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2:年上上司の甘え方
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「……いい」
ふらついたのをおさえると熱でもあるのかと思った。体が熱い。思わず、熱あるのになに言ってるんですか、と言う。
「あれ? 奥村さんどうしたの?」
「いえ、なんでもありませ……」
「芳樹くん、奥村さん、ちょっと熱っぽい。オレ送ってくから、皆によろしく言っといてくれねえ?」
「えっ!? そうなの? 気づかずごめんなさい」
「いえ、大丈夫ですから!」
違いますと言いたそうだった奥村を制して、濱口が彼の額に手をあてる。その手のひらでは熱が感じられた。
「うん、超熱あるや。オレ車まわしてくるから、お水だけあげておいて」
「ほんと? 上で横になります?」
「いえっ!! そんなご迷惑をおかけするわけにはいきません!」
「じゃあ、濱口に送ってもらおっか……週明け、また色々あるし、ゆっくり体を休めてくださいね?」
「は……はい……」
ナイス芳樹くんっ!! と奥村に言うことをきかせた親友に感謝して、濱口は自宅近くにおいてある車をとりにダッシュで向かう。少し冷えた空気の中、走っていくのに心が急いた。
*
「大丈夫ですか?」
「……悪い。平気だと思ったんだが」
車でぐったりしてしまった奥村は、本当に熱がでてきたのか、ぼうっとした目線のまま助手席に乗っていた。濱口が彼の部屋まで抱えて送る。
寝室までついていくと、彼はばたりとベッドに倒れ込んだ。それをみて濱口は心配でこちらまで胸が苦しくなってしまう。
「寝ててください。奥村さん、さっき酒ばっか飲んで飯食ってないでしょ。なんか消化にいいもん入れて……ああ、でも酒飲んでたら薬だめだな……」
お水、もってきますからね、と言うと、寝転がったままの奥村が申し訳なさそうに顔を濱口に向ける。
「悪い……お前には世話ばっかかけてるな……」
滅多にみない表情に、濱口は、いえ!! と元気よく答えると、キッチンに入って、口元をおさえた。こんな状況なのににやけそうになってしまうのが情けない。
(やっばい!! 弱ってんのに……かわいいなあ……!)
ぼうっと惚けるのを、だめだめ、と切り替えて、水をもっていこうとする。寝室のドアをあけるときにどきどきしてしまった。失礼します、と入ると、彼は着替えている途中で思わず息をのむ。
「っ! す、みませ……っ!」
「悪い。タオル、そこにあるの……とってくれ」
「は、い……」
奥村は特に気にする様子もなく、上半身裸にネックレスだけの状態で、部屋着にのそのそと着替えていた。見える背中や胸のあたりを、いけないと思いつつもじっとみてしまうのは仕方がない。
(エロ……っ)
「……熱なんか、今日出かける時にはなかったのに」
子供みたいにぶつぶつと言い訳じみたことを言う彼がかわいかった。おそらく、格好悪いと思っているんだろう。それは強がりな上司のことを少しはわかっているつもりで、濱口はにこりとほほえんだ。
「そうですね。ちょっと気が緩んだんですよ。寝たら治りますって」
「……」
無言のまま、ごそごそとベッドに入った奥村はしょんぼりしているようにも見える。なんだかすねた子供のようでかわいらしい。
「なんかおなかにいれて、薬飲めれば楽かもですけど。お酒、結構飲みました?」
「今日は……そんなに……」
でも、ちょっと気持ち悪くなっちまうかも……、と言う奥村は、完全に濱口に世話をしてもらうモード。濱口にはそれがとにかくうれしい。
濱口は自分のテンションが一気にあがっていくのを感じた。寝ててくださいね、と念押しのように言うと、とりあえず冷やすものかな……といいながら、奥村の額にもう一度手を当てた。
「じゃあ、タオルとか冷やしてもってくるんで……」
「……ん」
「え?」
「……ごめん……ありがと……な」
毛布から目だけをちょこんっとだし、裾から恥ずかしそうに手をだしている奥村が、じっとその目で濱口を見つめてくる。いいえ、ちょっと待っててくださいね、と濱口は答えると、急いでばたんっと寝室のドアを閉め廊下にでて、ずるずるとその場に座り込んだ。
(……っ!! ぁあ!! なんっだよ、あれ!! なんだよ! かわいいんだよ、ちっくしょう!!)
