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1:年上上司の口説き方
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「なんでお前が相馬顧問と知り合いなんだ!?」
「いや……なんでも何も……」
濱口はいつもとは違う上司の表情に驚いていた。目の前の奥村は、少し興奮したように頬を紅潮させ、じっと濱口の方を見つめている。そんな上司に、家が近所なので、と答えると、彼はその瞳をまた大きくさせた。
「なんだと!? じゃあ、芳樹社長のことも知ってるのか!?」
「芳樹社長? ……ああ! 芳樹くんのこと……っすか?」
「芳樹くん!?」
「あ、いけね……相馬さんの……」
キッと睨んでくる上司に、しまった、と舌を出しそうになる。濱口と奥村の勤めている会社の社長、正確には次期社長内定者である相馬芳樹と濱口は、元々年の近い幼馴染だったのだ。
どうやら、奥村部長は芳樹くんのことを社長、ともう呼んでいるんだな……と濱口は察し、だから、相馬顧問のことも知ってるんですよ、とよそ向きの笑顔でこたえた。
「うちの実家が鰻屋やってまして。芳樹くん、あ……芳樹社長と相馬顧問は、まあ、近いということもあって、うちの常連のお客様だったんですよ」
幼馴染みのことを話すのに、敬語がよくわからなくなる。芳樹くん本人を目の前にしたらゆるんじまいそう……このままだと奥村部長にボッコボコにされそうだな……と濱口は心の中で思った。
しかし、一方の奥村はぶつぶつと何か呟いている。そうか……だから、羽間さんから濱口のことを……などときこえてきた。羽間というのは相馬家にいた教育係のことだろうか。相馬の家は厳しく、幼い頃から執事のような教育係がついていた。へえ、奥村部長、詳しいんだなーなどと思っていると、奥村は濱口に、お前今夜暇か?ときいてくる。
「え? ああ……えっと、そうですね。六時までは会議ですけど」
「七時にあがれるか?」
「ええ……まあ、資料などの急ぎはないので大丈夫ですが」
もしかして、飲みにでも連れて行ってくれるのかな、と期待で胸の奥が熱くなる。最近、奥村はフランスと行ったり来たりで忙しく、前ほどべったり濱口についてくれなくなった。まあ、それは濱口が独り立ちできている証拠でもあるのだが、奥村との仕事が一番やる気が出るので、濱口としては長く彼と居たい。
久しぶりにゆっくり話ができるのかも! などと思って口元を緩めていたら、何ニヤついてんだ? と眉間に皺を寄せた不機嫌な表情で怒られた。
「今夜、相馬顧問と会食がある。お前にも来てほしい」
「えっ!? オレがですか?」
「ああ、オレも久しぶりに長くお話するから、ガラじゃねえが緊張してんだよ。昔話でもしてくれれば、間も持って助かるんだが……。嫌か?」
オレも社長のことをききたいし、と言う奥村の頬が照れたように赤くなる。そんな上司の表情など見たことがなくて、一瞬惚けたが、じゃあ、ご一緒します、と答えると、上司がほっとした笑顔をこぼした。それだけでゴホウビでももらえたかのようになって、濱口は浮かれた気分で午後を過ごした。
「なんでお前が相馬顧問と知り合いなんだ!?」
「いや……なんでも何も……」
濱口はいつもとは違う上司の表情に驚いていた。目の前の奥村は、少し興奮したように頬を紅潮させ、じっと濱口の方を見つめている。そんな上司に、家が近所なので、と答えると、彼はその瞳をまた大きくさせた。
「なんだと!? じゃあ、芳樹社長のことも知ってるのか!?」
「芳樹社長? ……ああ! 芳樹くんのこと……っすか?」
「芳樹くん!?」
「あ、いけね……相馬さんの……」
キッと睨んでくる上司に、しまった、と舌を出しそうになる。濱口と奥村の勤めている会社の社長、正確には次期社長内定者である相馬芳樹と濱口は、元々年の近い幼馴染だったのだ。
どうやら、奥村部長は芳樹くんのことを社長、ともう呼んでいるんだな……と濱口は察し、だから、相馬顧問のことも知ってるんですよ、とよそ向きの笑顔でこたえた。
「うちの実家が鰻屋やってまして。芳樹くん、あ……芳樹社長と相馬顧問は、まあ、近いということもあって、うちの常連のお客様だったんですよ」
幼馴染みのことを話すのに、敬語がよくわからなくなる。芳樹くん本人を目の前にしたらゆるんじまいそう……このままだと奥村部長にボッコボコにされそうだな……と濱口は心の中で思った。
しかし、一方の奥村はぶつぶつと何か呟いている。そうか……だから、羽間さんから濱口のことを……などときこえてきた。羽間というのは相馬家にいた教育係のことだろうか。相馬の家は厳しく、幼い頃から執事のような教育係がついていた。へえ、奥村部長、詳しいんだなーなどと思っていると、奥村は濱口に、お前今夜暇か?ときいてくる。
「え? ああ……えっと、そうですね。六時までは会議ですけど」
「七時にあがれるか?」
「ええ……まあ、資料などの急ぎはないので大丈夫ですが」
もしかして、飲みにでも連れて行ってくれるのかな、と期待で胸の奥が熱くなる。最近、奥村はフランスと行ったり来たりで忙しく、前ほどべったり濱口についてくれなくなった。まあ、それは濱口が独り立ちできている証拠でもあるのだが、奥村との仕事が一番やる気が出るので、濱口としては長く彼と居たい。
久しぶりにゆっくり話ができるのかも! などと思って口元を緩めていたら、何ニヤついてんだ? と眉間に皺を寄せた不機嫌な表情で怒られた。
「今夜、相馬顧問と会食がある。お前にも来てほしい」
「えっ!? オレがですか?」
「ああ、オレも久しぶりに長くお話するから、ガラじゃねえが緊張してんだよ。昔話でもしてくれれば、間も持って助かるんだが……。嫌か?」
オレも社長のことをききたいし、と言う奥村の頬が照れたように赤くなる。そんな上司の表情など見たことがなくて、一瞬惚けたが、じゃあ、ご一緒します、と答えると、上司がほっとした笑顔をこぼした。それだけでゴホウビでももらえたかのようになって、濱口は浮かれた気分で午後を過ごした。
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