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2:年上上司の甘え方
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「あ。おはようございます」
「……おは……よ……」
「寝ててください。今おかゆでも作ろうかと思って準備してたところなんです」
ばたばたと準備をしていると、奥村が起きてきた。顔色がいいとは言えないが、昨日よりはマシに思う。その様に濱口はホッとした。
奥村はソファーに座ると、ブランケット羽織ったままぼんやりとテレビをつけていた。
「ここでいいです? ベッドで寝てなくて大丈夫……」
「……大丈夫」
うん、と奥村が言うのに、思わず無理しないでくださいね、と本音が漏れる。テレビでは休日の朝らしいのんびりしたニュースが流れていた。濱口は高村にできたてのおかゆを持っていく。
「はい、どうぞ」
「……これ、レトルトじゃないのか」
「あっ、勝手に米かりました! すみません!」
「いや、ありがとう……」
ふわふわとした受け答えに心があたたかくなる。少し熱めの粥をスプーンに掬い、ふうっとそれに唇を寄せている。その様がいつもとは全然違ってあまりにかわいらしい。
濱口はにこっと笑って奥村に話しかけた。
「あと、鍵借りていいですか? 念のため、解熱剤買ってきます」
「あ……そこに、一応……」
「あ。薬箱あるんだ? 意外……」
「……うるせぇ。そのぐらいあるよ」
「じゃあ、食べて、薬飲んで寝てください」
「……」
でかけなくていいとわかった濱口はエプロンをはずすと、薬箱をあさり、奥村の隣に座って、彼が食べるのをじっと見つめていた。奥村がゆっくりと粥を口に運ぶ。
「うまい……」
「ははっ、ただのおかゆなのに」
よかった、と笑った濱口は薬の解熱剤の使用用法をみて、きっちりと三錠を瓶から出した。
おかゆをゆっくりと食べ、すぐに薬を飲んでぼうっとしていた奥村だったが、水を飲んでいるグラスを口につけたまま、少しだけ濱口を見つめていた。濱口はその、いつもよりずいぶん穏やかな、そして珍しい種類の視線に戸惑った。
「……その」
「?」
「……悪かった……な……甘えて……」
ああ、恥ずかしいんだ、とその表情の意味に気づくと、つられて赤くなってしまいそうになる。奥村は目尻から頬を赤く染めていて、濱口の反応を伺うように、いつになく遠慮がちな視線を送ってきた。それに思わず声が上ずる。
「い、いいんすよ……すみません、泊まっちゃって……」
ソファーいたんだかも……、と言う濱口に、そんなの気にすんなよ、と奥村は笑ってくれた
「熱、どのくらいあるのかな。体温計はどこですか?」
「……ない」
「あー……」
失礼します、と濱口は言うと、彼の額に手をあてて、昨日との体温差をはかる。けれど、自分の手もなんだか熱い気がしてあんまり正確ではないような気がした。
「昨日よりはだいぶましかもなぁ……でもまだありますね」
「……」
こてんっとソファーにもたれかかってる奥村は、本当にぼうっとしてしまっているのだろう、膝をまげてて子供みたいに座っていて、そっかあ……と膝に唇をつけていた。なんだか、自分が熱を出したことがよほど悔しいようだ。
「ね、眠い、ですか……っ?」
「……うん」
「オレ……今日、ついてましょうか? 欲しいもの買ってきますよ」
「……」
無言の彼に、外した? と不安になる。あまりに出過ぎたいい方だっただろうか。
(……こんな時に返事きけるわけねえし……)
相手は弱ってるし! と、一瞬、悪いことを妄想しそうになる。寝顔を見ていて、なんだか変な気分になったのは否めないし、バカか、オレ! 相手は病人! と、頭を振る。そんな変な濱口を、奥村は不思議そうに見ているが、その視線が耐えられなくて、答えがないのに焦って、濱口は返事を急いでしまった。
「……か、……」