魔性か、魔性なのか!? ばくばくと壊れそうなくらいに大きな音で鳴り出す心臓をおさえ、バスルームでタオルを探し、それを冷やして寝室のドアをそっと開いた。
もうすっかり安心してしまったのか、奥村はすでに眠りについていた。額と喉元ににじんでいる汗とをちょっとふいて、彼の寝顔を見つめる。
(熱、高いなあ。起きたら、解熱剤……ああ。そうだ。薬あるのかな。ちょっと鍵拝借して買いに行くか? いや、でもそれはよくないし……目さましたらきいてみるか)
最初、この人に出会ったとき、こんな風になるなんて想像もしていなかった。奥村は濱口の上司で、かっこよくて、仕事ができて、神秘的で、プライベートなんていっさいわからなくて。今日の彼を思い出して、さっきとった写真をあとで見直そう、と思う自分は、相当おかしくなってるんだな、と一人で苦く笑ってしまう。
(かわいい……なあ……うう……弱ってるの、かわいいっ!)
そんなことを思ってしまうのもなんだかすごくだめなように思えた。ああ、けれど……
(あー、おさえこんで、ちゅーしてえ……うう、熱くてきもちいいかも……ふにゅふにゅかも……うう……!)
ごめんなさい、しんどいのにそんなことを思ってしまいました、と奥村のベッドの横に座ったまま、手をあわせて謝る。
しないけど、と思いつつ、ちょっとだけ頬に手を添えた。まだ熱い。
熱、早く下がるといいな……と思いながら、濱口はシーツに手をおいて、じっと奥村の寝顔をみつめていた。
ふらついたのをおさえると熱でもあるのかと思った。体が熱い。思わず、熱あるのになに言ってるんですか、と言う。
「あれ? 奥村さんどうしたの?」
「いえ、なんでもありませ……」
「芳樹くん、奥村さん、ちょっと熱っぽい。オレ送ってくから、皆によろしく言っといてくれねえ?」
「えっ!? そうなの? 気づかずごめんなさい」
「いえ、大丈夫ですから!」
違いますと言いたそうだった奥村を制して、濱口が彼の額に手をあてる。その手のひらでは熱が感じられた。
「うん、超熱あるや。オレ車まわしてくるから、お水だけあげておいて」
「ほんと? 上で横になります?」
「いえっ!! そんなご迷惑をおかけするわけにはいきません!」
「じゃあ、濱口に送ってもらおっか……週明け、また色々あるし、ゆっくり体を休めてくださいね?」
「は……はい……」
ナイス芳樹くんっ!! と奥村に言うことをきかせた親友に感謝して、濱口は自宅近くにおいてある車をとりにダッシュで向かう。少し冷えた空気の中、走っていくのに心が急いた。
*
「大丈夫ですか?」
「……悪い。平気だと思ったんだが」
車でぐったりしてしまった奥村は、本当に熱がでてきたのか、ぼうっとした目線のまま助手席に乗っていた。濱口が彼の部屋まで抱えて送る。
寝室までついていくと、彼はばたりとベッドに倒れ込んだ。それをみて濱口は心配でこちらまで胸が苦しくなってしまう。
「寝ててください。奥村さん、さっき酒ばっか飲んで飯食ってないでしょ。なんか消化にいいもん入れて……ああ、でも酒飲んでたら薬だめだな……」
お水、もってきますからね、と言うと、寝転がったままの奥村が申し訳なさそうに顔を濱口に向ける。
「悪い……お前には世話ばっかかけてるな……」
滅多にみない表情に、濱口は、いえ!! と元気よく答えると、キッチンに入って、口元をおさえた。こんな状況なのににやけそうになってしまうのが情けない。
(やっばい!! 弱ってんのに……かわいいなあ……!)
