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1:年上上司の口説き方
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「奥村部長、どこが近いですか?」
濱口は奥村の家を確認すると、運転手にそこへ向かうよう伝えた。お前の家経由で帰っていい、という上司だったが、とりあえず送っていかなければ安心できない。今もまたちょっと車の揺れで辛そうにしているし、大丈夫なのかな、と思ったら、ぽすんっと肩に頭がのせられた。肩貸せ、という彼に素直にしたがっていると、あー情けねえ……と独り言がきこえてくる。
「やっぱり無理ですか? 家までもちます?」
「……平気だ」
「しんどいなら、どこかホテルでもとりましょっか? オレの実家に泊まってもらってもよかったんですけど……」
「お前、いつもそんな風に女口説いてんのか」
「いやっ! 普通に……」
奥村部長の家までまだ結構あるし、と、思わぬ返しに濱口が言葉を濁すと、相手が嬉しそうに笑った。子供をからかうような顔だな、と濱口は少しむくれる。
「お前さあ……」
「はい?」
「芳樹社長と結構仲よかったんだな」
「え? ああ、はい。そうッスね」
「最近全然お会いできてないんだよな……この前のフランス出張では、こっちに戻られててほとんど行き違いだったし……また今は向こうに戻られてるし」
「はあ……」
そうなんだ、と濱口は思いながら、ぼうっと奥村の顔に見蕩れていた。今夜は今まであんまり見たことがない表情の彼を多く見れている気がする。
(おもしろいな、この人……)
上司に思うには失礼な感想をいだきながら、じっと彼を見つめている。しかし、奥村は濱口の視線にこたえるよう見つめ返すと、お前……と言葉を飲んで、目尻を赤く染めた。
え、何これ、何? と、濱口がなんとも言えない気持ちに胸を高鳴らせていると、恥ずかしそうにしている奥村が写真とか、と言い出し、固まってしまう。
「……は?」
「社長の写真とかねえのか? 最近会った時のとか……近況が知りたい」
「いや、この前帰ってきてたってのも知らなかったから……あ。でも……」
だいぶ前のだけどあるかなあ……とスマホを検索していると、夏頃帰ってきた時に二人で撮った写真がたまたま残っていた。
「これ、とか? 一番新しいのだと」
その画面を上司に見せると、嬉しそうにそれを見て微笑むものだから、濱口はなんとも言えない複雑な気持ちに陥った。画面には濱口が腕を伸ばして撮った二人のツーショットがあるが、奥村は濱口など見ていないだろう。尊敬していた上司の知ってはいけない一面を見てしまったような気がする。
「社長……」
ぼうっと言う彼に、奥村部長は社長のこと好きなんですね、とさらっと訊くと、その答えではなく、一緒に働きたい、という言葉が返ってきた。
「お傍にいられれば……」
いいんだけどな……と言い、奥村はすうっと目を閉じた。濱口はじっとそれを見つめ、ぼそりと問いかけてしまう。
「フランス……行くんですか」
「フランス……?」
行きてぇな……、と奥村は目を閉じたまま笑う。少し、自嘲の色が見えたのは気のせいだろうか。すうっと寝入ってしまった彼に安心して、濱口は車の外の光の流れをぼんやりと見つめていた。
濱口は奥村の家を確認すると、運転手にそこへ向かうよう伝えた。お前の家経由で帰っていい、という上司だったが、とりあえず送っていかなければ安心できない。今もまたちょっと車の揺れで辛そうにしているし、大丈夫なのかな、と思ったら、ぽすんっと肩に頭がのせられた。肩貸せ、という彼に素直にしたがっていると、あー情けねえ……と独り言がきこえてくる。
「やっぱり無理ですか? 家までもちます?」
「……平気だ」
「しんどいなら、どこかホテルでもとりましょっか? オレの実家に泊まってもらってもよかったんですけど……」
「お前、いつもそんな風に女口説いてんのか」
「いやっ! 普通に……」
奥村部長の家までまだ結構あるし、と、思わぬ返しに濱口が言葉を濁すと、相手が嬉しそうに笑った。子供をからかうような顔だな、と濱口は少しむくれる。
「お前さあ……」
「はい?」
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「え? ああ、はい。そうッスね」
「最近全然お会いできてないんだよな……この前のフランス出張では、こっちに戻られててほとんど行き違いだったし……また今は向こうに戻られてるし」
「はあ……」
そうなんだ、と濱口は思いながら、ぼうっと奥村の顔に見蕩れていた。今夜は今まであんまり見たことがない表情の彼を多く見れている気がする。
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上司に思うには失礼な感想をいだきながら、じっと彼を見つめている。しかし、奥村は濱口の視線にこたえるよう見つめ返すと、お前……と言葉を飲んで、目尻を赤く染めた。
え、何これ、何? と、濱口がなんとも言えない気持ちに胸を高鳴らせていると、恥ずかしそうにしている奥村が写真とか、と言い出し、固まってしまう。
「……は?」
「社長の写真とかねえのか? 最近会った時のとか……近況が知りたい」
「いや、この前帰ってきてたってのも知らなかったから……あ。でも……」
だいぶ前のだけどあるかなあ……とスマホを検索していると、夏頃帰ってきた時に二人で撮った写真がたまたま残っていた。
「これ、とか? 一番新しいのだと」
その画面を上司に見せると、嬉しそうにそれを見て微笑むものだから、濱口はなんとも言えない複雑な気持ちに陥った。画面には濱口が腕を伸ばして撮った二人のツーショットがあるが、奥村は濱口など見ていないだろう。尊敬していた上司の知ってはいけない一面を見てしまったような気がする。
「社長……」
ぼうっと言う彼に、奥村部長は社長のこと好きなんですね、とさらっと訊くと、その答えではなく、一緒に働きたい、という言葉が返ってきた。
「お傍にいられれば……」
いいんだけどな……と言い、奥村はすうっと目を閉じた。濱口はじっとそれを見つめ、ぼそりと問いかけてしまう。
「フランス……行くんですか」
「フランス……?」
行きてぇな……、と奥村は目を閉じたまま笑う。少し、自嘲の色が見えたのは気のせいだろうか。すうっと寝入ってしまった彼に安心して、濱口は車の外の光の流れをぼんやりと見つめていた。
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