【R18】年上上司のオトシ方

二久アカミ

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3:年上上司の愛し方(※)

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 会議室の端で、濱口は珍しく怒っていた。会議室には濱口と奥村の二人しかいない。昼前に奥村が送ってきたメールに驚いて、濱口が会議帰りの奥村を捕まえ、空き会議室で話をしたいと言ったのだ。

「なんでなんだよ?」
「仕事だってわかってんだろ。予定が無理になっただけじゃねえか」
「だって! 出張行き違いで、三週間もゆっくり会えてなくて」
「仕事場で会ってるだろ、こうやって」
「会ううちに入らないでしょ……そんなの! オレ、そういうこと言ってんじゃないんすよ!」

 今日は金曜日の夜、一緒に御飯食べてお泊まりのはずだった。
 奥村が雑誌でここ行ってみたいと言っていたところを予約までしていたのに。今朝になってのドタキャンに、事情が仕事だとわかっていても文句を言いたくなったのだ。それには積もり積もった理由だってある。

「部屋行って、待ってますし」
「疲れてるから相手できねえよ」
「飯作っておくから……! 待ってます! 一緒に過ごしたいんですって」
「濱口」

 聞き分けろよ、子供か、と奥村がいらついて睨んでくる。濱口は思わず黙り込んで、なんだよ! とむかつきにぐしゃぐしゃにされた気分だった。

(何それ、だって、この前だって、礼人さんずっと寝てて、オレ家事しただけで……っ……! 出張で会えなくて、今日、すげえ楽しみにしてたのに!)

 困った顔の奥村は、本当に、もういいだろう、と言わんばかりで時計を気にし始めている。それも気に入らない。濱口は、なんなんだよ!と怒鳴りつけたいのを抑えて、息をひとつ大きく吸い込んだ。

「あや、……奥村さん……じゃあ」

 呼び方を戻して、少しだけ、とキスをしようと壁側にある彼の体に近づく。しかし、目を閉じた濱口の唇は、むぎゅっと奥村の掌におさえられてしまった。

「っ!」
「バカか、お前は!」

 仕事場で何考えてる、そう冷たい声で言い放った奥村は、濱口をきっと睨んだ。眼鏡の奥のきれいな瞳に、少し蔑むような色が見えて、濱口はぐっと押し黙る。

「っ! でも、キスぐらい……」
「ありえねえ……お前なあ! いい加減にしろ!」

 声を荒げた奥村に、びくっと濱口が揺れた。怯えてしまう。別に奥村自身は恐くはないのに、いや、そうじゃなくて、嫌われるんじゃないかと思うのが怖くなってきていて。
 そんな濱口に、奥村は少し黙り、大きな溜息をついた。ずきん……と胸がいたむ。だって、だって、オレは!と濱口は、全然個人的に会えてなかった奥村にたまっていた想いをぶちまけそうになった。

「礼人さん……だって、オレは恋人なんじゃねえの? 言ってもらえてないけど、オレ、そうだって思ってました。こんなに会えないの辛くて……キスくらいして確かめたい」
「場所考えろって言ってんだよ」
「だって……! つ、次いつ会えるかわかんねーのに……一週間前だってドタキャンだったし! そうだよ……っ、今日のお店だって、予約取り直してるんだぜ!? 次、どうすんの……っ」
「仕事だっつってんだろ。今忙しいのわかってんだろーが。……キャンセルはオレがしとくし、他の誰かと行くなら、オレが金もってやるから」
「! そういうことじゃなくて! そうじゃなくて! オレがすっごく楽しみにしてたってわかんねえの!? いきなりメールで、無理になった、だけで……っ、オレのこと、どうでもいいのかって思うだろ!?」

 構ってくれないにも程がある、と言う言葉をぐっと飲み込んで、沈黙の後に、震える声で、オレだって寂しいのに……と、呟いた。
 奥村はむっとして黙ってしまう。互いに長い沈黙をどちらが破るのか待っているまま時間が経つ。奥村が長い溜息をついて、仕事だって分かってるのに我が儘言うな、と苛立つ声で呟くのが先だった。

「お前がこんな聞き分けねえのバカだと思わなかった」
「……は? えっ!?」
「子供じゃねえんだ。これだけそばにいて……オレがどれだけ仕事を大事にしてるか、わかるだろ!」

 すたすたと会議室から出ていく奥村は少し乱れたネクタイを直し、濱口には着いてくるなという雰囲気を背中から撒き散らして歩いて行く。濱口は、その場に座り込み、あああ、もう! と大きな手のひらで顔を覆った。

(なんだよ! すげえむかつく!! 会いたいとかねえのかよ!! オレ、すげえ我慢してたのに! こんな風にキャンセル続いたら、オレとはもうダメなのかな、って思うに決まってるじゃねえか……!)

 イライラしながら部署に戻ると、席についた瞬間に先輩に呼ばれ、はい? と振り向くと相手が微妙な表情を浮かべた。

「なんだ恐い顔してぇ! 営業先で何かあったか?」
「いえ……違います。すみません」

 うわ、機嫌悪いの丸出しだったかも最悪、と濱口は笑おうとするが、どうにも笑顔が不自然になってしまう。先輩はそこまでは気付かず、ちょっと内緒話でもするように、彼の耳に唇を近づけた。

「あのさ、お前、今夜暇?」
「……」

 相手に言われて夜の予定の空白を思い出し、がっくりと項垂れてしまう。……暇ですよ、と答えるのが精一杯だった。
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