ぼうっと惚けるのを、だめだめ、と切り替えて、水をもっていこうとする。寝室のドアをあけるときにどきどきしてしまった。失礼します、と入ると、彼は着替えている途中で思わず息をのむ。
「っ! す、みませ……っ!」
「悪い。タオル、そこにあるの……とってくれ」
「は、い……」
奥村は特に気にする様子もなく、上半身裸にネックレスだけの状態で、部屋着にのそのそと着替えていた。見える背中や胸のあたりを、いけないと思いつつもじっとみてしまうのは仕方がない。
(エロ……っ)
「……熱なんか、今日出かける時にはなかったのに」
子供みたいにぶつぶつと言い訳じみたことを言う彼がかわいかった。おそらく、格好悪いと思っているんだろう。それは強がりな上司のことを少しはわかっているつもりで、濱口はにこりとほほえんだ。
「そうですね。ちょっと気が緩んだんですよ。寝たら治りますって」
「……」
無言のまま、ごそごそとベッドに入った奥村はしょんぼりしているようにも見える。なんだかすねた子供のようでかわいらしい。
「なんかおなかにいれて、薬飲めれば楽かもですけど。お酒、結構飲みました?」
「今日は……そんなに……」
でも、ちょっと気持ち悪くなっちまうかも……、と言う奥村は、完全に濱口に世話をしてもらうモード。濱口にはそれがとにかくうれしい。
濱口は自分のテンションが一気にあがっていくのを感じた。寝ててくださいね、と念押しのように言うと、とりあえず冷やすものかな……といいながら、奥村の額にもう一度手を当てた。
「じゃあ、タオルとか冷やしてもってくるんで……」
「……ん」
「え?」
「……ごめん……ありがと……な」
毛布から目だけをちょこんっとだし、裾から恥ずかしそうに手をだしている奥村が、じっとその目で濱口を見つめてくる。いいえ、ちょっと待っててくださいね、と濱口は答えると、急いでばたんっと寝室のドアを閉め廊下にでて、ずるずるとその場に座り込んだ。
(……っ!! ぁあ!! なんっだよ、あれ!! なんだよ! かわいいんだよ、ちっくしょう!!)
魔性か、魔性なのか!? ばくばくと壊れそうなくらいに大きな音で鳴り出す心臓をおさえ、バスルームでタオルを探し、それを冷やして寝室のドアをそっと開いた。
もうすっかり安心してしまったのか、奥村はすでに眠りについていた。額と喉元ににじんでいる汗とをちょっとふいて、彼の寝顔を見つめる。
(熱、高いなあ。起きたら、解熱剤……ああ。そうだ。薬あるのかな。ちょっと鍵拝借して買いに行くか? いや、でもそれはよくないし……目さましたらきいてみるか)
最初、この人に出会ったとき、こんな風になるなんて想像もしていなかった。奥村は濱口の上司で、かっこよくて、仕事ができて、神秘的で、プライベートなんていっさいわからなくて。今日の彼を思い出して、さっきとった写真をあとで見直そう、と思う自分は、相当おかしくなってるんだな、と一人で苦く笑ってしまう。
(かわいい……なあ……うう……弱ってるの、かわいいっ!)
そんなことを思ってしまうのもなんだかすごくだめなように思えた。ああ、けれど……
(あー、おさえこんで、ちゅーしてえ……うう、熱くてきもちいいかも……ふにゅふにゅかも……うう……!)
ごめんなさい、しんどいのにそんなことを思ってしまいました、と奥村のベッドの横に座ったまま、手をあわせて謝る。
しないけど、と思いつつ、ちょっとだけ頬に手を添えた。まだ熱い。
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