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4:年上上司の暴き方(※)
(1)
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「え? なんすか」
「いや、だから、前に言ってた飲み会、この日でどうかなって」
「前って……」
だいぶあいたけど三ヶ月前にさー、と言う言葉で濱口は思いだした。しかし、それですぐに断りの文句を見つける。
「あ、その日、無理なんすよね……それに」
そう含ませて言いよどみ、濱口は少し考えた後に先輩にこう答えた。
オレ、恋人できたんで、いけないんですよ、と。
相手はやっぱりなという反応で「じゃあいいわ」と言って、デスク側から去っていった。
濱口猛には恋人がいる。それはとても近かった人だった。そう、直属の上司との社内恋愛だったのだ。遠い想いが身を結び。彼と気持ちを確かめあったのは最近である。恋人というにはまだ日が浅いが、それなりのことはしている。
(まだ最後までできてないけど)
そう思うと悲しいが、ちゃんと気持ちは確かめあっているし、それはそれで十分。
今日も会社であえるかなーなんて。秘密にしているのに、毎日ちょっとそんなことを思うのがうれしい。浮かれている。たぶん、周りにもわかっているとわかってやっている。もともと毎日明るい濱口だが、最近はそれに磨きが掛かりすぎなのだ。さすがに相手までばれるとまずいので、恋人ができたから、と公言だけしておいた。
(今くらい浮かれてもいいよなー)
そんなことを思い、濱口はその恋人の顔をおもいうかべては口元をゆるめた。
今日は久しぶりに一緒にご飯を食べにいける。先週まで彼が海外にいたので、それに寂しがったら、ちゃんと設定してくれた。それがすごくうれしくて、今日こそ、とも思う。
まだ最後までできてないし、それはそれで仕方がないのだけれど、そろそろ頑張っていこう、とも思ったりする。男の沽券にかけて。今日はなんとかして部屋にはいりたいな、なんて思っては書類で口元をおさえた。まあ、目がにやけているのであまり意味がないのだけれど。
*
恋人の部屋にある広いソファーで濱口は完全に浮かれてしまっていた。こんなにうまくいっていいんだろうか。奥村が誘ってくれた店は、彼好みのとてもいいお店だったし、個室で少しゆっくり話せてうれしくて、そして、部屋へのお誘いも向こうからあって。ソファーの上で、もはや濱口専用となりつつあるクッションを抱きしめながら、隣の彼のことをうかがう。
ゆっくりとコーヒーを飲んでいる彼の顔は会社とは少し違う。最近はみないが、彼が上司だった頃は、ずいぶんと苦そうな顔で飲んでいたものだ。どこかほっとしている表情に濱口はうれしく思うと、そっと体を近づけた。
「礼人さん」
「なに……んっ……?」
唇を吸うと、奥村は少し驚いたようだったが、すぐにそれにこたえる。それが濱口にはうれしくてたまらない。久しぶりにゆっくりと口づけで、ああ、幸せだなと頬がゆるんだ。へへ、と笑いそうになるのをおさえて、ぎゅうっと恋人を抱きしめる。そして、礼人さん……と甘えた声を出した。
「なあ……一緒にお風呂はいろ?」
「っ! いやだ!」
「え……」
即答の拒否に濱口はがんっと頭を殴られたような衝撃を受けつつ、しゅんっと頭を下げる。
「えー、だめ?」
「だめだ」
イヤだ、とそっぽを向く奥村の耳が赤い。濱口は照れてかわいいの、と思いつつも、そうかあ……とあきらめ、奥村の肩を抱いた。
「じゃあ、シャワー……」
「何が違うんだ、それ」
ふざけるな、と赤い目尻でにらまれるので、ますますどうにかしたくなるが、とりあえず、そんなことはかなわない。濱口は、今日はうまくいくと思ったのになあ、と野望をあきらめつつ、先に入っていい? とシャワールームに向かった。さっとシャワーを浴びてさっぱりする。今日はできるかなーなんて思っているのは多分確実にばれていて、本人だってその気のはずだ。
(ちゃんと、最後までしたいなー……だから、お風呂から洗ってあげたかったんだけど……)
礼人さんの中でちゃんと、と思うと興奮するが、あんまり無理はできないし、嫌がられたらやだな、とちゃんと試したりもしてなかった。そういう意味では進展がない。別に、このままでもいいんだけれど。
(でも、したいし……ほら、後ろってはまるっつーしさあ……礼人さんをオレにおぼれさせたいっていうか!!)
