最強の出戻り勇者は空白の五年間を取り戻すために現代日本でチート級の魔法を乱用してサクサクと成り上がります

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パチンコからの揉め事

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「——よっしゃーーーーー! 確変だァッ! アツいぞ! これはアツすぎる!」

 俺は右手で歪なハンドルを捻り、左手で銀色の玉をジャラジャラと転がし、目ではチカチカとした派手な画面を凝視していた。

「いけ! いけ! ぅぅぅ……あぁっくそっ! これで200,000円も吹っ飛んだぞ……。なんだよこのブラックボックスは……」

 俺は玉が完全に出てこなくなったことを確認してからハンドルから手を離した。

「ハマったら最後だな」

 ここは適当に入店した街のパチンコ屋だ。
 競馬と同じく人生で初めての試みであったが、違う点と言えば、魔法を使わずに純粋に楽しんでいるという点だろう。
 感覚で台を選び、訳もわからず金を入れていき、ついに200,000円が吸い込まれてしまった。

「……まあ、楽しいから良いや」

 貧乏性な俺からすれば10,000円ですらかなりの大金に感じるが、今は死に物狂いで働いても手取り120,000円だったあの頃フリーター時代とは違うのだ。
 五年分の空白を取り戻すためなら、それくらいも許されるだろう。

 俺はほんの僅かに当たったことがわかるくらいの量しかない銀色の玉を残して席を立った。
 時間を忘れて遊んでいたが、もう外は真っ暗なので結構な時間入り浸っていたことがわかる。

「もう行くか」

 俺は喜怒哀楽様々な表情を浮かべている老若男女の姿を横目で見ながら出口へ向かった。
 見たところ負けている人の方が多そうだな。
 まあ、所詮はギャンブルだ。これで儲けようとはせずに娯楽程度と考えて適度に楽しむのが良いのだろう。





「やっぱりカムイ町に来ると、日本に帰ってきた気がするなぁ」

 今俺が歩いているのは日本一の歓楽街として名高いカムイ町だ。
 その場にいるだけでワクワクしてくる楽しさの中にハラハラとした危険を孕んだこの空気感と雰囲気は、絶対に他の街にはないものと言える。

 どう見ても堅気には見えない顔つきをした男性や、キャバ嬢らしき女性と歩く金を持ってそうなオッサンなど、様々なバックボーンを持った人々がこの街には蔓延っている。
 
 そんななんでもないことを考えている時だった。

「——おい! こんなんで足りると思ってんのか!? ウチの店のもんが大怪我してんだぞ!」

「このお金を払ったら許してくれるって話だったじゃない! そもそも肩が少しぶつかったくらいで大袈裟よ!」

 裏路地の奥の方から男の怒声とそれに言い返す女性の強気な声が聞こえてきた。
 普通の人間は大勢の人々が往来するこの場でそんな声を聞き取るのは不可能だが、生憎俺は目も耳も鼻も異世界の勇者のレベルだ。
 そんなやりとりが嫌でも耳に入ってくるので、どうしても気になってしまう。

 俺はフッと気配を消して声のする方へ向かった。
 ジメジメとして全く人気のない裏路地にはアウトローな空気が漂っている。

「関係ねぇよ! じゃあてめぇの妹がどうなってもいいのか?」

 男は女性の腕を力強く掴むと、グッと引き寄せて耳元で声を荒げた。

 壊れかけてぷつぷつと音を立てる小さな街灯に照らされる男の顔は怒りに満ちていた。

「っ! 妹に何をしたのよ!」

 女性は一瞬怯みを見せたがすぐに立て直すと、男の眼前で強く言い返した。

「はっ! 知りたけりゃとっとと追加で100,000,0払えや!」

 ここまでの二人のやり取りを覗いて見て分かったことがあった。
 この女性……銀行強盗の時にいた人だ。
 手下の男の言葉を無視して警察に通報して痛い目にあったあの人だ。

 それにしても何で同日にこんな大きなトラブルに巻き込まれているんだよ……。

「はぁ!? 無理に決まってるじゃない! ふざけないで!」

 それにしても金銭トラブルか。
 どっちが悪いかはまだわからないが、もしも困っているのなら力を貸すことを考えなくもないな。
 本来は助ける義理などないのだが、俺は強制的にとは言え勇者をやらされていた身なので、どうしても人が困っていると手を差し伸べたくなってしまうのだ。

「馬鹿言うな! 俺ァてめぇがたった一週間で100,000,0円を用意したことぐらい知ってんだ! それくらい楽勝だろ? まあ、もしも払えねぇならてめぇはウチの店で働いてもらうけどなッ!」

 男は舐め切ったような声色で女性の肩を小突いた。

「ぐっ……!」

「んだよその目は? ふんっ、まあいい。逃げようとしたって無駄だからな。妹がどうなっても良いなら別だけどな」

 男は女性が悔しそうにしている様子を嘲笑うように言葉を吐き捨てると、気配を完全に消している俺の真横を通ってその場を後にした。

「……もうお終いよ……」

 女性は膝から崩れ落ちて確かな絶望感を孕んだ声で呟いた。
 
 はぁぁ……見てられねぇな……。
 どちらが善と悪なのかは態度や言動から一目瞭然だったし、去っていった男からは明らかな悪意と敵意を感じたので、ここは格好良く力を貸してあげることにした。

 俺は気配を瞬時に元に戻して、ゆっくりと女性のそばに歩いて行った。

「——お話を聞かせてもらいませんか?」
 
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