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1:年上上司の口説き方
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何、と状況を飲み込めないまま、目を開くと、長い睫毛と伏せた目尻が見え、そして、少し離れたそれがゆっくりと開かれていく。深い碧色がじっと濱口の目を見つめていた。
「……え……っ……」
「……わりィ」
ちょっと我慢できなかった、そう言った奥村は濱口のすぐ傍で微笑む。嘘だ、と目を見開く部下の様を見ておかしそうに笑うのが幼い。濱口は信じられない想いとともに、離してはいけないという本能からか、自然と手を彼の頬から耳に添える。
「おく……むら、さ……」
「……ん?」
「目の色……そんな、深い碧色なん、です、ね……」
「……ああ」
そっか……コンタクトしてねえ……と奥村が言って離れそうなのを、濱口は必死で引き止める。
「いっ……おま……体勢きついんだから……」
「す、みませ……っ!」
でも……と濱口はまだ現実感のわかない感覚に惚けながら、もう一回いいですか……、と口にだしていた。一瞬止まった奥村は、濱口のすぐ傍で笑い、少し意地悪く、いいぜ? と唇の端をあげる。
待てを解かれたみたいに、濱口が唇を重ねると、小さな音をたて応えてくる。濡れた音に舌をあわせ、捻りあった不器用な体勢で、互いの息を求め合った。
「バカ……ッ……がっつく……なって……」
「だって……気持ち、い……」
「……んな、いいもんでも、……んっ!」
「……煙草の味……しないんですね……?」
キスの合間にかわされる他愛もない会話に笑い、奥村は、帰国してからまだ吸ってねえな……と、瞳を閉じてキスを待ちながら言う。
「だからか。急に口寂しくなって血迷ったな、オレも」
「……ひっでぇ」
煙草がわりですか、オレ、と言い啄むようなキスを繰り返す。舌を絡めて、でも、深くしようと近づいたら逃げられて……ずりぃよ、と濱口は思いながらも、翻弄されるのすら心地よかった。相当バカになっていることは自覚していても……止まらない。
はあ、という溜息と共に体を離され、惚けたままにじっと上司を見つめると、口元をおさえた彼が、もう代わりになんねえからやめとく、と呟く。耳が赤いのを見て、かあっとこちらまで体が熱くなった。
「……る、から」
「え……?」
「……オレ、日本に……残るから」
「っ! えっ!?」
まだ誰にも言うなよ、と奥村は言うと、車の扉を開けさっと降り、トランク開けろ、と指示をする。濱口は慌ててそれを開けるが、車の後ろで荷物を出している彼に駆け寄り、本当ですか!? と詰め寄った。奥村はそれには応えず、今日はお疲れさま、と濱口の体を避ける。
「あのっ……!じゃあ、オレへの返事……っ!」
引き止めたものの、奥村は濱口の方は振り向かず、少し黙った後、それは……と小さく呟いた。
「お前の働き次第、だろ?」
じゃあ、また明日な、と奥村は駐車場のエレベーターに向かってすたすたと歩いていった。クラシックなスーツケースが静かな音を立て、濱口から遠ざかっていく。
濱口はふらふらと車に戻り、運転席に座り込んでしまう。そりゃーねーっすよ……と言いながらも、嬉しさで口元が緩んでしまうのは仕方がなかった。
翌日、二人の勤めるセンチュリーコーポレーションは新社長の就任を発表するとともに、フランス・日本の両本社制強化のため、新社長直属の経営企画室を日本本社に置くことを正式に広報発表した。
——新設経営企画室長 奥村礼人の名前とともに。
「……え……っ……」
「……わりィ」
ちょっと我慢できなかった、そう言った奥村は濱口のすぐ傍で微笑む。嘘だ、と目を見開く部下の様を見ておかしそうに笑うのが幼い。濱口は信じられない想いとともに、離してはいけないという本能からか、自然と手を彼の頬から耳に添える。
「おく……むら、さ……」
「……ん?」
「目の色……そんな、深い碧色なん、です、ね……」
「……ああ」
そっか……コンタクトしてねえ……と奥村が言って離れそうなのを、濱口は必死で引き止める。
「いっ……おま……体勢きついんだから……」
「す、みませ……っ!」
でも……と濱口はまだ現実感のわかない感覚に惚けながら、もう一回いいですか……、と口にだしていた。一瞬止まった奥村は、濱口のすぐ傍で笑い、少し意地悪く、いいぜ? と唇の端をあげる。
待てを解かれたみたいに、濱口が唇を重ねると、小さな音をたて応えてくる。濡れた音に舌をあわせ、捻りあった不器用な体勢で、互いの息を求め合った。
「バカ……ッ……がっつく……なって……」
「だって……気持ち、い……」
「……んな、いいもんでも、……んっ!」
「……煙草の味……しないんですね……?」
キスの合間にかわされる他愛もない会話に笑い、奥村は、帰国してからまだ吸ってねえな……と、瞳を閉じてキスを待ちながら言う。
「だからか。急に口寂しくなって血迷ったな、オレも」
「……ひっでぇ」
煙草がわりですか、オレ、と言い啄むようなキスを繰り返す。舌を絡めて、でも、深くしようと近づいたら逃げられて……ずりぃよ、と濱口は思いながらも、翻弄されるのすら心地よかった。相当バカになっていることは自覚していても……止まらない。
はあ、という溜息と共に体を離され、惚けたままにじっと上司を見つめると、口元をおさえた彼が、もう代わりになんねえからやめとく、と呟く。耳が赤いのを見て、かあっとこちらまで体が熱くなった。
「……る、から」
「え……?」
「……オレ、日本に……残るから」
「っ! えっ!?」
まだ誰にも言うなよ、と奥村は言うと、車の扉を開けさっと降り、トランク開けろ、と指示をする。濱口は慌ててそれを開けるが、車の後ろで荷物を出している彼に駆け寄り、本当ですか!? と詰め寄った。奥村はそれには応えず、今日はお疲れさま、と濱口の体を避ける。
「あのっ……!じゃあ、オレへの返事……っ!」
引き止めたものの、奥村は濱口の方は振り向かず、少し黙った後、それは……と小さく呟いた。
「お前の働き次第、だろ?」
じゃあ、また明日な、と奥村は駐車場のエレベーターに向かってすたすたと歩いていった。クラシックなスーツケースが静かな音を立て、濱口から遠ざかっていく。
濱口はふらふらと車に戻り、運転席に座り込んでしまう。そりゃーねーっすよ……と言いながらも、嬉しさで口元が緩んでしまうのは仕方がなかった。
翌日、二人の勤めるセンチュリーコーポレーションは新社長の就任を発表するとともに、フランス・日本の両本社制強化のため、新社長直属の経営企画室を日本本社に置くことを正式に広報発表した。
——新設経営企画室長 奥村礼人の名前とともに。
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