「……?」
「彼女さんとか、呼ぶんだったら……か、えります……けど」
「あ。おはようございます」
「……おは……よ……」
「寝ててください。今おかゆでも作ろうかと思って準備してたところなんです」
ばたばたと準備をしていると、奥村が起きてきた。顔色がいいとは言えないが、昨日よりはマシに思う。その様に濱口はホッとした。
奥村はソファーに座ると、ブランケット羽織ったままぼんやりとテレビをつけていた。
「ここでいいです? ベッドで寝てなくて大丈夫……」
「……大丈夫」
うん、と奥村が言うのに、思わず無理しないでくださいね、と本音が漏れる。テレビでは休日の朝らしいのんびりしたニュースが流れていた。濱口は高村にできたてのおかゆを持っていく。
「はい、どうぞ」
「……これ、レトルトじゃないのか」
「あっ、勝手に米かりました! すみません!」
「いや、ありがとう……」
ふわふわとした受け答えに心があたたかくなる。少し熱めの粥をスプーンに掬い、ふうっとそれに唇を寄せている。その様がいつもとは全然違ってあまりにかわいらしい。
濱口はにこっと笑って奥村に話しかけた。
「あと、鍵借りていいですか? 念のため、解熱剤買ってきます」
「あ……そこに、一応……」
「あ。薬箱あるんだ? 意外……」
「……うるせぇ。そのぐらいあるよ」
「じゃあ、食べて、薬飲んで寝てください」
「……」
でかけなくていいとわかった濱口はエプロンをはずすと、薬箱をあさり、奥村の隣に座って、彼が食べるのをじっと見つめていた。奥村がゆっくりと粥を口に運ぶ。
「うまい……」
「ははっ、ただのおかゆなのに」
よかった、と笑った濱口は薬の解熱剤の使用用法をみて、きっちりと三錠を瓶から出した。
おかゆをゆっくりと食べ、すぐに薬を飲んでぼうっとしていた奥村だったが、水を飲んでいるグラスを口につけたまま、少しだけ濱口を見つめていた。濱口はその、いつもよりずいぶん穏やかな、そして珍しい種類の視線に戸惑った。
「……その」
「?」
「……悪かった……な……甘えて……」
ああ、恥ずかしいんだ、とその表情の意味に気づくと、つられて赤くなってしまいそうになる。奥村は目尻から頬を赤く染めていて、濱口の反応を伺うように、いつになく遠慮がちな視線を送ってきた。それに思わず声が上ずる。
「い、いいんすよ……すみません、泊まっちゃって……」
ソファーいたんだかも……、と言う濱口に、そんなの気にすんなよ、と奥村は笑ってくれた
「熱、どのくらいあるのかな。体温計はどこですか?」
「……ない」
「あー……」
失礼します、と濱口は言うと、彼の額に手をあてて、昨日との体温差をはかる。けれど、自分の手もなんだか熱い気がしてあんまり正確ではないような気がした。
「昨日よりはだいぶましかもなぁ……でもまだありますね」
「……」
こてんっとソファーにもたれかかってる奥村は、本当にぼうっとしてしまっているのだろう、膝をまげてて子供みたいに座っていて、そっかあ……と膝に唇をつけていた。なんだか、自分が熱を出したことがよほど悔しいようだ。
「ね、眠い、ですか……っ?」
「……うん」
「オレ……今日、ついてましょうか? 欲しいもの買ってきますよ」
「……」
無言の彼に、外した? と不安になる。あまりに出過ぎたいい方だっただろうか。
(……こんな時に返事きけるわけねえし……)
相手は弱ってるし! と、一瞬、悪いことを妄想しそうになる。寝顔を見ていて、なんだか変な気分になったのは否めないし、バカか、オレ! 相手は病人! と、頭を振る。そんな変な濱口を、奥村は不思議そうに見ているが、その視線が耐えられなくて、答えがないのに焦って、濱口は返事を急いでしまった。
「……か、……」
「……?」
「彼女さんとか、呼ぶんだったら……か、えります……けど」
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