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3:年上上司の愛し方(※)
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「礼人さん」
「……」
ふいっと顔を逆方向にそらされ、濱口は自分の熱がすうっと冷たくなり、もうキレた、という心の声が自身の中で渦巻くのがわかる。
「礼人さん、いくらオレでも、怒ることくらいあるんだぜ? 今のはないと思う。嘘つかれて、暗に行きたくないって拗ねられて、違うって言ってんのに、どうでもいいような言い方されて……!」
濱口が一息ついても、奥村は黙ったまま、目線を逸らしたままだった。きゅっと抱えたクッションをもつ手に少し力が入っているようにも思う。しかし、その数秒の沈黙で濱口がぶちんっとキレた。なんでもオレに言わせなきゃだめなのかよ! と、いらいらする。
「っ! なんとか言えよ! 女と温泉行っていいのかよ! ふつーに向こうでヤってきても、礼人さん、なんともねーのかよ! そういうこと考えてて、オレにそんな風にいってんだろ! 仕事とか嘘じゃねえか! 芳樹くん、家族でフランスに行ってるのわかってんのに……っ! 嘘ついてまでオレといたくねえのかって思うに決まってんじゃん!」
「……」
奥村はクッションに顔くっつけていて、濱口の方は見ない。眉間に皺がよっているのはわかるが、それ以外は何もわからない。何も言わないし、機嫌悪くて。いらいらして、濱口は、もういい、と大きなため息をついた。
「……帰る。オレ、帰ります。礼人さんのことわかんねえよ、もう……。もう、ここにも来ません」
荷物をもって帰ろうとした時に、後ろから小さく震える声がきこえてきた。
「……ってに、しろ……っ」
え……? と思って振り返ると、クッションに口元おしつけて、顔を真っ赤にした奥村が見えた。少し目元が潤んでいるんじゃないかというくらい真っ赤で、ぶるぶると握りしめた拳が震えている。
(嘘……!)
「あ、あやと、さ……」
「……っ」
奥村はクッションにぎゅうっと鼻先まで押し付け、子供のように顔が真っ赤なのを隠そうとしている。うわあ! と濱口はさっき言ったことはなんだったのか、混乱から声がでなくなった。
(そうだよ……オレ何開き直ってんだ!? 礼人さん素直じゃねえからむかついてたけど、オレがバカなんじゃねえか!)
慌てて奥村の元へ駆け寄ると、奥村はそれにも驚いて、体を強ばらせた。濱口は、ごめんっ! と、奥村の傍でわたわたと取り繕うように言葉を漏らす。
「礼人さん……ごめん、イヤなこと言った! オレ、よくわかってなかった! ごめんな?」
「……っ、好きに……すりゃ……」
「ごめん……って……イヤだよな。ごめん。オレ……イヤって言ってほしくて……」
意地張ってて、と濱口は言うと、黙って、そっと見つめてくる奥村の瞳を見つめる。眼鏡の奥が潤んでいて、ごくり、と喉の奥をおしさげた。
「礼人さん……」
ちゅ、と頬に口付けると、奥村はびくりと震え、濱口の方を戸惑いつつもまた見つめてくる。濱口は、幼い表情を見せている彼に、ごめんなさい、ともう一度謝った。
「本当に何もしないから! 彼女とは本当に何もなくて、もう絶対メールも電話もしないし、オレ、礼人さんのことだけしか見てないから……!」
やっぱりまだ一緒に居たいんだけど、と濱口が言うと、奥村はしばらく黙り込み、震える唇を戸惑わせ、ぼそぼそと話し出す。
「……ヤ……だ……った」
「ッ!」
「店で……すげえ、ヤで、でも、み……っとも……ねえし……っ! 言える、わけ……ねー……オレ、お前よりいくつ年上だと思ってんだ! だせえだろ! みんなの前で不機嫌にならなかっただけ大人と思えよ!!」
いきなりまくしたてられた言葉に驚いたが、いや、そんなこと気にしてたの!? と濱口は唖然とした。そして、慌ててその場を取り繕う。
「ごめ……ごめんな?」
「仕事で……会えねえの……、オレ……だって、オレだって……」
不安なことぐらい……、と見つめてくる眼鏡の奥で瞳が潤んでいて。きゅうっと胸がいたんだ。恐る恐る唇を近づけ、鼻先を吸うと、奥村は少し顔をあげ、すっと目を閉じた。触れ合う唇が震える。ちゅうっと吸う久しぶりの感触を味わうと、ゆっくりと舌を差し入れる。
「ん……っぅ」
「……んっ……」
「あや……とさ……っ」
「んっ……んっ!」
キスが激しくなってきて、息があがる。奥村の眼鏡を外し、互いの頬から首に手をかけ、貪るようなキスをした。こんな風に激しく息を求め合うのは珍しいと思う。ソファーの上で抱き合うと、濱口はいつも仮眠をする時のようにソファーのリクライニングを倒し、それの幅を広げ、奥村の体を抱きしめてそこにゆっくりと倒して行く。背中を触り合うように抱き合って、乱れたジャケットは急くように床に落とした。
