【R18】年上上司のオトシ方

二久アカミ

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5:年下カレシの躾け方(※)

(2)※

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 我慢できると思ったのに、そう考えていたのは頭の中だけで、実際に奥村を見るとそんなことはただのごまかしだったと思い知る。ちゅうっと唇を吸うと、奥村がひどく驚いた顔で見つめ返してきた。その表情にすら煽られて、濱口は、ぎゅうっと奥村を抱き締める。奥村のデスク前、肘掛けつきの椅子に座ってる彼に縋るように抱きついてキスをしようとせがんだ。

「バカ……! 見つかったら、どうす……っ」
「もう誰もいないって……」

 もう結局何週間も二人だけの時間をとれてない。限界のきていた濱口は奥村に会いに来ていた。
 奥村のいる経営企画室。今日は出張帰りに会社に寄るといっていたが、遅くなるのはわかっていたので、ずっと社で待っていたのだ。時刻は既に夜十時をまわり、一応ノー残業デーである今日は、フロアには二人以外誰も残っていなかった。
 奥村の姿を見て、少し待っていていいですか、と濱口は近くのデスクのパソコンで自分の仕事をしていたのだが、彼が一息ついた感じだったので、コーヒーを入れて席にもっていってやった。
 しかし、ありがとう、と言い、ほっとした彼の表情にぐらりとゆれ、もはや自分自身をとめることなどかなわなかった。強引にキスを繰り返す濱口に、奥村は唖然としていたが、それを手でおさえて、ちょっと、と顔を逸らす。

「おい、待て、ちょっと……」
「……礼人さん……っ」
「ばか……っ、お前……ここ……っ、職場っ!」
「……っ」

 わかってるけど! と濱口は少しだけ残った理性を振り払い、だって! とまた唇を近づけるが、奥村はそれをぐいっと押し退け、体を引き離した。

「礼人さんっ、なんで……?」
「……っ」

 仕事中! と真っ赤な顔を逸らされる。むっとしつつも、仕事場なのに焦っている表情の奥村が新鮮で、胸の奥がきゅうっとなった。

「なんで? 今ずっと会えてねえのに。ちょっとぐらいいいじゃないですか」
「な、なんで……って……っ」

 会社だぞ、ここ、と奥村は大きくなりそうな声を必死でおさえ、うう、っと唸って俯いた。それは分かる。分かっているけれど、濱口だって限界だった。

「……もう誰もいねえし……仮眠室か、そこで……」

 一回だけでもしねえ……? と濱口は奥村の傍にあるミーティングスペースの奥の応接室に目をやった。奥村は目を見開き驚いた顔をしている。濱口は、耳まで真っ赤になった彼の表情に煽られ、がしっと彼の腕を掴んで引っ張って行く。

「ちょっ……おい!」

 応接室の表示を「使用中」に変え、強引に引っ張った奥村をその中へと入れる。何する、といいかけた彼を見ながら、後ろ手に鍵をかけた。
 今フロアには誰もいない。警備員も奥村の残業はずっとのことだから寄ってこないだろう。応接室にある長いソファーに、混乱がみてとれる表情の奥村を押し付けると、濱口はそこに跨がった。

「ちょっとっ、濱口……っ!」
「オレ、もう限界……で……っ! 礼人さん補給しないと死んじゃいそう……っ」
「……っ! バカ!! 勝手に死ね!」
「マルコばっか構って、仕事バカにも程が……っ! 昼飯もくわねえし! 心配もさせてくんねえしさ!」

 抱き締めさせてよ、と濱口が見つめてくる目が必死で、奥村は、うっ……と言葉をつまらせた。好き、大好きだよと言葉を繰り返し、耳元へキスをする。濱口と奥村は数回セックスをしているが、さすがに場所が場所だと思っているのか、奥村は力なく濱口の体を押し返そうとした。

「ダメだ。ここじゃ……」
「じゃあ、今から泊まりにいっていい? したい……」
「……っ! 明日、朝から会議だし……っ」

 奥村は視線をそらして俯いた。濱口はじっとそれを見つめる。セックスするのは嫌いじゃないと思う。けれど、一ヶ月以上していないし、後ろを使ったセックスにはまだ慣れていないだろうことは理解していた。次の日の負担が大きいから、できれば避けたい、というのが彼の本音だろう。そんな思考も分かってしまって、つい、週末も無理って言ってた! と濱口は奥村の体をソファーに押し付けた。

「そりゃ出張だしな。帰ってきたら、時間あくから」
「嘘! だって、この前だってそー言って、疲れたからってドタキャンしただろ!?」
「……」

 仕事が詰まっていて、体力的にもきつくて。濱口と触れ合いたい気持ちもありそうだが……奥村は黙ってしまう。それがどうにも濱口にはもどかしい。

「あともうちょっとで仕事の片もつくから……今は……」
「……っ! たまにはオレの言うこともきいてよ……っ!」

 礼人さんだって、したいだろ? と体を弄ろうとしたが、ふっと手が出てきた。殴ろうとしてきた腕をあっさりとってソファーにおしつける。

「やっ……ちょ……!」
「痛くしねえから……っ、声……あげると気付かれるし……」
「……っ!」
「会社で……って、興奮する」

 耳を舐めて流そうとするけれど、抵抗の力はなくならない。濱口は焦ったように言葉を紡いだ。

「すぐ済ますからさ……礼人さんも気持ちよくなって……?」
「済ます……って……! オレはてめえの……っ」

 性欲処理じゃねえっつーの! と奥村の頭が、ガンッと迫ってきた。ひどい頭突きをされたと気づいたがもう遅い。かなりのダメージを受けた濱口は額をおさえ、うううう、と呻いて奥村の方を情けない目で見つめた。奥村は、シャツとネクタイをなおすと、ふいっと視線を逸らす。

「ここでは、そんなことしたくない」
「でも、オレ……」
「仕事場なんだ。わきまえろ! バカ!」

 濱口を怒鳴りつけた奥村は、応接室を出るとすぐデスクに戻り、資料と荷物を持って会社を出ていった。濱口はその背中を見つめて見送っていたが、へたへたとそこに座り込む。

(……やっちまった……)

 後悔先に立たずとは正にこのことだ。しばらく会えないのに、どうやって謝ろう、そう思ったら泣きそうだった。
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