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1:年上上司の口説き方
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「まだ正式には言われてねえよ。まあ、そのうちわかるだろ」
「っ! 内示があれば、やっぱり行くってことですか!?」
「まあ、言われればな」
オレは芳樹社長の近くにいてえし……、と言いながらコーヒーを飲む彼を見て、どくどくと心臓が高鳴っていく。こんなに、あの幼馴染を羨ましく思ったことはない。
海外内示は一ヶ月前、部内発表はおそらく二週間前、そうしたら、きっともう彼は日本には戻らないかもしれなくて。明後日からもまた出張でいないし、そうじゃなくても、もうゆっくりと話す機会さえないかもしれない、そう思うと、今この瞬間しか話せないような、そんな気すらしてくる。黙ってしまった濱口の沈黙に、奥村は少し不思議に思いながら、コーヒーを啜った。
「まあ、部長職だって、うちは三年くらいでローテあるんだし、お前とは一年だったけど、結構見てやれたと思ってるからな」
出来の悪いヤロウだったけど、と濱口を見て笑う顔に見蕩れてしまう。ぼうっと濱口が見つめてくるので、なんだ?と見つめ返すと、ソファーの上でぎゅっと手を握られているのが奥村にもわかった。汗ばんだ大きな掌で、こいつ手ぇでけえんだなあなんて思いながらも、なんだよ、もうチョコとらねえって、と笑いかけると、小さな声で、違います、と濱口が呟く。声が震えていた。
「好きです。オレ、奥村部長のこと、好きだから……フランス行かれるの、寂しい……です」
「あ? ああ、いや、慕ってくれるのは嬉しいけど、異動ばっかはなあ……」
「そうじゃ……なくて……っ」
何? と不思議そうな表情を浮かべる奥村の顔を濱口は見つめた。自分は今どんな顔をしているんだろう。真っ赤で、でももしかしたら暗くてあんまり見えてないかもしれなくて……本当に気付いてねえの? と思うが、上司の表情はいたって普通の疑問形だ。
(男同士だとか、上司だとか、全然つりあってねえとか、全部わかってるけど、すげえもやもや考えてたけど……でも……)
これは、やっぱり、いわゆる、恋なんじゃないかと思っていた。ぐるぐるする。憧れが違う方向に行ってしまったんじゃとか、色々と考えたけれど、でも……
「濱口……? どうした」
じっと見つめてくる瞳も、一生懸命に仕事している様も、冷静なところも、ちょっと一歩踏み込んだら、くしゃって子供みたいに笑ってくれるところも、全部、
(恋、だろ……!)
指先がその銀髪に触れた。いつもは隠れている耳にピアスは二つ。もう一度好きだとちゃんと言えたと思う。え、と開いた唇の間を埋めるように、ゆっくりと触れた。
音を立ててすぐに離したそれの後、また近づけようとしたら、ばんっと弾くように手を叩かれた。
「っ! 内示があれば、やっぱり行くってことですか!?」
「まあ、言われればな」
オレは芳樹社長の近くにいてえし……、と言いながらコーヒーを飲む彼を見て、どくどくと心臓が高鳴っていく。こんなに、あの幼馴染を羨ましく思ったことはない。
海外内示は一ヶ月前、部内発表はおそらく二週間前、そうしたら、きっともう彼は日本には戻らないかもしれなくて。明後日からもまた出張でいないし、そうじゃなくても、もうゆっくりと話す機会さえないかもしれない、そう思うと、今この瞬間しか話せないような、そんな気すらしてくる。黙ってしまった濱口の沈黙に、奥村は少し不思議に思いながら、コーヒーを啜った。
「まあ、部長職だって、うちは三年くらいでローテあるんだし、お前とは一年だったけど、結構見てやれたと思ってるからな」
出来の悪いヤロウだったけど、と濱口を見て笑う顔に見蕩れてしまう。ぼうっと濱口が見つめてくるので、なんだ?と見つめ返すと、ソファーの上でぎゅっと手を握られているのが奥村にもわかった。汗ばんだ大きな掌で、こいつ手ぇでけえんだなあなんて思いながらも、なんだよ、もうチョコとらねえって、と笑いかけると、小さな声で、違います、と濱口が呟く。声が震えていた。
「好きです。オレ、奥村部長のこと、好きだから……フランス行かれるの、寂しい……です」
「あ? ああ、いや、慕ってくれるのは嬉しいけど、異動ばっかはなあ……」
「そうじゃ……なくて……っ」
何? と不思議そうな表情を浮かべる奥村の顔を濱口は見つめた。自分は今どんな顔をしているんだろう。真っ赤で、でももしかしたら暗くてあんまり見えてないかもしれなくて……本当に気付いてねえの? と思うが、上司の表情はいたって普通の疑問形だ。
(男同士だとか、上司だとか、全然つりあってねえとか、全部わかってるけど、すげえもやもや考えてたけど……でも……)
これは、やっぱり、いわゆる、恋なんじゃないかと思っていた。ぐるぐるする。憧れが違う方向に行ってしまったんじゃとか、色々と考えたけれど、でも……
「濱口……? どうした」
じっと見つめてくる瞳も、一生懸命に仕事している様も、冷静なところも、ちょっと一歩踏み込んだら、くしゃって子供みたいに笑ってくれるところも、全部、
(恋、だろ……!)
指先がその銀髪に触れた。いつもは隠れている耳にピアスは二つ。もう一度好きだとちゃんと言えたと思う。え、と開いた唇の間を埋めるように、ゆっくりと触れた。
音を立ててすぐに離したそれの後、また近づけようとしたら、ばんっと弾くように手を叩かれた。
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