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マジックボックス
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「——お待たせして申し訳ございませんでした。なにぶん金額が金額なもので準備をするのに手間取ってしまいました……こちらが払戻金の2,057,600,0円でございます。ただいまこちらの機械で確認致しますので、もう少々お待ちください」
受付のお姉さんはくたくたと疲れた様子で言葉を紡いだ。
俺が単勝でボロ儲けをしてから数時間の間、受付のお姉さんと業務をすでに終えていた他の職員は、俺が勝った分の払戻金の準備や計算、手続きに追われていたようだ。
かくいう俺も何時間も待たされていたので、ここはお互い様だろう。仕事をしているものとその客だ。互いに悪いことはしていないので文句は言えない。
「いえ、確認は大丈夫です」
受付のお姉さんは何やら俺の知らない機械に金を全てぶち込もうとしていたが、俺はそれを口と手を使って止めさせた。
なぜなら金の確認は既に魔法で済ませてあるからだ。
きっかり2,057,600,0円あるので問題ない。
「で、ですが! お客様の払戻金は大変高額ですので——」
「——それなら、何かあった場合はこっちの責任でいいですよ」
俺は受付のお姉さんの真面目さに呆れながら言葉を遮った。
「それに、もう疲れているでしょう? もうその作業は済ませたことにして、お互いに楽になりませんか? 時間も時間ですし……ね?」
外は既に真っ暗だ。俺は午後三時頃に競馬場に来たというのに、金を渡すだけでこんなに時間が経っていた。
俺は別に疲労など無縁な体なので問題はないが、俺以外はただの人間だ。いずれ限界が来る。
別に少しくらいは楽をしてもバチは当たらないだろう。
「そ、そうですか? で、では、お言葉に甘えさせていただきます……」
「そうそう。それでいいんです。もうこのお金は僕が貰っても?」
俺はふぅっと嘆息した受付のお姉さんに微笑みかけて、目の前の大金に手をかけた。
「は、はい! 持って帰れますかね? なんでしたら、こちらでタクシーとガードマンを手配しますけど……」
受付のお姉さんは俺の小さなカバンをチラリと見ながら心配そうに言った。
確かに俺が持つ小さなカバンの中には履歴書と多少の文房具しか入っていないが、その見た目とは裏腹に中には無限に物が入るから安心してほしい。
「大丈夫ですよ? 実はこのカバン、見た目に反してよく物が入るんですよね」
俺は目の前に積まれた100,000,0円の札束を一つずつカバンの中に放り込んでいくが、カバンは全く膨らまないし、何をしても重量感を感じさせない見た目のままだ。
というもの、実はカバンの中に異空間を作っており、そこに収納しているからだった。
日本のラノベ的に言うならマジックボックスというやつで、生物以外であれば基本的に何でも収納することができる代物だ。
「へ、へぇ……本当ですね……マジックみたいです!」
「今の日本は便利なものが多いですからね。こういうものも珍しくないですよ……っと、これで全部ですね」
俺は僅か三十秒ほどでテンポ良く全ての金をカバンに入れ終えた。
受付のお姉さんは疲れて頭が回らないのか、ぽーっとした虚な目つきで適当に返事をしていたので、特に疑問は持っていないらしい。
まあ、疑問を持って深く追求してきた時点で魔法で記憶を書き換えるんだけどね。
「では、さようなら」
俺はそんな受付のお姉さんに軽く別れの挨拶を済ませてから、楽しげな気分で夜の街に繰り出したのだった。
受付のお姉さんはくたくたと疲れた様子で言葉を紡いだ。
俺が単勝でボロ儲けをしてから数時間の間、受付のお姉さんと業務をすでに終えていた他の職員は、俺が勝った分の払戻金の準備や計算、手続きに追われていたようだ。
かくいう俺も何時間も待たされていたので、ここはお互い様だろう。仕事をしているものとその客だ。互いに悪いことはしていないので文句は言えない。
「いえ、確認は大丈夫です」
受付のお姉さんは何やら俺の知らない機械に金を全てぶち込もうとしていたが、俺はそれを口と手を使って止めさせた。
なぜなら金の確認は既に魔法で済ませてあるからだ。
きっかり2,057,600,0円あるので問題ない。
「で、ですが! お客様の払戻金は大変高額ですので——」
「——それなら、何かあった場合はこっちの責任でいいですよ」
俺は受付のお姉さんの真面目さに呆れながら言葉を遮った。
「それに、もう疲れているでしょう? もうその作業は済ませたことにして、お互いに楽になりませんか? 時間も時間ですし……ね?」
外は既に真っ暗だ。俺は午後三時頃に競馬場に来たというのに、金を渡すだけでこんなに時間が経っていた。
俺は別に疲労など無縁な体なので問題はないが、俺以外はただの人間だ。いずれ限界が来る。
別に少しくらいは楽をしてもバチは当たらないだろう。
「そ、そうですか? で、では、お言葉に甘えさせていただきます……」
「そうそう。それでいいんです。もうこのお金は僕が貰っても?」
俺はふぅっと嘆息した受付のお姉さんに微笑みかけて、目の前の大金に手をかけた。
「は、はい! 持って帰れますかね? なんでしたら、こちらでタクシーとガードマンを手配しますけど……」
受付のお姉さんは俺の小さなカバンをチラリと見ながら心配そうに言った。
確かに俺が持つ小さなカバンの中には履歴書と多少の文房具しか入っていないが、その見た目とは裏腹に中には無限に物が入るから安心してほしい。
「大丈夫ですよ? 実はこのカバン、見た目に反してよく物が入るんですよね」
俺は目の前に積まれた100,000,0円の札束を一つずつカバンの中に放り込んでいくが、カバンは全く膨らまないし、何をしても重量感を感じさせない見た目のままだ。
というもの、実はカバンの中に異空間を作っており、そこに収納しているからだった。
日本のラノベ的に言うならマジックボックスというやつで、生物以外であれば基本的に何でも収納することができる代物だ。
「へ、へぇ……本当ですね……マジックみたいです!」
「今の日本は便利なものが多いですからね。こういうものも珍しくないですよ……っと、これで全部ですね」
俺は僅か三十秒ほどでテンポ良く全ての金をカバンに入れ終えた。
受付のお姉さんは疲れて頭が回らないのか、ぽーっとした虚な目つきで適当に返事をしていたので、特に疑問は持っていないらしい。
まあ、疑問を持って深く追求してきた時点で魔法で記憶を書き換えるんだけどね。
「では、さようなら」
俺はそんな受付のお姉さんに軽く別れの挨拶を済ませてから、楽しげな気分で夜の街に繰り出したのだった。
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