【R18】鬼狩りαは溺愛される

二久アカミ

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1章:鬼狩りαはΩになる

1:出会いは最悪

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***

 

(いた……!)
 
 渡辺アラタは目星をつけた被疑者を密かに追っていた。
 高い背を隠す様な猫背。暗くて陰鬱な髪の毛。そして血走った目と隠しきれていない牙……。末期の「鬼」だ。アラタはごくりと息をのんだ。

(いつ暴れだすかわからないな。刺激しないよう、気を付けないと)
 
 ここ数日、行方が分からなかった相手は今目の前を通っていったところだ。そして、一見「一般人に見える」売人から何かを受け取ると、それの中身も確認せずにまっすぐに進んでいく。
 新宿はもう夜の街へと姿をかえていて、誰もそんなことは気にしない。ただ、アラタは違った。
 
(よし。次の角で取り押さえてしまうか)
 
 今日は非番なのだが、このまま抑えて事情聴取だ。もともと彼にかかっているのは薬物疑惑ではなく殺人なのだが、こうなれば理由は何でもいい。よし、とその姿を追って路地裏に入った瞬間……

 相手が自分に向かって「飛んできた」。

「はっ!?」
 
 アラタは慌ててそれを避け、路地の壁にぶつかってのびているそれを呆然と見つめる。
 その姿はもう「鬼」へと変わっていた。しかし、その短い角はえぐられ、そして、顔面はぼこぼこに殴られた跡がある。この一瞬でいったい誰が……!?アラタはハッと人の気配に顔をあげる。
 路地奥にいる派手な髪色の男に気づいた。その男は失神している「鬼」をあざけり笑うと、アラタに近づき、指でつまんだ小さな袋を見せた。
 
「俺はこれにはキョーミないっすよ。おまわりさん♪」

 薬はやんないんで。あと、そいつ特殊なんで、警察連絡してもらえますぅ?
 
 そう言ってニッと笑う男に呆然とするも、アラタは完全に気をうしなった「鬼」と男に手錠をかけると、素早く応援要請をした。

「何するんっスか! 俺は「鬼」逮捕に協力したのに!」
「うるさい! 一般人は「鬼」など知らん!」

 怪しすぎる「一般人」にアラタは思わず自分の銃を抜く。すると、向こうはのんきに口笛を吹いて、はいはい、と手錠の繋がった手をあげたのだった。


 *

 
「……なんですか、【アレ】は?」
「まあまあ、渡辺くん。落ち着いてー?」
「失礼ですが、今回の件、私はお断りいたします」
「そんなぁ、困るよぉー!」

 目の前にいる部長の眉毛がへにゃっと下がる。この人の良さそうな顔に何度騙されてきたことか。
 渡辺アラタは大きな溜息をついて、「アレ」をちらっと見やった。その視線の先にはマジックミラー……越しの取り調べ室。机に足をのせて椅子を揺らしている男がいる。
 
 もういいじゃないっスかーと、こちらを見ながら話しているのは、水本宙《みなもと そら》というらしい。
 らしい、というのはアラタも先ほど彼について説明を受けたばかりだからだ。彼の身の上について現在知っていることは少ない。しかし、アラタは痛いほど頭を悩ませた。
 
「手帳もないうちに鬼狩りを単独で勝手にしてきたバカですよ? アレを私の相棒にしろって言うんですか?」
 
 15センチは上の場所から上司である野村を見下ろすが、相手はそれに臆することもなく、だってぇーとニコニコ続ける。
 
「君、得意でしょ? ああいう問題児」
「得意なわけないでしょう……」
 
 何を言っているんだ、とアラタは自分のメガネをぐっとおさえた。最近増えた眉間のシワがより一層濃くなってしまいそうだ。けれど、野村の方はまたまたぁと軽く返す。

「嘘ー。研修講師してくれたとき、誰からも評価抜群だったよぉー」
「そんな薄っぺらいお世辞には乗りませんよ。しかも「アレ」が今年の新人ってことは……例のあいつですよね。鬼喰いするって噂の……」
「あー。それはあくまで噂噂!ちょっと夜の街で暴れてた時期があるらしくってー。ま、今回もそれで君にしょっぴかれたわけだけど! あはは!」
「……笑い事ではありません」
 
 頭がいたい……とアラタは眉間に指を当て、はーっとでかい溜息をついた。
 この上司が一度決めたことを譲らないのは知っている。しかし、取り調べ室にいる当の本人はじっとこちらを見て「まだ話おわんないんスかー?」と言い出した。まるでこちら側の会話が聞こえているかのようだ。

 大きな瞳の色は色素が薄く紫がかっているようにも見えた。派手な髪色、ラフな格好。いつだってかっちりとしたスーツに身を包んでいる自分とは、真逆の人間であることは見た目からもよく分かる。
 
「そもそも私はもう一人で行動すると決めて……」
「もうその我儘にも一年半? つきあったんだからさー。基本は二人行動! そろそろ君も後進の育成!!」
「ぐっ……」
 
 頼むよ、と一押しされた背中で鏡の向こうの相手を見つめる。水本宙はじっとアラタの方を見つめていた。その目が全てを見透かしているようにも思える色をしていて、どきりとする。

 アラタは見えない鏡の裏で視線をそっと逸らすことしかできなかった。
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