……こういうところが子供なのか、と濱口はため息をつきながらバスルームからでると、前の鏡で自分の顔を見た。
(オレ、男だもんな……)
礼人さん、別に男が好きなわけじゃないみたいだし、飽きられたりするの、やだな……と考えが少し後ろ向きになる。実は自分でも気づかないうちに焦っていたのかも知れない。濱口はため息をついた。
(そりゃ、一緒に住みたいとかいえないしなー仕事場一緒でもぜんぜん会えないのに、もしどっか一瞬の隙で誰かにもってかれたら、とか……考えるだろ。礼人さん、すごい美人だしなぁ。ライバルは女だけじゃないしさ)
あーなさけねーなー! と濱口は頭をがしがしかき、鏡を見つめて、ぱんっと自分の頬を手で挟んだ。その感触で、あー髭ちょっとのびてるかも……と顎に手をすべらせる。
(お泊まり用に、カミソリとか歯ブラシとかおかしてほしいかも……いつもコンビニで適当なの買っては捨ててるし)
この辺とか? ときれいに整頓された洗面台の収納をあけていく。周りから見えないのにいろんな物がきっちりと、「そこが定位置」といわんばかりに整理されていて、濱口は、オレが場所を乱したら怒りそう……と苦く笑った。
そうか、礼人さんの髪の毛だとドライヤーいるもんな、乾かしてあげたい……などと連想ゲームでそこをみていると、奥の隙間にあまりみたことのないものが隠されるようにおかれていた。
(なんだぁ、これ?)
気づいてしまった興味から、何の気なしにそれを手に取る。そして、濱口はその物の正体に気づいて動揺した。
(え……これって……)
どう考えてもふつうのマッサージ器具じゃない。形が、確実に卑猥なものだ。
(え、エネマグラ……とか、いう……?)
実物を見たのは初めてで、濱口はごくりと息を飲んだ。
「いや、だから、前に言ってた飲み会、この日でどうかなって」
「前って……」
だいぶあいたけど三ヶ月前にさー、と言う言葉で濱口は思いだした。しかし、それですぐに断りの文句を見つける。
「あ、その日、無理なんすよね……それに」
そう含ませて言いよどみ、濱口は少し考えた後に先輩にこう答えた。
オレ、恋人できたんで、いけないんですよ、と。
相手はやっぱりなという反応で「じゃあいいわ」と言って、デスク側から去っていった。
濱口猛には恋人がいる。それはとても近かった人だった。そう、直属の上司との社内恋愛だったのだ。遠い想いが身を結び。彼と気持ちを確かめあったのは最近である。恋人というにはまだ日が浅いが、それなりのことはしている。
(まだ最後までできてないけど)
そう思うと悲しいが、ちゃんと気持ちは確かめあっているし、それはそれで十分。
今日も会社であえるかなーなんて。秘密にしているのに、毎日ちょっとそんなことを思うのがうれしい。浮かれている。たぶん、周りにもわかっているとわかってやっている。もともと毎日明るい濱口だが、最近はそれに磨きが掛かりすぎなのだ。さすがに相手までばれるとまずいので、恋人ができたから、と公言だけしておいた。
(今くらい浮かれてもいいよなー)
そんなことを思い、濱口はその恋人の顔をおもいうかべては口元をゆるめた。
今日は久しぶりに一緒にご飯を食べにいける。先週まで彼が海外にいたので、それに寂しがったら、ちゃんと設定してくれた。それがすごくうれしくて、今日こそ、とも思う。
まだ最後までできてないし、それはそれで仕方がないのだけれど、そろそろ頑張っていこう、とも思ったりする。男の沽券にかけて。今日はなんとかして部屋にはいりたいな、なんて思っては書類で口元をおさえた。まあ、目がにやけているのであまり意味がないのだけれど。
*
恋人の部屋にある広いソファーで濱口は完全に浮かれてしまっていた。こんなにうまくいっていいんだろうか。奥村が誘ってくれた店は、彼好みのとてもいいお店だったし、個室で少しゆっくり話せてうれしくて、そして、部屋へのお誘いも向こうからあって。ソファーの上で、もはや濱口専用となりつつあるクッションを抱きしめながら、隣の彼のことをうかがう。
ゆっくりとコーヒーを飲んでいる彼の顔は会社とは少し違う。最近はみないが、彼が上司だった頃は、ずいぶんと苦そうな顔で飲んでいたものだ。どこかほっとしている表情に濱口はうれしく思うと、そっと体を近づけた。
「礼人さん」
「なに……んっ……?」
唇を吸うと、奥村は少し驚いたようだったが、すぐにそれにこたえる。それが濱口にはうれしくてたまらない。久しぶりにゆっくりと口づけで、ああ、幸せだなと頬がゆるんだ。へへ、と笑いそうになるのをおさえて、ぎゅうっと恋人を抱きしめる。そして、礼人さん……と甘えた声を出した。
「なあ……一緒にお風呂はいろ?」
「っ! いやだ!」
「え……」
即答の拒否に濱口はがんっと頭を殴られたような衝撃を受けつつ、しゅんっと頭を下げる。
「えー、だめ?」
「だめだ」
イヤだ、とそっぽを向く奥村の耳が赤い。濱口は照れてかわいいの、と思いつつも、そうかあ……とあきらめ、奥村の肩を抱いた。
「じゃあ、シャワー……」
「何が違うんだ、それ」
ふざけるな、と赤い目尻でにらまれるので、ますますどうにかしたくなるが、とりあえず、そんなことはかなわない。濱口は、今日はうまくいくと思ったのになあ、と野望をあきらめつつ、先に入っていい? とシャワールームに向かった。さっとシャワーを浴びてさっぱりする。今日はできるかなーなんて思っているのは多分確実にばれていて、本人だってその気のはずだ。
(ちゃんと、最後までしたいなー……だから、お風呂から洗ってあげたかったんだけど……)
礼人さんの中でちゃんと、と思うと興奮するが、あんまり無理はできないし、嫌がられたらやだな、とちゃんと試したりもしてなかった。そういう意味では進展がない。別に、このままでもいいんだけれど。
(でも、したいし……ほら、後ろってはまるっつーしさあ……礼人さんをオレにおぼれさせたいっていうか!!)
……こういうところが子供なのか、と濱口はため息をつきながらバスルームからでると、前の鏡で自分の顔を見た。
(オレ、男だもんな……)
礼人さん、別に男が好きなわけじゃないみたいだし、飽きられたりするの、やだな……と考えが少し後ろ向きになる。実は自分でも気づかないうちに焦っていたのかも知れない。濱口はため息をついた。
(そりゃ、一緒に住みたいとかいえないしなー仕事場一緒でもぜんぜん会えないのに、もしどっか一瞬の隙で誰かにもってかれたら、とか……考えるだろ。礼人さん、すごい美人だしなぁ。ライバルは女だけじゃないしさ)
あーなさけねーなー! と濱口は頭をがしがしかき、鏡を見つめて、ぱんっと自分の頬を手で挟んだ。その感触で、あー髭ちょっとのびてるかも……と顎に手をすべらせる。
(お泊まり用に、カミソリとか歯ブラシとかおかしてほしいかも……いつもコンビニで適当なの買っては捨ててるし)
この辺とか? ときれいに整頓された洗面台の収納をあけていく。周りから見えないのにいろんな物がきっちりと、「そこが定位置」といわんばかりに整理されていて、濱口は、オレが場所を乱したら怒りそう……と苦く笑った。
そうか、礼人さんの髪の毛だとドライヤーいるもんな、乾かしてあげたい……などと連想ゲームでそこをみていると、奥の隙間にあまりみたことのないものが隠されるようにおかれていた。
(なんだぁ、これ?)
気づいてしまった興味から、何の気なしにそれを手に取る。そして、濱口はその物の正体に気づいて動揺した。
(え……これって……)
どう考えてもふつうのマッサージ器具じゃない。形が、確実に卑猥なものだ。
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