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3:年上上司の愛し方(※)
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「奥村室長~きいてくださいよー濱口をこの前コンパに連れてったら、女子全員もっていきやがったんですよ!」
酔っぱらいにいきなりばらされた事実に、濱口は思わず飲んでいた水割りをふき出しそうになった。
「な、何言って……っ」
「当日、むこうが一人増えたっていうから、濱口誘ったのに、こいつが全部もっていって。ずるくないっすか?」
絡んでくる先輩の顔は相当赤い。だいぶ酔っているんだろう。けれど、この場でこの話は……と濱口は頭の中で、なんとかしなくては!と大混乱していた。
「い、いや、別に持っていってないですって……」
「そんなこといって、あの美人CAからメールきたんだろぉ!!」
「いや、あの……」
今、その話題はまずいって……! と濱口はなんとかおさめようとする。
斜め向かいに座っている「奥村室長」の顔は見れないままだった。元部署でいつのまにか奥村との飲み会が企画されており、知らない間に決まったそれに連れて行かれた。奥村が部署で飲むことなどほとんどなかったので、元部下達のテンションも高いのは仕方がないとして、ハイペースで飲んでしまうのは金曜日の夜という聖なる時間だからなのも影響しているだろう。
奥村は、濱口がどきどきしている話題にも平然としている。それがどうかしたか、という反応だ。それが目に入った瞬間、濱口は、ずきんと胸の奥がいたんだ。自分のことなどどうでもいいと思われているようで悔しさよりも痛みが胸を刺す。
「コンパとかすんのか。知らなかった。お前ら若いな」
「いや、奥村部長、いや、室長なんかきちゃったら、全員とられるんで呼べないですけどねっ!」
「当たり前だろ。勝負になんねえな」
「うわー……顔いい男はこれだから……だから濱口も誘いたくなかったんですけど」
「なんなんすか、それ……」
話題が早く変わらないかなという焦りで、心臓の音がばくばくしているのに、先輩は無遠慮にその話を続けてくる。女の子からメールや電話がきたのは事実だけれど、一応まだ「恋人」のはずの奥村の前でそんなことを言わなくてはいけないなんて、拷問にも程がある。しかし、当の奥村は全然平気そうな顔をしていて、話半分にきいている感じだ。
(なんだよ……! 余裕ぶって……っ)
いらいらしているのもあって、残っている酒を一気に減らした。かっと頬が熱くなるのはそのせいだと思いながら。
「ってか、お前、ほんとにどの子選んだの……?」
「選んでないですって!」
「お前、彼女いないっつってたじゃん」
「っ!!」
だから、ここでその話題は……! と、本当にどんどんまずい方向に行く話に濱口は頭を抱えたかった。
(か、のじょじゃねえし……っ! 彼氏だし、でも、もう……礼人さんはオレのことなんか……)
しょんぼりしているうちに、もう一杯同じ酒を頼んで、濱口は奥村の方を窺う。奥村はいたって普通に……ちびちびと酒をのんで、続けられる話題に顔色一つ変えずに応えているように思えた。
「あの子、すげえ美人だったなー! いいなあ、濱口はさぁ」
「へえ、そんなキレイな子だったのか」
「ええ、もう、女優さんかってくらい。やっぱりキャビンアテンダントって美意識高いっすねー。話も面白くて綺麗で素敵な人でしたよ!」
「ふーん」
「興味なさそうすぎますよ……奥村部長、あ、室長」
「あるある。美人は好きだからな」
「嘘だー奥村室長は基準が高そうだからなあ……」
「そんなことねえよ」
ははっ、と奥村に対しての雰囲気が和らいだところで、仕事の話に話題がようやくずれてくれた。濱口はほっとしつつも、運ばれてきた酒に口をつけて、複雑だな……と、胸の奥の痛みに耐える。
(なん……だよ。くそ、すげえ複雑)
オレがそういうとこ行ってもいいの、そりゃ、知られたの微妙だけど! と、色々と考え込んでしまう。
(オレだって礼人さんがかまってくれないと、そっちいっちゃうかもしんねえのに。なんだよ! すっげえ余裕じゃん……)
むかむかしてくる胸のいらつきに、テーブルの下で拳を握りしめてしまった。今日は飲み会前に奥村がいると知って、送っていって一緒に居てもいい? というメールを送っていて、一応了解をもらっていて。今夜こそ仲直りするんだって意気込んでいたのに、飲み会の途中でこんなことになるなんて。
