【R18】年上上司のオトシ方

二久アカミ

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1:年上上司の口説き方

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(う、そ、だ、ろ……!)

 出勤してからもショックがとれない。いつもみたいに全力の笑顔で挨拶を返すこともできず、頭も全然働かない。稼働率は半分以下なのが確実だ。

(嘘だ、嘘だって、絶対起きてねえし! 気付いてねえから! それに、奥村部長がオレにあんなことするわけねえから!!)

 バカかオレ、頭おかしいんじゃねえの、ははっ!と自分で笑い飛ばしても虚しいだけだった。目覚めた時は呆然とベッドの中でかたまり、朝の生理現象に絶望した。

(違う、あの人がエロかっただけで、オレは……いや、そもそもエロいってなんだよ!オレ、そうじゃねえのに……!)

 おかしい、オレ絶対おかしい! とドキドキしながら、ここ数日悩まされている夢に溜息をつく。なんか夢に仕事場でてくるなーから始まって、やたら奥村部長の夢みるなーからちょっと憂鬱になって、そして今朝の夢だ。濱口は、まったく内容が頭に入ってきてくれない書類をじっと眺めながら、オレって……もしかして……とそこまで思い、続きにでそうな言葉を必死で掻き消す。

「あ、おい、濱口~」
「はい!?」
「なんだよ……今日、ぼうっとしてんなあ?」
「あ、すみません」

 先輩からいきなり声をかけられたことにドキドキしていると、今日、飲みにいかない? と言われる。是非ーとにこやかに答えて、酒飲んで忘れる! と思うが、まだ気分は晴れない。当の本人である部長は出張中で不在だ。知らない間に、久々に行こうかという話になり、男ばかり八人ほどで飲みに行くことになった。水曜日だし、おさえときましょうか、と店の手配だけをして、濱口は酒で忘れろ、忘れるんだ! と朝のショックな出来事を振り払うのに、ぶんぶんっと頭を振ってパソコンにまた向かった。





「でさ、やっぱり芳樹社長は超若いらしいぜ……?」
「噂じゃなかったんだなー。まあ、フランス本社の話だから」
「でも、日本人なんだってよ。候補者何人かいただろーに……」

 へえ、と全員が盛り上がっている話題の中、濱口はいつもとは違い静かに酒をのんでいた。仕事後に夕飯がわりに簡単に飲もうと言ったのだが、社内の噂で盛り上がってしまったのだ。
 最近の社内の話題の大半は近々にある社長交替に関してだ。何人もの候補がいたが、数ヶ月前から、最終候補はとんでもなく若い日本人らしいということは囁かれている。濱口はその相手、相馬芳樹と同級生であり、親友である。なので、今の話題は彼に撮っては少し遅れた感があったが、興味をひかれないものでもない。しかし、彼の頭の中ではずっと、今はいない上司に対する妄想が何を意味しているのかという自問自答が繰り返されていたので、そんな話題は酒の肴かBGMくらいにしか感じられなかった。

「そういやさ、その社長交替にあわせて経営企画が組織変更するって話」
「経営企画が組織変更ってどういうことだよ?」
「そりゃ、今は日本とフランスメインだけど、より世界規模にするかどっちに主力置くかとかそういう話じゃねえの?」
「へえ……じゃあ、奥村部長も動くのかな」
「えっ!?」

 ぼそっと出た先輩たちの言葉に、思わず濱口は反応した。この前のフランス行きの話など噂にもなっていないはずだ。だって、あれは相馬顧問に直接きいただけで……と頭の中をぐるぐるさせ始めると、ビールをあおった先輩が、濱口にはまだわかんねえかもしんねえけど、と社内のことを教えてくれる。

「奥村部長は次は経営企画にいくって話、ずっと前から出てんだよ。ただ、あの人、次期社長とは遠からぬ縁があるらしくて……今度決まった相馬さん……相馬顧問の息子さんに決まらなければ、経営に行く気はないって断言してたらしいから」
「なんか、相馬さんに決まらなきゃ、会社でてくかもって噂もあったよな。親戚とかじゃねえんだろ?」
「そうじゃねえみたいだけど。だから、社長が別だったらってことで、すごい金積まれて他からの引き抜きの話何本もあったって」
「まじかよ……すげえな……」

 まあ、うちも人の入れ替わり激しいけどさ……と言う少しの話のずれと共に、話題は一巡してまた奥村個人へと戻った。濱口はただただ酒を飲みながらそれをきくだけだ。

「奥村部長ってさあ、結婚とかしねえのかな」
「え? あの人が女いねえわけねえじゃん。生涯独身主義って歳でもないか……」
「オレ、フランスにいるらしいってきいたけど。パーティーですげえ綺麗な女連れてたって。女優さんみたいな」
「あれ、姉貴って噂じゃなかった?」
「えっ、奥村部長、お姉さんいんの!? うわー、絶対すげえ美人!ってか、彼女フランス人なんじゃねえの。ちょっとやそっとの美人じゃ、あの人に釣り合わないっていうか……」
「社内女子なんか無視だもんなあ……接待で会員制クラブに一緒にいったことあるんだけど、もうなんか……あしらい方とか一流すぎて、玄人でもおとせねえもん、あの人」

 うわ、ちょっと聞きたくない話題かも、と濱口がトイレに行くフリでもしようかと思った時、でもさ、とまた誰かが話し始める。

「確実に今度はフランスだよな。女いるなら絶対そうだろうし。こっちで浮いた話きかねえもん」
「女いるかはともかく、社長につきたきゃ……そりゃそうだろ。あの人、元々は学生時代まで向こうだって話」
「いや、中学くらいでこっちじゃなかったっけ?」
「そうなの?」
「まあ、経営で社長にメインで着く方ならフランスだよなあ。相馬さんも今は向こうだし」
「えー、でも、奥村部長の後って誰くんの? 誰がこれんの、あのポジション……誰もいねえだろ……」
「外から引き抜くんじゃねーの? 噂で紅林さんが来るってのもきいたけど……」
「まじか……オレら、死ぬしかねえじゃねえか……」
「うん、奥村部長も厳しいけど、紅林さんよりはなぁ」
「うん……」

 ちょっとした通夜のような雰囲気になるのは仕方がない。話題にでている紅林は社内でも相当有名な……部下がついてこれないワンマン上司ナンバーワンなのだ。そのカリスマ性からファンも相当多いが、部下になるのは中々恐ろしい。
 そんな話題で、ああでもない、こうらしい、そうらしい、と噂の域を出ないままの話題が延々と続けられた。謎な私生活を送っている上司に、誰も彼もが興味津々ではあるが、いざ面と向かって訊くことなどできないのだ。

 濱口はいつもより多めの酒を煽りながら、先輩に今日お前おとなしいな、と言われてしまう。ちょっと、しんどいんです、と苦い笑いをこぼすことしかできなかった。

 胸の痛みがじくじくと疼き、どうしても……その熱がおさまらなくて、頭がただ割れるように痛かった。
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