「……」
ふいっと顔を逆方向にそらされ、濱口は自分の熱がすうっと冷たくなり、もうキレた、という心の声が自身の中で渦巻くのがわかる。
「礼人さん、いくらオレでも、怒ることくらいあるんだぜ? 今のはないと思う。嘘つかれて、暗に行きたくないって拗ねられて、違うって言ってんのに、どうでもいいような言い方されて……!」
濱口が一息ついても、奥村は黙ったまま、目線を逸らしたままだった。きゅっと抱えたクッションをもつ手に少し力が入っているようにも思う。しかし、その数秒の沈黙で濱口がぶちんっとキレた。なんでもオレに言わせなきゃだめなのかよ! と、いらいらする。
「っ! なんとか言えよ! 女と温泉行っていいのかよ! ふつーに向こうでヤってきても、礼人さん、なんともねーのかよ! そういうこと考えてて、オレにそんな風にいってんだろ! 仕事とか嘘じゃねえか! 芳樹くん、家族でフランスに行ってるのわかってんのに……っ! 嘘ついてまでオレといたくねえのかって思うに決まってんじゃん!」
「……」
奥村はクッションに顔くっつけていて、濱口の方は見ない。眉間に皺がよっているのはわかるが、それ以外は何もわからない。何も言わないし、機嫌悪くて。いらいらして、濱口は、もういい、と大きなため息をついた。
「……帰る。オレ、帰ります。礼人さんのことわかんねえよ、もう……。もう、ここにも来ません」
荷物をもって帰ろうとした時に、後ろから小さく震える声がきこえてきた。
「……ってに、しろ……っ」
え……? と思って振り返ると、クッションに口元おしつけて、顔を真っ赤にした奥村が見えた。少し目元が潤んでいるんじゃないかというくらい真っ赤で、ぶるぶると握りしめた拳が震えている。
(嘘……!)
「あ、あやと、さ……」
「……っ」
奥村はクッションにぎゅうっと鼻先まで押し付け、子供のように顔が真っ赤なのを隠そうとしている。うわあ! と濱口はさっき言ったことはなんだったのか、混乱から声がでなくなった。
(そうだよ……オレ何開き直ってんだ!? 礼人さん素直じゃねえからむかついてたけど、オレがバカなんじゃねえか!)
慌てて奥村の元へ駆け寄ると、奥村はそれにも驚いて、体を強ばらせた。濱口は、ごめんっ! と、奥村の傍でわたわたと取り繕うように言葉を漏らす。
「礼人さん……ごめん、イヤなこと言った! オレ、よくわかってなかった! ごめんな?」
「……っ、好きに……すりゃ……」
「ごめん……って……イヤだよな。ごめん。オレ……イヤって言ってほしくて……」
意地張ってて、と濱口は言うと、黙って、そっと見つめてくる奥村の瞳を見つめる。眼鏡の奥が潤んでいて、ごくり、と喉の奥をおしさげた。
「礼人さん……」
ちゅ、と頬に口付けると、奥村はびくりと震え、濱口の方を戸惑いつつもまた見つめてくる。濱口は、幼い表情を見せている彼に、ごめんなさい、ともう一度謝った。
「本当に何もしないから! 彼女とは本当に何もなくて、もう絶対メールも電話もしないし、オレ、礼人さんのことだけしか見てないから……!」
やっぱりまだ一緒に居たいんだけど、と濱口が言うと、奥村はしばらく黙り込み、震える唇を戸惑わせ、ぼそぼそと話し出す。
「……ヤ……だ……った」
「ッ!」
「店で……すげえ、ヤで、でも、み……っとも……ねえし……っ! 言える、わけ……ねー……オレ、お前よりいくつ年上だと思ってんだ! だせえだろ! みんなの前で不機嫌にならなかっただけ大人と思えよ!!」
いきなりまくしたてられた言葉に驚いたが、いや、そんなこと気にしてたの!? と濱口は唖然とした。そして、慌ててその場を取り繕う。
「ごめ……ごめんな?」
「仕事で……会えねえの……、オレ……だって、オレだって……」
不安なことぐらい……、と見つめてくる眼鏡の奥で瞳が潤んでいて。きゅうっと胸がいたんだ。恐る恐る唇を近づけ、鼻先を吸うと、奥村は少し顔をあげ、すっと目を閉じた。触れ合う唇が震える。ちゅうっと吸う久しぶりの感触を味わうと、ゆっくりと舌を差し入れる。
「ん……っぅ」
「……んっ……」
「あや……とさ……っ」
「んっ……んっ!」
キスが激しくなってきて、息があがる。奥村の眼鏡を外し、互いの頬から首に手をかけ、貪るようなキスをした。こんな風に激しく息を求め合うのは珍しいと思う。ソファーの上で抱き合うと、濱口はいつも仮眠をする時のようにソファーのリクライニングを倒し、それの幅を広げ、奥村の体を抱きしめてそこにゆっくりと倒して行く。背中を触り合うように抱き合って、乱れたジャケットは急くように床に落とした。
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