はあ、と濱口は大きなため息を一回飲み込むと、周りに気付かれないように気合をいれて笑顔をつくり、今メインになっている話の輪に入っていった。
「奥村室長~きいてくださいよー濱口をこの前コンパに連れてったら、女子全員もっていきやがったんですよ!」
酔っぱらいにいきなりばらされた事実に、濱口は思わず飲んでいた水割りをふき出しそうになった。
「な、何言って……っ」
「当日、むこうが一人増えたっていうから、濱口誘ったのに、こいつが全部もっていって。ずるくないっすか?」
絡んでくる先輩の顔は相当赤い。だいぶ酔っているんだろう。けれど、この場でこの話は……と濱口は頭の中で、なんとかしなくては!と大混乱していた。
「い、いや、別に持っていってないですって……」
「そんなこといって、あの美人CAからメールきたんだろぉ!!」
「いや、あの……」
今、その話題はまずいって……! と濱口はなんとかおさめようとする。
斜め向かいに座っている「奥村室長」の顔は見れないままだった。元部署でいつのまにか奥村との飲み会が企画されており、知らない間に決まったそれに連れて行かれた。奥村が部署で飲むことなどほとんどなかったので、元部下達のテンションも高いのは仕方がないとして、ハイペースで飲んでしまうのは金曜日の夜という聖なる時間だからなのも影響しているだろう。
奥村は、濱口がどきどきしている話題にも平然としている。それがどうかしたか、という反応だ。それが目に入った瞬間、濱口は、ずきんと胸の奥がいたんだ。自分のことなどどうでもいいと思われているようで悔しさよりも痛みが胸を刺す。
「コンパとかすんのか。知らなかった。お前ら若いな」
「いや、奥村部長、いや、室長なんかきちゃったら、全員とられるんで呼べないですけどねっ!」
「当たり前だろ。勝負になんねえな」
「うわー……顔いい男はこれだから……だから濱口も誘いたくなかったんですけど」
「なんなんすか、それ……」
話題が早く変わらないかなという焦りで、心臓の音がばくばくしているのに、先輩は無遠慮にその話を続けてくる。女の子からメールや電話がきたのは事実だけれど、一応まだ「恋人」のはずの奥村の前でそんなことを言わなくてはいけないなんて、拷問にも程がある。しかし、当の奥村は全然平気そうな顔をしていて、話半分にきいている感じだ。
(なんだよ……! 余裕ぶって……っ)
いらいらしているのもあって、残っている酒を一気に減らした。かっと頬が熱くなるのはそのせいだと思いながら。
「ってか、お前、ほんとにどの子選んだの……?」
「選んでないですって!」
「お前、彼女いないっつってたじゃん」
「っ!!」
だから、ここでその話題は……! と、本当にどんどんまずい方向に行く話に濱口は頭を抱えたかった。
(か、のじょじゃねえし……っ! 彼氏だし、でも、もう……礼人さんはオレのことなんか……)
しょんぼりしているうちに、もう一杯同じ酒を頼んで、濱口は奥村の方を窺う。奥村はいたって普通に……ちびちびと酒をのんで、続けられる話題に顔色一つ変えずに応えているように思えた。
「あの子、すげえ美人だったなー! いいなあ、濱口はさぁ」
「へえ、そんなキレイな子だったのか」
「ええ、もう、女優さんかってくらい。やっぱりキャビンアテンダントって美意識高いっすねー。話も面白くて綺麗で素敵な人でしたよ!」
「ふーん」
「興味なさそうすぎますよ……奥村部長、あ、室長」
「あるある。美人は好きだからな」
「嘘だー奥村室長は基準が高そうだからなあ……」
「そんなことねえよ」
ははっ、と奥村に対しての雰囲気が和らいだところで、仕事の話に話題がようやくずれてくれた。濱口はほっとしつつも、運ばれてきた酒に口をつけて、複雑だな……と、胸の奥の痛みに耐える。
(なん……だよ。くそ、すげえ複雑)
オレがそういうとこ行ってもいいの、そりゃ、知られたの微妙だけど! と、色々と考え込んでしまう。
(オレだって礼人さんがかまってくれないと、そっちいっちゃうかもしんねえのに。なんだよ! すっげえ余裕じゃん……)
むかむかしてくる胸のいらつきに、テーブルの下で拳を握りしめてしまった。今日は飲み会前に奥村がいると知って、送っていって一緒に居てもいい? というメールを送っていて、一応了解をもらっていて。今夜こそ仲直りするんだって意気込んでいたのに、飲み会の途中でこんなことになるなんて。
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