15 / 51
1:年上上司の口説き方
(15)
しおりを挟む
「まだ正式には言われてねえよ。まあ、そのうちわかるだろ」
「っ! 内示があれば、やっぱり行くってことですか!?」
「まあ、言われればな」
オレは芳樹社長の近くにいてえし……、と言いながらコーヒーを飲む彼を見て、どくどくと心臓が高鳴っていく。こんなに、あの幼馴染を羨ましく思ったことはない。
海外内示は一ヶ月前、部内発表はおそらく二週間前、そうしたら、きっともう彼は日本には戻らないかもしれなくて。明後日からもまた出張でいないし、そうじゃなくても、もうゆっくりと話す機会さえないかもしれない、そう思うと、今この瞬間しか話せないような、そんな気すらしてくる。黙ってしまった濱口の沈黙に、奥村は少し不思議に思いながら、コーヒーを啜った。
「まあ、部長職だって、うちは三年くらいでローテあるんだし、お前とは一年だったけど、結構見てやれたと思ってるからな」
出来の悪いヤロウだったけど、と濱口を見て笑う顔に見蕩れてしまう。ぼうっと濱口が見つめてくるので、なんだ?と見つめ返すと、ソファーの上でぎゅっと手を握られているのが奥村にもわかった。汗ばんだ大きな掌で、こいつ手ぇでけえんだなあなんて思いながらも、なんだよ、もうチョコとらねえって、と笑いかけると、小さな声で、違います、と濱口が呟く。声が震えていた。
「好きです。オレ、奥村部長のこと、好きだから……フランス行かれるの、寂しい……です」
「あ? ああ、いや、慕ってくれるのは嬉しいけど、異動ばっかはなあ……」
「そうじゃ……なくて……っ」
何? と不思議そうな表情を浮かべる奥村の顔を濱口は見つめた。自分は今どんな顔をしているんだろう。真っ赤で、でももしかしたら暗くてあんまり見えてないかもしれなくて……本当に気付いてねえの? と思うが、上司の表情はいたって普通の疑問形だ。
(男同士だとか、上司だとか、全然つりあってねえとか、全部わかってるけど、すげえもやもや考えてたけど……でも……)
これは、やっぱり、いわゆる、恋なんじゃないかと思っていた。ぐるぐるする。憧れが違う方向に行ってしまったんじゃとか、色々と考えたけれど、でも……
「濱口……? どうした」
じっと見つめてくる瞳も、一生懸命に仕事している様も、冷静なところも、ちょっと一歩踏み込んだら、くしゃって子供みたいに笑ってくれるところも、全部、
(恋、だろ……!)
指先がその銀髪に触れた。いつもは隠れている耳にピアスは二つ。もう一度好きだとちゃんと言えたと思う。え、と開いた唇の間を埋めるように、ゆっくりと触れた。
音を立ててすぐに離したそれの後、また近づけようとしたら、ばんっと弾くように手を叩かれた。
「っ! 内示があれば、やっぱり行くってことですか!?」
「まあ、言われればな」
オレは芳樹社長の近くにいてえし……、と言いながらコーヒーを飲む彼を見て、どくどくと心臓が高鳴っていく。こんなに、あの幼馴染を羨ましく思ったことはない。
海外内示は一ヶ月前、部内発表はおそらく二週間前、そうしたら、きっともう彼は日本には戻らないかもしれなくて。明後日からもまた出張でいないし、そうじゃなくても、もうゆっくりと話す機会さえないかもしれない、そう思うと、今この瞬間しか話せないような、そんな気すらしてくる。黙ってしまった濱口の沈黙に、奥村は少し不思議に思いながら、コーヒーを啜った。
「まあ、部長職だって、うちは三年くらいでローテあるんだし、お前とは一年だったけど、結構見てやれたと思ってるからな」
出来の悪いヤロウだったけど、と濱口を見て笑う顔に見蕩れてしまう。ぼうっと濱口が見つめてくるので、なんだ?と見つめ返すと、ソファーの上でぎゅっと手を握られているのが奥村にもわかった。汗ばんだ大きな掌で、こいつ手ぇでけえんだなあなんて思いながらも、なんだよ、もうチョコとらねえって、と笑いかけると、小さな声で、違います、と濱口が呟く。声が震えていた。
「好きです。オレ、奥村部長のこと、好きだから……フランス行かれるの、寂しい……です」
「あ? ああ、いや、慕ってくれるのは嬉しいけど、異動ばっかはなあ……」
「そうじゃ……なくて……っ」
何? と不思議そうな表情を浮かべる奥村の顔を濱口は見つめた。自分は今どんな顔をしているんだろう。真っ赤で、でももしかしたら暗くてあんまり見えてないかもしれなくて……本当に気付いてねえの? と思うが、上司の表情はいたって普通の疑問形だ。
(男同士だとか、上司だとか、全然つりあってねえとか、全部わかってるけど、すげえもやもや考えてたけど……でも……)
これは、やっぱり、いわゆる、恋なんじゃないかと思っていた。ぐるぐるする。憧れが違う方向に行ってしまったんじゃとか、色々と考えたけれど、でも……
「濱口……? どうした」
じっと見つめてくる瞳も、一生懸命に仕事している様も、冷静なところも、ちょっと一歩踏み込んだら、くしゃって子供みたいに笑ってくれるところも、全部、
(恋、だろ……!)
指先がその銀髪に触れた。いつもは隠れている耳にピアスは二つ。もう一度好きだとちゃんと言えたと思う。え、と開いた唇の間を埋めるように、ゆっくりと触れた。
音を立ててすぐに離したそれの後、また近づけようとしたら、ばんっと弾くように手を叩かれた。
6
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説

控えめカワイイ後輩クンにイケメンの俺が本気になる話
ずー子
BL
大学生BL。先輩×後輩。イケメン先輩が控えめカワイイ後輩男子にメロメロになっちゃって、テニサーの夏合宿の夜にモノにしようとする話です。終始ラブラブ。
大学3年の先輩×大学1年生のラブラブ話です。受クン視点も近々載せますね♡
私はこういう攻視点で受を「カワイイ」と悶えて本気でモノにするためになんでもしちゃう話がすきです。
お楽しみください!


年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる