに見守った。
 魔法を使わなくても、素直で純情な人間というのは感情が表へ出てきてしまうものだ。
 たかが顔見知り程度の俺がここで何か言葉をかけてしまうのは無責任になるだろう。

「……ごめんなさい。みっともない姿を見せてしまいました」

 一分ほど経過しただろうか。
 女性は真っ赤に腫らした目で俺のことを見ると、恥ずかしそうな様子で軽く頭を下げた。

「いえ、大丈夫です。よろしければ僕が力になりますので、話を聞かせてもらえませんか?」

 俺は女性に寄り添うような優しい口調でそう言った。
 異世界でもこういう人を助けなければならない場面は数多くあったので、その経験を参考にしている。
 魔法で洗脳して無理やり吐かせても良いのだが、それをする必要がないくらいには俺の印象はそれほど悪くなさそうだしな。

「……」

「話したくないなら無理をなさらずに。さっきの話は聞かなかったことにしますから安心してください」

 女性が迷っているようだったので、俺はこれ以上押すことは控えて一歩引く選択をした。
 がっついていると思われても警戒されてしまうので、ここであえて突き放すような言葉で距離を置くのだ。
 おそらく、女性は心が荒み、かなり消耗しているはずなので、俺のような他人にでも頼りたいはずだ。

「……します……」

「はい?」

 女性は下を向いてぼそぼそと何かを呟いた。

「話をしますから、聞いてくれませんか……?」

「喜んで……。そうですね……まずは場所を移しましょうか。こんな辛気臭いところにいても何も始まりませんからね」

 俺は女性から良い返事を聞けた喜びから頬が緩みかけたが、すぐに平静を取り繕った。
 何はともあれ、人助けができそうだな。

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