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5:年下カレシの躾け方(※)
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濱口はおもしろくなかった。昼ご飯を奥村の部で食べようと持ってきたら、まだ仕事中だから、と視線で制されて、すごすごと一人昼食場所にしているミーティングスペースに入る。ちらちらと向こうの様子を窺う。
奥村の席の前ではマルコが呼ばれ、静かに指導されていた。淡々と何度言ってもわからないのか、多少いらついた声で奥村が話をしているのがわかる。マルコは先月ここに配属されたのだが、どうにも日本での仕事に慣れないらしい。奥村がたまに直接ついて面倒をみているようだが、なかなか手がかかるのか、濱口との約束もキャンセルされることが多かった。
「わかった。もう今日は時間ねえから、仕事終わったら待ってろ。飯食いながら話そう」
「えー、オレ、今日は予定がありましてぇ……!」
「ふざけんな」
視線で黙らせたのか、そこで会話は途切れた。濱口は先に弁当を拡げながら、今日もダメなんだ……とため息をつく。
(はあ……マルコいいなあ。オレには会ってくれないのに……! 仕事だってわかってるけど……)
ちょっと不満でもやもやを抱えていると、奥村がミーティングスペースにきて、はあ……と溜息をつきながら椅子に座った。濱口が用意してくれた弁当を見て、飯くおう……と独り言のようにぶつぶつ言う。
「奥村さん、マルコにかまいすぎじゃないですか?」
「あ? んなことねーだろ」
「最近、弁当も一緒に食えないし」
「お前の外回りが増えてるから」
「オレのせいなの!?」
「うるさい」
羽間さんに頼まれてるんだ。あいつの面倒はオレが見なきゃ……、と奥村は頭を抱えたままだ。奥村は羽間からの頼みに弱い。奥村は芳樹を昔からの交流で心酔しているところがあるのだが、その教育係である羽間に至っては「神」のように思っている節がある。
体育会系とは縁がなさそうな見た目なのに、上下関係には非常に弱いのを濱口はしっていた。自分はそれを部下に強要しないが、義理と人情を重んじるその様は、ひと昔前の任侠のようだなとさえ思ったりもする。
しかし、思った以上にマルコに手がかかっているらしく、さすがの奥村にも疲れが見えていた。
「はあ……もう、本当に使えない。今日もあいつの面倒見てから、明日に自分の仕事まわすか……明日も遅くなるな……」
独り言に濱口は沈黙したままだ。とりたてて会話もないまま、奥村が弁当を食べていく。明日も無理なんだ、とわかるし、ここ最近などそんなことばかりだけれど、凹んでしまって、箸がいつもほどすすまない。しかし、奥村は時間がおしいのか、がつがつと食べ、すぐにそれを閉じた。
「弁当うまかったよ。ごちそうさま」
「ねえ、今日、家行っていいスか……?」
「……無理。マルコみてやんなきゃなんねえし、遅いから」
じゃあな、と、立ち上がっていってしまう奥村の背中を見ながら、濱口はしょげつつも箸先を口に運んだ。
(うらやましいな。オレもやっぱ礼人さんの下につきたいけど、さすがに問題あるか。職場恋愛中だし)
奥村の悩みの種なのだろうが、一緒にいれるマルコが羨ましくて少しねたましい。仕事が忙しくて会えないのも寂しいけれど、奥村のストレスもたまっていそうで。
こういう時、年下の恋人って頼りねえのかな……なんて思うし、自分だってゆっくり会いたいなあ……なんてワガママみたく思ってもしまう。はあ、とミーティングテーブルに突っ伏した。
奥村の席の前ではマルコが呼ばれ、静かに指導されていた。淡々と何度言ってもわからないのか、多少いらついた声で奥村が話をしているのがわかる。マルコは先月ここに配属されたのだが、どうにも日本での仕事に慣れないらしい。奥村がたまに直接ついて面倒をみているようだが、なかなか手がかかるのか、濱口との約束もキャンセルされることが多かった。
「わかった。もう今日は時間ねえから、仕事終わったら待ってろ。飯食いながら話そう」
「えー、オレ、今日は予定がありましてぇ……!」
「ふざけんな」
視線で黙らせたのか、そこで会話は途切れた。濱口は先に弁当を拡げながら、今日もダメなんだ……とため息をつく。
(はあ……マルコいいなあ。オレには会ってくれないのに……! 仕事だってわかってるけど……)
ちょっと不満でもやもやを抱えていると、奥村がミーティングスペースにきて、はあ……と溜息をつきながら椅子に座った。濱口が用意してくれた弁当を見て、飯くおう……と独り言のようにぶつぶつ言う。
「奥村さん、マルコにかまいすぎじゃないですか?」
「あ? んなことねーだろ」
「最近、弁当も一緒に食えないし」
「お前の外回りが増えてるから」
「オレのせいなの!?」
「うるさい」
羽間さんに頼まれてるんだ。あいつの面倒はオレが見なきゃ……、と奥村は頭を抱えたままだ。奥村は羽間からの頼みに弱い。奥村は芳樹を昔からの交流で心酔しているところがあるのだが、その教育係である羽間に至っては「神」のように思っている節がある。
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しかし、思った以上にマルコに手がかかっているらしく、さすがの奥村にも疲れが見えていた。
「はあ……もう、本当に使えない。今日もあいつの面倒見てから、明日に自分の仕事まわすか……明日も遅くなるな……」
独り言に濱口は沈黙したままだ。とりたてて会話もないまま、奥村が弁当を食べていく。明日も無理なんだ、とわかるし、ここ最近などそんなことばかりだけれど、凹んでしまって、箸がいつもほどすすまない。しかし、奥村は時間がおしいのか、がつがつと食べ、すぐにそれを閉じた。
「弁当うまかったよ。ごちそうさま」
「ねえ、今日、家行っていいスか……?」
「……無理。マルコみてやんなきゃなんねえし、遅いから」
じゃあな、と、立ち上がっていってしまう奥村の背中を見ながら、濱口はしょげつつも箸先を口に運んだ。
(うらやましいな。オレもやっぱ礼人さんの下につきたいけど、さすがに問題あるか。職場恋愛中だし)
奥村の悩みの種なのだろうが、一緒にいれるマルコが羨ましくて少しねたましい。仕事が忙しくて会えないのも寂しいけれど、奥村のストレスもたまっていそうで。
こういう時、年下の恋人って頼りねえのかな……なんて思うし、自分だってゆっくり会いたいなあ……なんてワガママみたく思ってもしまう。はあ、とミーティングテーブルに突っ伏した。
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