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1章:鬼狩りαはΩになる

5:行き詰まり

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 それから六日が経とうとしていた。なんということだろうか、あれ以来事件は起こらないし、捜査も何も進展がない。確かに事件の頻度としてはそこまで頻繁ではなかったが、今までののペースを考えると、そろそろ次の事件が起きてもおかしくない頃である。事件が起きないに越したことはないが、嵐の前の静けさのようで不気味でもあった。

 昼間は一般の捜査官に関係者の尾行を頼みつつ、アラタもあの店のキャバ嬢やスタッフの尾行をしていたが、どうにも候補者が絞り込めない……捜査は完全に行き先を見失っていた。

(警戒されたか……? やはりあの店のキャバ嬢の誰かが鬼だった……?)
 
 宙が鬼に気づいたように、向こうが宙に気づく可能性だってある。もちろん自分にもだ。
 歌舞伎町内で他の細かな事件もあって、ここ数日は深夜の取締りやパトロールに忙しかった。春先は鬼だけでなくおかしな輩が増えるのである。そのため、事件の未然防止の方にも人員が割かれるのだ。
 足止めを食らう感覚に苛立ちを覚えるが、このような時にこそ冷静に再度分析をかけなくてはいけない。何か見落としてはいないだろうか、と関係者の報告資料を見つめるが、どうにもキャバ嬢たちの関係は見えてこない。こういう時に……とアラタは宙のことを思い出した。
 
(匂いで分かる……彼の遺伝のようなものだろうか? 鬼喰いの噂は信じてないが、犯行現場以外に鬼であることが分かるのは本当に便利だな)
 
 不思議な男だ。そして腹立たしい男。研究所に鬼の匂いについてのことを尋ねてみたが、一般的な鬼は鬼の体・能力へ完全変化するのにある程度の時間がかかる。個体により違い、数十秒から一分ほどなのだが、変化し切るまでその特徴が現れることはなく、何かの反応が起きているとは考えにくいという答えであった。彼特有の能力なのだろうか。
 
(鬼狩りとしては鼻がきくのは有利だろうが……。そう言えば、彼の武器についてまだ連絡が来ていないな。研修から戻ってきたら携行武器の申請をしないといけないのに)
 
 アラタたちの所属する部署では鬼狩り用に特別武器の携行を許されている。鬼を狩るには特殊な呪術のかかった金属を使った銃が有効であるのだが、その銃は登録された者の指紋か虹彩認証で大きく変形するような特殊仕様になっているのだ。
 とはいえ、元の人間の力の加減もあるのでそこまで大型銃にはならない。変形の時間も少しかかるため、アラタは自分の機動力を優先し、中型変形銃を使用していた。それでも鬼狩りの中ではかなりパワータイプである。
 
(彼の体力次第だが、できれば討伐の時だけでも大きめに変形する銃を持って欲しいな……最近は大型に変身する鬼も増えているし)
 
 今までアラタが出会ってきた鬼や研究所からのレポートによると、鬼にはいくつか種類がある。
 大きく分けると二種。人型という小さな器に化けているが、本当は体自体が大きな化け物となる鬼。もう一つは見た目は全く人と変わらないが、特殊な能力を使う鬼である。アラタはそのどちらにも出会ったことがあるが、大型の鬼は完全変身するとなかなか武器が肌を通らず苦戦するのだ。
 
 そんな時、宙の研修先管理元である人事総務からのメールが届いた。指導者兼バディであるアラタの元には、参考までにとメールがCCで届いているのだが、アラタはそれをさっと読み込み、そして、デスクにいる野村部長のもとに向かう。呑気に耳かきなどをしている相手はアラタの剣幕に気づいただろうが動じてない。その机の前にアラタは立ちはだかり、メガネの位置を直して相手を見下した。
 
「部長、どういうことですか……?」
「ん? 何が~?」
「今、人事総務からきたメールです。部長承認済みだと聞きましたが?」
「ああ? うん。あれね! 通したよ。水本くんに武器はいらないから」
「どういうことでしょうか?」
 
 そう、水本宙の研修報告書に「武器携行は不要」と書かれていたのだ。
 
 合同研修では様々な知識や基礎ルールを学ぶだけでなく体力テストも主にしている。その時に鬼狩り部隊所属者は特異性を見出し、初期装備の特殊武器を決めることになっているのだが……。武器もなく鬼に対抗するなど愚の骨頂だ。何を考えているのか、とアラタは野村を睨んだ。しかし、相手は全く動じていない。
 
「本人が要らないって言ってるらしいからー。あ、体力テストはダントツ一位だったって。君の入学時のスコアと並ぶってすごいなあ」
「!!」
「いやあ、君たち二人のバディなんて楽しみだね☆明日からいよいよ本格始動だ!」
 
 そんな呑気なことをいう上司に呆れて、アラタは閉口するしかないのだった。
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